見慣れない君との出会い
少し登場人物スポットライトを変えてみましょう
目が覚めると麻美の顔が目の前にあった。
まつ毛が長く、寝ていても分かる整った顔。
ずっと見てられると思いながら寝てしまう前のことを思い出す。
麻美に抱きついて甘えて…と思い出してくると大胆な事をしたと思い赤面した。
麻美にもすごく心配をかけてしまったと思いながら頭を優しく撫でる。
麻美はまだ気づかず寝続けている。
そろそろ起きようかと体を動かすと服に違和感があった。
その部分を見ると麻美が服を掴んでおりこれは暫く離してくれそうにないなと思い起きるのをやめた。
そして暫くぼんやりしているとまた眠気が襲ってきて無理に抗わずにそのまま目を閉じた。
そして次に目を覚ました時には麻美が僕の顔を覗き込んでいた。
いつもの優しい笑みと共におはようと一言呟いて頭を撫でられる。
こんな毎日が常に続けばいいのにと思いながら日常に戻っていった。
今日もいつも通り学校に向かう。
教室に着くと珍しく守と瀬奈が言い合いをしていた。
いつもはそんなに言い合うような2人では無いのに今日は随分とヒートアップしているらしい。
「そんなに言うことないだろっ!」
「あんたが考えないのが悪いんでしょ!」
そんな怒号が聞こえ周りもどうしていいか分からず戸惑っている。
とりあえず本人たちに話を聞いてみるしかなさそうだった。
「2人ともどうしたんだ?」
僕が声をかけると2人はこちらを見て口々に喧嘩の理由を言ってくる。
しかし2人で同時に話すため全く話が頭に入ってこない。
断片的に聞こえた話としては守が良かれと思ってやったことが瀬奈の反感を買っているくらいのことだろうか。
「とりあえずここだと目立ちすぎるから一旦離れよう」
2人をどうにか外に連れ出して話を聞く。
俺だけじゃ事態を収拾出来そうになかったので麻美にも来てもらった。
「それで結局何があったんだ?」
もう一度話を聞くと2人とも外に連れ出されて少し落ち着いたのかぽつりぽつりと話し始めた。
守曰く瀬奈がいつもと違って少し具合が悪そうに見えたらしい。
瀬奈は何ともないと最初の方は笑って返していたが少しずつ咳き込んだりしてきたので守が一緒に保健室に行こうと提案した。
最初の方は渋っていたが仕方ないとばかりに保健室に行くことになったのだがそれからもずっと守が心配して声をかけてくる。
そのタイミングで少しふらっとしていたのであまり話したくなく「少し黙ってて」と言ってしまったらしい。
それに対して守が過剰に反応して言い争いになったらしい。
それを聞いて大事にならなそうでよかったと思いながら2人を見つめるとさっきまで元気そうに見えた瀬奈が元気なさそうにしておりとりあえず麻美と一緒に保健室に行くことになった。
「少しは落ち着いたか?」
守に声をかけると少しバツが悪そうに目を逸らしながら首を縦に振る。
「ごめん、皆に迷惑かけた」
守はそういって顔を伏せる。
「気にするなよ、少し過剰だったみたいだけど心配してたことには変わりないんだろ?」
いつもは逆の立場になることが多いからか
少し違和感があるがたまにはこういうのもいいだろうと思い話を続ける。
「勿論、心配だったさ…他のやつだったらそんなことないのに何でだろうな」
それは恋なのではないかと言いそうになったが周りにそんなこと言われても守は絶対に認めないだろう。
だからこれだけは自分で気づいてくれと思い口を噤んだ。
「とりあえず話し合いが大事だな」
「そうだな、瀬奈ともっと話さないとな」
クラスに戻ると皆こっちを見た後に何事も無かったように雑談に戻ってくれた。
本当にいいクラスだと思う。
そして俺たち2人は自分の席に戻っていった。
瑠依と守が話している間に瀬奈と麻美も保健室で話していた。
「急に大きな声出して守と言い合ってたからびっくりしたわよ」
麻美はそのまま本題に切り出しながら瀬奈の顔を見つめる。
「本当にごめんなさい、あんなに言うつもりは無かったのだけど…」
瀬奈自身も少し驚いているらしく完全に元気をなくしている。
「珍しかったけど、クラスのみんな瀬奈があんな一面も持ってるって分かってくれたんじゃないかしら」
瀬奈はクラスの人気者で誰にも愛想がいいと思われているのは薄々気づいていたし今回そういう一面も知って少しづつイメージみたいなのが壊れて過ごしやすくなればいいと思う。
「でも、守が悪いのよ」
瀬奈は拗ねたようにこの場にいない守に恨み言を言う。
その姿が少し面白くて笑いそうになるが堪えて話の続きを促す。
瀬奈はさらに話し始めた。
「体調が悪いって気づいてくれたのは嬉しかったけど、みんなに目立つように言うからもう少し声を抑えて欲しかったの、保健室くらい自分で行けるし…」
結局、麻美を巻き込んじゃったわねと少し申し訳なさそうに言う。
「気にする必要はないわよ」
それでも少し凹んでいるように見える。
「守の事嫌いなの?」
私が何気ない一言を言うと俯いていた顔をあげて必死に否定した。
「そんなわけない!」
大きな声を上げた瀬奈に少しびっくりしながら少し静かにね?と宥めるように言う。
「ごめん…」
瀬奈は謝るばかりでしゅんとしている。
クラスの誰もこんな姿見たことないんだろうと思いながら頭をポンポンとしてみると少し落ち着いたらしい。瀬奈はぽつぽつと思ってることを話し始めた。
「守の事は嫌いじゃない…一緒にいても楽だし何かあれば助けてくれるし…今回は少しイラッとしたけど普段はそれすら思わないのに…」
話を聞いてると瀬奈は普段と考え方や体調が全然違っており混乱しているのがよく分かった。
「今日はこのまま休んだ方がいいかもね…」
私は瀬奈の姿を見てそう思った。
守と一緒にいるだけで上手くいかずに今日の二の舞になりそうと感じたからだ。
「そうね…」
瀬奈も思い当たる部分があるらしく私と同じ考えになったらしい。
「先生に言ってくるわ…」
ベッドから立ち上がろうとすると少しだけ瀬奈がよろけた。
それを見て今日は本当にダメそうだと思い先生の元に行くのを止める。
「私が行ってくるわ」
いつもなら譲らない瀬奈だけど今日は大人しい。
「悪いけど頼んでいいかしら」
申し訳なさそうにしながらお願いされる。
「任せて」
それだけ言って私は保健室から出た。
教室に向かいながらやらなきゃいけないことをまとめる。
先生に伝えて…荷物を持っていって…
と考えているうちに自分の教室に戻ってきた。
周りの人達は瀬奈の容態を聞きたいような顔をして様子を伺っていた。
その傍観者の後ろから守が現れて不安そうな顔で私を見る。
「瀬奈はっ!」
テンションが高くなりすぎて空回りしてるように見えた。
それを指摘しようとすると近くに居た瑠依が守に言う。
「少し落ち着きなよ、その剣幕だと麻美も話せない」
言葉少なく伝えながらも守もハッとした顔をすると1度深呼吸を始めた。
ある程度落ち着いてきたようで改めてわたしに尋ねた。
「瀬奈の調子はどう?」
「今日は調子悪いそうだから早退するみたいよ」
私は事実だけを伝えた。
「そっか…今日はもう会わない方がいいか?」
守も察しが悪いわけじゃない。
会わない方がいいのも分かっているはずだ。
それでも目は1度会って謝りたいと訴えている。
それでも私はその訴えを払い除ける。
「今日はやめた方がいいと思う」
守の視線が少しづつ下に下がる。
そして一言だけ呟いた。
「そっか…」
瑠依は何か言いたそうな雰囲気だったが私に配慮したのか何も言わなかった。
「私は瀬奈に荷物だけ渡してくるね」
そう言って瀬奈の鞄を持ち上げて保健室に向かう。
守と瑠依はその姿を見守ってくれていた。
私が教室から出た時守の声が聞こえたような気がしたけど気付かないふりをして保健室に急いだ。
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