新しい君との出会い
麻美の様子が少しずつ素っ気なくなっているような...
「瑠依はいつも一緒にいてくれるよね」
突然言われた一言。
僕にはなんの事か分からなくてきょとんとするしかなかった。
麻美は更に言葉を続ける。
「私が困ってる時や傍にいて欲しい時に何も言わずにいてくれるの凄く嬉しい」
これからも一緒にいてね?と言い終わる頃には家の前まで来ていた。
麻美は自分の言葉が恥ずかしくなったのか耳まで真っ赤に染めて「それじゃあねっ!」と言い残してさっさと家に帰ってしまった。
残された僕は最後のやり取りを思い浮かべながら自分の家に帰った。
家族からは「何ニヤけてるの?」と怪訝そうに言われたけどなんでもないと誤魔化して自分の部屋に戻った。
麻美はなんであんな事を言ったのかは分からなかったけどその日は気持ちよく眠ることが出来た。
目が覚めてスマホを確認すると麻美から「今日は先に行くね」と連絡があった。
何かあったっけと思いながら下に降りる。
母さんが声をかけてくれる。
「おはよう、麻美ちゃんはまだ来てないけど何か聞いてる?」
「今日は先に行くってさっき連絡来てた」
「そう、珍しいわね」
母さんもそれ以上は追求せずにキッチンでトースターと目玉焼きを作ってくれた。
作ってくれた料理を食べながら麻美のことを考えていた。
朝食を食べ終えて学園に向かう。その途中で守と瀬奈と一緒になった。
「麻美は?」
瀬奈が聞いてくる。
「今日は先に行くって連絡があった」
「へぇ、珍しいじゃん、何かあったっけ?」
守が予定を思い出しているようだが特に思い当たるイベントは無いらしい。
「会ったらわかるかな」
そんな感じで雑談を繰り返していると気づいたら学園に着いていた。
麻美は既に席に座っており他のクラスメイトと談笑していた。
話してる最中に俺の顔を見ると少し露骨に顔を逸らした。
「なんかしたのか?」
その様子を見て守が俺に訊ねる。
「心当たりがない…」
直近の出来事を考えてみたが特に思い当たる節はなかった。
「それ、瑠依が思いつかないだけじゃないの?」
瀬奈に痛いところを刺されて何も言えなくなる。
「とりあえず今は邪魔しないでタイミングみて聞いてみるよ」
そう言ったが今日は全く麻美と話すタイミングはなかった。
少しでも話しかけようとすると自然に避けたり誰かに話しかけたりして話しかけられないようにしていた。
そんな麻美の挙動に少し怒りを覚えながらもそんな日々が暫く続いた。
でもこんな事を相談できるのは守と瀬奈くらいだった。
2人に相談してみても何も知らないと言って首を横に降るばかりだった。
このままじゃあ何も進展しないことは分かっている。
だから僕は行動することにした。
間違ってるのも傷つけるのも分かっていたけどそれでも麻美の行動の理由を聞きたかった。
麻美の携帯に連絡を入れた。
「僕の部屋で話がしたい」
麻美は賢いから薄々は察してるはずだ。
それでも約束した時間に麻美は来てくれた。
「話なんて珍しいね…なんの用?」
少し距離を感じるような聞き方。
「最近俺の事避けてない?」
「避けてる?」
麻美はとぼけたようなよく分からないような顔をしている。
「話しかけようとしてもよく逃げられてる気がする」
「それは瑠依の勝手な想像でしょ?もし避けてたらそもそも今日来てないよ」
正論のように聞こえる麻美の言葉。
でも何かを隠そうとしているのは丸わかりだった。
会話の途中に見せる少し苦い顔。
「俺なにかしちゃった?」
麻美は何も答えずこちらを見つめるばかり。
「無理やり聞き出したいとかはないんだけど…麻美が困ってるなら何とかしたいし俺が問題なら直したいと思う」
飾らない自分の言葉を伝える。
麻美はその言葉を聞いて少しだけ目を潤ませながら口を開いた。
「最近少し疲れちゃってね…」
そういって顔を背ける。
それだけ聞いても何故、僕を避けるのか分からなかった。
暫くの沈黙の後、麻美の顔を見て分かった。
俺と一緒にいるのに疲れたんだと。それだけは分かってしまった。
「...ごめん、今日はわざわざ来てくれてありがとう。」
俺はそれだけ言うと自室を出る。
そして麻美を残し外に出た。
これ以上どうしようもないと思ってしまった。
あてもなく外を歩く。外はもう真っ暗で数メートル先も見づらい。
何も考えず歩き続けていると公園を見つけた。
この公園は昔はよくみんなで遊んだ。
それを思い出すと麻美との思い出が色々蘇ってくる。
どれも楽しい思い出だった。
それを思い出すともう駄目だった。涙が止まらない。
どうしようもないくらい麻美の声や、顔や、言葉を思い出す。
忘れられることなんて一つもない。
僕は暫く動けずに公園のベンチで泣くことしかできなかった。
その頃、麻美は盛大に後悔していた。
絶対に言葉を間違えた。
最近、瑠依に早く行くと行ったり少し避けてるようになっていたのは認める。
でもそれは嫌いになったとか、もう離れたいとかそういうことじゃなくて単純に別の用事が詰まっていただけのことだった。
美空学園では定期的に色んなイベントがある。
その一つに幾つかの学園が集まりライブイベントを開催することになっている。
その準備に暫く追われることになっていた。
瑠依はそんなイベントには興味ないだろうから知らない可能性は充分にある。
そこで疲れちゃったなんていったら、瑠依は絶対勘違いする。
本当はそれを言ったタイミングで呼び止めることができれば一番よかったがそこまで頭が回ってなかった。
出て行った後に初めて気づいたのだ。
そこで自分の馬鹿さを思い知った。
私は急いで部屋を出て瑠依を追いかけた。
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