過去との出会い
瑠依たちを連れてきた場所とは?
先生は目付きが鋭くてまるで動物に例えると鷹のようだった。
クラスにいた俺や守を見ると少し顔が険しくなる。
麻美が隣に来てこそっと呟く。
「貴方たち先生になにかしたの?」
僕は首を横に振る。
「特に記憶がないよ、始業式の時に騒いでて睨まれたくらいかな」
「絶対それじゃない…」
麻美が呆れながら軽く僕の頭をはたく。
「とりあえず大人しくしてなさい」
「分かったよ」
麻美の言葉に従って自分の席に座り、先生の顔を見つめる。
なにか言いたそうな顔をしていたがそれ以上は何も言わず教壇に立つ。
「今日から1年間このクラスを受け持つことになる笠井だ、担当科目は数学、よろしく」
かなりシンプルな紹介だった。
そこからクラスメイトの自己紹介に移る。
調子に乗ってふざけた挨拶をする者、最低限の挨拶だけする者、明らかに人付き合いが苦手そうな者。
色んな人間がいるなと思いながら自分の番になり軽く挨拶する。
「最川瑠依です、よろしくお願いします」
特にそれ以上の説明もなく席に座ると、麻美も守も瀬奈も呆れたような顔をして僕を見ていた。
麻美に戻る時に声をかけられる。
「なんであんなに簡単なのよ」
「特に話すことがなくてさ…」
「あのね…」
まだなにか言いたそうな顔をしていたがそれを聞き流すように自分の席に座る。
麻美もそれ以上は言ってくることは無かった。
他のクラスメイトは名前の後に自分の好きな物とかハマってるものとかを話してる。
次に自己紹介することがあったら参考にしようと思いながらクラスメイトの紹介に耳を傾けていた。
一通り自己紹介が終わると笠井が話し出した。
「これから1年間よろしく頼む、良いクラスにしよう」
それだけ言い残すと今日は始業式だけだから早く帰れよと言い残してさっさと教室から出ていってしまった。
先生が出ていくとクラスがザワザワとし始める。
とあるグループではカラオケに行こうと言ってたり、昼飯でも食べに行こうなど今日の予定を言い合っているようだった。
それを軽く聞きながら僕も帰る支度を始めた。
守、瀬奈、麻美をチラッと見ると同じように帰る準備をしていた。
瀬奈は男女問わず色んな人からこの後一緒に遊ぼうよと誘われていた。
それを作り笑いで躱しながら帰る準備を進めている。
麻美は淡々と帰る支度を続けていた。
時々麻美に話しかけてくるものもいるが女の子なら軽く笑顔を見せながら話し、男だと塩対応であしらっていた。
守は既に何人か話し相手を手に入れたようで軽く話していた。
そんな皆を見ながら帰る準備を進める。
ふと窓を見るとタイミングよく突風が吹き、桜の花びらが舞う。
学年が上がったのを世界が祝福してくれているような絶景が目の前に映っていた。
その美しさに目を奪われ触りたいと思い手を伸ばすために、空いている窓に向かって歩きだす。
「瑠依っ!」
それを見ていた麻美が僕の名前を呼んで現実に引き戻す。
麻美が近くに駆け寄ってくる。
他の男子や女子も麻美が僕の事を名前呼びした事に驚いていたけど何も言わず見守っている。
「大丈夫?」
麻美が上目遣いで僕を見つめてくる。正直めちゃくちゃ可愛い。
「心配してくれてありがとう、大丈夫だよ」
麻美は少し安心したような顔をした後耳元で囁く。
「危ないことはしないで、後で何があったか教えて?」
「分かったよ」
「それじゃあ帰ろうか」
麻美に手を引かれて教室を出る。
瀬奈と守も着いてきた。
今日はもう学校は終わりだけど帰るには時間が早い気がする。
麻美はどこか行きたいところがあるらしく学校を出てから目的の場所まで余所見せずに歩く。
瀬奈と守は目的地を知っているらしく特に何も言わず2人で談笑しながら着いてくる。
あの2人いつの間にあんなに仲良くなったんだろう。
少し疑問を覚えながら麻美に聞く。
「これはどこに向かってるの?」
「内緒!」
笑顔で内緒と言われたらどうしようもない。
とりあえず笑顔ってことは変なことにはならないはずだから。
少しずつ見慣れた場所になっていく。
そのまま手を引っ張られて連れてこられたのは麻美の家だった。
今も定期的に遊びにいく馴染みのある家。
「ただいま〜」
「あさちゃんおかえり、瑠依君達連れてきたのね」
麻美のお母さんがリビングから顔を出して出迎えてくれた。
「うん、キッチン使っても平気?」
「大丈夫よ、好きに使ってちょうだい」
「ありがと!瑠依達は適当にリビングでくつろいでてね」
麻美がテキパキと行動してる間僕たちは適当にリビングのソファーに座り適当に話始める。
主に瀬奈と守が話しているのを聞いているだけだけど。
授業がどうとか友達関係がどうとかそんな話をしている。
瀬奈も守も友だちが多いから思うところがあるらしい。
話を変えるように守がチラッと麻美を見ながら言う。
「麻美がキッチンで料理してると絵になるな」
「それ、瑠依の前で言うと面倒臭いよ」
瀬奈がそう言って今度は僕の方を見る。
その後、瀬奈と守が顔を見合わせて笑っている。
やっぱりでしょ?と瀬奈は言う。
悪かったよと守は僕に謝ってきた。
「…何の話?」
「自覚がないならいいよー」
瀬奈と守は僕をからかいながら麻美がキッチンから出てくるのを待っていた。
「出来たよ」
そこからしばらくすると麻美がキッチンから出てきて手にはホールケーキを持っていた。
赤と白のコントラストが綺麗なショートケーキ。
その上にはメッセージプレートで
「瑠依、誕生日おめでとう」と書いてあった。
そうか今日は僕の誕生日だったのか。
あまり印象がなくて忘れてた。
少しびっくりしながらも僕の誕生日会が始まった。
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