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自分の気持ちとの出会い②

瀬奈の準備の様子。

守が家でぼんやりと時間を潰している頃、瀬奈は一人、黙々と荷造りをしていた。

水着、救急セット、折りたたみナイフ、手袋、携帯食──床の上には、大小さまざまな物が几帳面に並べられていた。

ただの旅行にしては、やけに物々しい装備。

それでも瀬奈にとってはすべて意味のあるものだった。「何かあったときのために」。それが彼女の行動原理だ。

一つひとつ手に取りながら、慎重にバッグへ詰めていく。

けれどある程度荷物がまとまると、今度は選別が始まった。

「これ、いらないかも……でも、ないと困るかも……」

口元で呟きながら、バッグに詰めた物を出しては戻し、何度も繰り返す。

要領は良い方のはずなのに、思った以上に時間がかかっていた。部屋の時計を見上げて、静かにため息をつく。

「また、守には無理を言っちゃったな……」

ふと、そんな後悔が頭をよぎる。誘ったのは自分だった。それも、少し強引に。

守は普段から文句を言わないタイプだ。明確にダメだと思えば口にするけれど、それ以外はだいたい受け入れてくれる。今回も「いいよ」とだけ言って、深く詮索もせずついてきてくれた。

「本当に……大丈夫だったのかな」

その優しさが、時々こわくなる。

守は本心を見せないわけではないけれど、自分の気持ちを後回しにしてしまうことがある。それが美徳なのは分かっている。けれど、それに甘えすぎていたのは自分だった。

「最近は特に、自分のことばかり押しつけてた気がするな……」

目を閉じると、守の穏やかな顔が思い浮かぶ。どんなに自分が突拍子もないことを言っても、基本的には受け止めてくれる彼。

その姿勢に甘えて、気づけば自分はわがままばかりになっていたかもしれない。

「たまには、守の話もちゃんと聞いてあげないと……」

自分でも驚くくらい、今日はずっと彼のことを考えていた。

普段なら、自分の判断に迷いはない。けれど今日は違った。

準備の手は止まらないが、頭の中ではずっと守のことがぐるぐると回っていた。

──守がどこまで覚悟を決めてくれているかはわからない。けれど、私は決めた。

この旅を、彼との大切な思い出にする。それが一番の目的だった。

この話が持ち上がったきっかけは、知り合いからの依頼だった。怪しい依頼だったから断ってもよかった。でもそれ以上に、「守と一緒に経験してみたい」という気持ちの方が強かった。

これまでとは違う時間、違う場所、違う空気の中で、彼と何かを共有したい。そう思ったからこそ、首を縦に振った。

「でも……そのことは守には絶対に言わない」

声には出さず、心の中で強く決意する。そんな気持ちを言葉にしてしまえば、自分が弱くなってしまう気がする。

人に甘えることが怖かった。自分の弱さを見せるのが苦手だった。

それが彼であっても──いや、彼だからこそ、なおさらだった。

気がつけば、部屋の中はすっかり静まり返っていた。

いつの間にか荷物もほとんど整っていた。

「……ちゃんと来てくれるかな」

ぽつりと漏れた言葉は、誰に向けるでもなく宙に消えていく。

守を信じていないわけじゃない。でも、わからないのだ。

この先に何があるのか、自分たちがどうなるのか、まったく想像がつかない。

それでも、自分は一歩を踏み出そうとしている。

瀬奈には「備える」ことが癖になっていた。

何が起こってもいいように、万全の準備をする。それが彼女の安心材料だった。けれど人生はいつも、予想と違う方向から事態を転がしてくる。どれだけ準備をしても、予測できないことは起こる。

今回の旅も、きっとそうなる。

それでも、行く。いや、行くしかなかった。

「……いい思い出になるとは思うけどね」

誰にともなくつぶやいて、瀬奈は布団に潜り込んだ。

この旅は、忘れられないものになる。

それが楽しい思い出になるか、苦い経験として心に残るのか──それはまだわからない。

でももう、自分の気持ちは止まらなかった。

机の上で、スマートフォンがかすかに震えた。

麻美の名前が画面に浮かんでいる。

けれど瀬奈は、その光にも振動にも気づかないまま、そっと目を閉じた。

──こんなふうに落ち着いて眠れる夜は、しばらく訪れないかもしれない。

それでも、いい。そう思える理由が、今の瀬奈には確かにあった。

読んでいただいた方ありがとうございました。

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