トラブルと想定外と、安心と時間の勝負と
会場でのシステム構築。
そのためにウィルプラスのメンバーで墨だしをおこなおうとエレベーターで上がってきました。
そこまではいいのです。
エレベーター前のバックヤードという、関係者以外は立ち入り禁止の場所に明桜レンタリースの広崎さんが待機していたのですけれど、なにやら打ち合わせの真っ最中。
「広崎さん、墨だしに上がれって言われてきたのですけれど」
溝口さんが軽く手を上げて近寄っていくと、広崎さんが少しほっとした顔をしていました。
はい、このパターンはトラブル発生です。
「お疲れ様です。実はですね、ちょっと想定外のことが発生していまして」
「想定外……ですか?」
「ええ。実は、前のイベントの撤去が終わっていないのです。会場責任者さんの説明では、予想外に盛況になってしまい、時間延長やむなくという状況になりましてですね。まあ、ある程度は想定済みの事なので、会場側も延長を受け入れたそうなのですが……それで、搬出用トラックの手配時間が大きく変更なんったそうで、他のイベントと前後して調整したらしく……」
うん、なにやら緊急事態なのは理解できましたし。
伊藤さんや大川さんもやれやれという感じで荷物を下ろして会場の確認に向かって……。
「これは無理だわ。一時間じゃ撤去が終わらないよなぁ」
「ステージも何もかも残っていますし、展示されている車だって残ったままだから」
「そうなんてだすよ……ということで、作業開始時間は1時間後押し、その間は待機してもらって作業可能な場所から順次設営を開始するっていうことで……」
広崎さんの説明で、溝口さんが腕を組んで思案中。
そして図面を広げて、大川さんたちと何か打ち合わせをはじめました。
私や新人の子は、その内容が理解できないと思って近くで待機していますけれど……って、あの、熊谷さん、打ち合わせに参加しなくていいのですか?
「ん~。まあ、俺は残業したくないから定時で帰る予定だし。彼女だって、初日でいきなり残業なんて嫌だよね? 終電も無くなるからさ。送ってあげるよ」
「うーん。ちょっと考えてみますね」
「あっそう? まあ、帰るのなら声をかけてね」
うん、なんというか新人さんも塩対応ですね。
そして暫くして打ち合わせが終わったようです。
「はい、集合~。ここの撤去が終わるのが19時になりそうだから、先に2階の設営を前倒しで始めます。会場には許可を取って貰っていますけれど、1時間もぼーっと座って待機していてもね。ということで先に2階の墨だしと区材の搬入を、そののち3階のロビーの設営を先に終わらせてから、チームを二つに割って2階と3階の設営を同時進行で開始します」
「ん? 2階の設営も同時なの? なんで?」
やや不満そうな熊谷さん。
「広崎さんが担当の人と打ち合わせして、会場の使用時間を1時間早めてくれたそうで。ということは終了時間も1時間早くなるので、そういうことで」
「マジかぁ」
「熊は2階の設営な。新人の……えぇっと、森山さんだったかな、君はミコシーと一緒に3階のロビーに回って。トミーは二人のサポートで。-綾辻さんも1時間早くこっちに来てくれるから、まあ、なんとかなるっしょ?」
「えええ……俺、女の子と一緒がいいのになぁ……」
「煩い、熊は黙って働け」
あ、辛辣。
でもまあ、心なしか新人の子もほっとしていますから結果オーライということで。
そしてエレベーターが上がって来てきて具材の搬入も始まったので、私たちも合流して2階に移動。
「3階は食品フェアの会場設営だったけれど、二階ってなんの設営なのでしょうか」
そもそも3階を高速で終わらせて、2階の設営という予定だったので。
2階で行われるイベントがなんなのか、私もよく確認していませんでしたが。
「ミコシー、メールで書いてあったけれど確認していなかったの?」
「あ、そうですよね……」
大急ぎでメールを確認。
そうそう、ここにイベント名も書いてあるのをすっかりと忘れていましたよ。
「ええっと……大日本眼科技術学会……って、まさかとは思いますけれど……」
札幌市のイベントで、医学系学会を取り仕切っているのは宇治沢施工一択。
つまり、なんというか……地獄の都筑さんの現場ということですよね?
「おはようございます!!」
墨だし道具を引っ張り出して、メジャーと養生テープ片手に図面を眺めているとね入り口から人の声。
ええっと、初対面のおじさんですが、どなたでしょうか。
明桜レンタリースの堤さんと親しげに話していますけれど、ここの責任者さん?
そしてその姿を見て、この場の全員がホッと胸をなでおろしています。
「今日は都筑さんじゃなく田沢さんかぁ……」
「なんだよ。俺って宇治原施工は出入り禁止だよね? 2階から3階に代わっていい? 2階ならトミーでまにあうよね?」
「熊さんがNGなのは宇治原施工じゃなく都筑さん。だから今日はセーフなの。とっとと働け」
ニイッと笑いつつ、トミーさんがつぶやいています。
あ、あの声は危険です、トミーさんがガチで怒っています。
「それじゃあ、今日のスケジュールが変更になったので、最後のベースランニングはなして。それではみなさん、ご安全に」
「ご安全に!!」×20
さあ、今日の現場にはMACHとプロエール、二つの施工会社も入っていますからね。
このまま人海戦術で、とっとと終わらせることにしましょう!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






