恋人との無人島旅行というイベントへの出会い
2人が目指す島へ一歩踏み出す。
翌日。
結局来ないと思っていた彼は、そこにいた。
「遅いよ」
眠そうに欠伸をしながら、彼はゆるく非難する。
甘噛みのような言い方だった。
「ごめん、少し遅れちゃった」
「まぁ、いいんだけどさ」
「正直、来ないかと思ってた」
「行かないって決めたら、先に連絡してたよ」
「突然、無人島に行こうなんて変な提案、よく受けてくれたね」
「……彼氏だしな」
守はぼそりと呟いて顔をそらした。
赤くなった耳がちらりと見えて、私は思わず笑ってしまう。
「カッコつけすぎ」
そんな会話を交わしながら、私たちはバスに乗って港へと向かった。
窓の外を流れていく風景は見慣れたはずなのに、今日はやけに静かに感じる。
港に着くと、予想以上に閑散としていた。
観光地のような賑やかさはなく、古びたベンチと自販機、錆びた街灯がぽつんと立っているだけ。
「ここで合ってるよね?」
「うん、地図ではここだって」
小さな船が一隻、波間に浮かんでいた。白い船体は陽の光に照らされて、どこか頼りなく見える。甲板に立っていたおじさんがこちらに気づき、手を振った。
「君たちが例の子供たちだね。待ってたよ」
「よろしくお願いします」
二人で頭を下げると、おじさんは「礼儀正しいね」と笑った。
船は思っていたよりしっかりしていて、三人なら余裕がある広さだった。
甲板は木製で少し軋んでいたが、整備はされているようだ。
おじさんがロープを外し、エンジンをかけると船が静かに動き出した。
港が遠ざかっていく。
「…いよいよだね」
「うん」
私は息を吸い込み、海の匂いを胸いっぱいに取り込んだ。
潮の香りが鼻をつき、どこか懐かしい気持ちになる。
「風が気持ちいいね」
「本当だ。ウミネコもいるし」
守は手すりに肘をつきながら、海を眺めている。
表情は穏やかだけど、どこか緊張しているようにも見えた。
船が沖へ出ると、エンジン音と波音だけが周囲を満たしていく。
人の声も街の音も一切聞こえなくなり、まるで別世界に来たようだった。
水面は太陽の光を反射して、きらきらと輝いている。
ときおり波が船体に当たって水しぶきが上がり、肌にひんやりとした感触が残った。風は思ったよりも強く、髪が何度も顔にかかる。
「こんなに静かなんだね、海の真ん中って」
「うん……ちょっと不安になる」
私の言葉に、守は「分かる」と小さく笑った。
30分ほど経った頃、前方に影が見えた。
最初は雲かと思ったそれは、近づくにつれてはっきりとした輪郭を持ち始める。
「見えてきたね」
「…あれが無人島?」
島は思っていたよりも大きく、山のように盛り上がっていた。
濃い緑が一面に広がり、波打ち際に木々の根がせり出している。
近づくほどに、森のざわめきや鳥の鳴き声が風に乗って届いてくる。
入り江に船が入ると、波は穏やかになった。水面は透き通っており、海底の岩や小魚が見えるほどだった。
「3日後に迎えに来るよ。それまで、楽しんで」
おじさんはそれだけ言うと、手短にロープを固定して私たちを降ろした。
別れの挨拶もそこそこに、船を旋回させてすぐに出発してしまった。
「あのおじさん、本当に信用していいのか……?」
守がぽつりと漏らす。
「考えたくないけど、最悪の場合は自力で脱出するしかないかもね」
私は冗談半分に言ったつもりだったけど、自分の声にもわずかに緊張が混じっていた。
守も思いのほか真顔になっていて、少しまずいかなと思った。
「でも……目的が分からないよね。もし置き去りにするつもりなら、あんな軽い感じにふるまうか?」
「確かに」
私たちは互いの顔をちらりと見て、同時に深く息を吐いた。
3日後に本当に迎えに来るかわからない。そんな不安を心にしまいながら。
そして、目前に広がる深い緑の中へと、ゆっくり足を踏み入れていった。
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