設営の規約と情報漏洩の恐怖と
食の祭典のイベントも無事に終了。
私は撤去で参加したのですけれど、あの時はスタッフさんやあウィルプライスのメンバーからの追及が止まることを知りませんでした。
なにせ、集合場所である会場裏・搬入用エレベーターの前に移動した時点で背中に背負ったバッグだけでなく、両手に二つずつの紙袋を下げての登場ですから、どこかの買い物帰りかと思われたのは仕方がありません。
そのあとで、東尾オールレントの関川さんも合流。
「お、御子柴ちゃん、さっきは色々とありがとうな。随分とお土産も貰ったようだし、しばらくは買い物に行かなくても大丈夫じゃないのかな?」
「え、さっき?」
「それに、その紙袋ってよく見たらイベントのやつだよね?」
「見たことがない商品が入っているようにも見えるけれど……一体、どうしたの?」
というベテランさんたちの問いかけに、ウィルプラスの高尾さんの一言。
「まさかとは思うけれど、イベントにこっそりと入り込んでサンプルを貰っていたとか? 何年か前に、裏口から会場に入って色々とやらかしたバイトがいたんだけれど、まさか御子柴さんも」
「違います!! うちの実家がブース参加していたんですよ。だから昼間は、そっちのアルバイトで会場入りしていただけですって。ほら、これがうちの実家の名刺で、これは余ったサンプルですよ。しっかりと各ブースに営業回りしてきたのですからね
そう説明して堂々と『御子柴銘菓』の名刺を見せます。
ついでに会場のパンフレットも提示して、うちのブースを指刺して説明。
ついでに余っていたサンプルを皆さんに配ってあげましたよ、ええ、うちの饅頭や串団子は絶品ですから。
そうして説明したらあっさりともめ事はクリア。
「なるほどねぇ。まあ、うちの仕事で入ったわけじゃないのなら、別に気にしなくてもいいか」
「ちなみにですけれど、数年前にやらかした案件ってどんなことなのですか?」
「ああ、いくつかあるんだけれど。一番ひどかったのは、イベント当日に発表される新商品について、前日搬入でうちらが会場を作っていたんだけれどさ。そこでアルバイトのやつがこっそりと設営後の会場をスマホで撮っていてね。その夜にはインスタグラムに上げちゃったらしいんだわ」
あ、その話聞いたことがあります。
とあるゲーム企業が威信をかけた新商品を開発したものの、その発表会前日に関係者からリークされたっていう事件。
一部SNS界隈をにぎわせたので私も知っています。
まあ、公開が一日前後したこと、写真のみのリークのおかげでかえって詳細を知りたい顧客からの問い合わせが殺到したこと、そして結果的に爆発的な人気商品になったことなどの要素により関係者は厳重注意のみで終わったとか。
「それ、私も聞いたことがあります」
そう呟くと、伊藤さんや大川さんたちも苦笑い。
「結果として、その時のバイトは規約違反でクビ。本社はその企業からのイベント設営の契約をカットされてさ、今でもそこからの仕事は届かなくなったらしいからさ」
「あとは……寝不足で設営に参加した大学生が、医療器具の展示会場で高額な器具をひっかけて倒した挙句壊したっていうのもあってね……それは札幌支社の案件じゃないんだけれど、壊した医療器具が一台数億円で……」
「うわ……それってどうなったのですか?」
大学生に数億円の弁償なんて無理ですよね。
「そういうときのための保険があるんだけれど、結果として全額保険で賄えるはずもなく、数千万円の借金になったはずだよ。そしてそれを返済するために本社で採用して給料から天引きで支払いは続けているらしくてさ。ほら、一度やらかした奴って安全確認を徹底するようになるだろう? 今ではそいつの現場って事故もミスもない模範的な現場になっているらしいんだよ」
「だから、御子柴さんも注意してね。これから秋になると、来春からのアニメとか番組関係のイベント設営もあるからさ。とにかく企業秘密が満載されているイベントばかりだから、口が堅くてしっかりとした仕事が出来るひとじゃないと任せられなくてね」
「はい……」
よし、そういう現場を任せられるように頑張らないとなりませんね。
幸いなことに私はソシャゲはいくつかやっているのですけれど、俗にいう『無課金勢』というやつでして。
本当ならば遊ばせてもらっている以上は課金してゲーム運営を支える必要もあるってよく言われますけれど、そこまでのめり込んでいるわけではありません。
ただ一つだけ、本当に少しですけれど課金しているゲームはありまして。
とある有名企業のMMORPGなのですが、同時接続2500万人を記録した大ヒットゲームなのですよ。
しかもですよ、それが今年は全国縦断でイベントツアーがあるらしく、この秋には札幌にもやってくるのです。
会場限定記念グッズも販売されますし、最終日の北海道会場では新たに追加されるストーリーと新キャラクターの発表もあるのです。
もう、当日は朝から並んででも会場入りしなくてはなりませんよ。
「さて、そけれじゃあそろそろ地下におりますか」
「そうですね。さて、無事に17時から作業ができるといいのですがねぇ……御子柴さん、会場の様子はどうでした?」
「ええっと。私が自分のところのブースの片づけをしていたのは16時半過ぎでしたけれど、その時点で撤去作業をしていたのはうちとあと数件ぐらいでしたよ? 会場の中もかなりの人込みでしたから」
そうあっけらかんと説明すると、皆さんの顔が暗くへこんでいきました
「残業確定……かぁ」
「まあ、この手のイベントで撤去作業が時間通りに始まるってそうそうないからなぁ」
「それじゃあ、開始のコールが届くまではのんびりとしていますか」
ということで地下に降りて私たちはスタンバイ。
そして実際に撤去作業が始められたのは、イベント終了時刻から40分後の17時40分からとなってしまいました。
はぁ、本当に残業が確定しましたよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






