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経験を積もう

 先日のアルバイトの翌日は撤去作業。


 設営とは逆に、すべてのオクタノルム……システムを解体し、会場から運び出す作業です。

 まだ二日目の私は、ベテランの富岡さんや社員の皆さんの解体したオクタの部品を拾い集め、箱に収める作業です。


「それでは、本日もご安全に」

「「「「「ご安全に」」」」


 ヘルメットよし、軍手よし。

 あとは設営業者さんが持ってきたオクタの部品を納めるケース……『ビームケース』と、白いボードを乗せる『パネル台車』、支柱を収める『ポール台車』の場所を確認。

 一つ一つ丁寧に拾い集め、それ収めていきます。

 私たちの登録している会社は下請け会社で、イベントの実行委員会などの下にある備品のレンタル会社からの依頼で、このような設営・撤去作業をしているそうです。


 コンサートや企業のイベント責任者・実行委員会

           ↓

 各地域のイベント請負会社

           ↓

 イベント関連備品の管理及びレンタル会社(本日は明桜レンタリース)

           ↓

 設営請負会社(私の登録している会社)

     

 と、大まかにこんな感じだそうで。

 今回の企業説明会も、オクタなどの備品は札幌市内にある『明桜レンタリース』という会社が一括で扱っていまして、私たちはそこの会社からの依頼で設営を行っていたそうです。


「へぇ……色々とあるのですね」

「そうそう。今日のここの責任者は、明桜の堤さんっていう……ほら、そこでうちの孝雄さんと話しているメガネのおじさんがいるでしょ? あの人がここの現場責任者なのよ」

「お、奥が深いですね」

「まーあ、ね。仕事には厳しいけれど、気さくな人だから、あまりかしこまらなくても大丈夫だよ」

「なるほど、参考になります。あと、気を付けないとならない事ってありますか?」


 15分休憩の間。

 私はお茶を飲みつつトミーさんに色々とお話を聞かせて貰っています。

 アルバイトとして引き受けた以上、手抜きなどせずしっかりと仕事に向き合いたいから。

 

「そうねぇ……私たちが現場に入るまでには、というか入ったときに最初に『墨だし』っていって、会場の中に糸を張る仕事があるんだけど……その時に、電気設営業者さんも入ってくるから、邪魔しないようにね?」

「電気設営……といいますと?」

「ほら、あれ見えるかな?」


 トミさんが指さしたのは、まだ解体していないシステム。

 その上辺のビームにはもいくつものスポットライトが設置されています。


「ライト……ですよね?」

「そう。各ブースには電源が引かれていてね、パソコンとか照明とかに割り振らりれているのよ。でも、そういうのはただ会場から延長コードを伸ばして繋げばいいってものじゃなくてね。出力とか、いろいろな細かい決まりごとがあって、それを専門に取り扱っているのが電気設営業者さんなのよ。しっかりとした国家資格があったりする大切な仕事なのよ」


 へぇ。

 イベントって、ただやっているだけじゃないのですか。

 場所を決めて、そこに荷物を運びこんで……全て会場のほうで準備しているのかと思ったけれど、そうですよね、このような裏方の人が大勢いるのですよね。


「まあ、細かいところはおいおい覚えていくといいわよ。私以外にも、坂上さんとか工藤さん、あとは大川さんはベテランだから、困ったことがあったら相談するといいわよ」


 そうトミさんが話しつつ、ちょうど三人が集まって談笑している方を指さしています。

 つまり、優しい先輩と。


「あとはそうねぇ……気難しい人とかもいるし、あとは請負の責任者の人で、ちょっと困ったレベルで細かい人もいるから……その人については、またおいおい教えてあげるわ。と、そろそろ時間ね」

「はい、ありがとうございます」


 まだ飲みかけのペットボトルをカバンに詰めて、ヘルメットをかぶって作業再開です。

 さあ、気合入れて、頑張りますよ。

 そんなこんなでシステムその他一式を梱包。

 あとはトラックに運び込んで……。


「あ、後ろの扉が開いた」

「まあ、扉だからね」

「いえ、そうではなくて、あの、リフトっていうのですか?」

「ああ、あれはパワーゲート。リフトの部分が水平に降りてきてね、そこに荷物を載せて上まで持ち上げてもらうのよ。あれがないと、全て手作業で持ち上げるか、フォークリフトで積み込まないとならないから。今日の会場はそんなことはないけれど、大きなイベントだと10トントラックからリフトで降ろさないとならないからね」

「なるほど、勉強になります」


 このリフトに乗せるのにもそこそこ力がいるのですよ。

 さて、初体験ですが、がんばると……。


「そこのお姉ちゃん、こっちの黒いのをあっちのハイエースまで運んでもらえるか?」

「はい!」


 請負の堤さんが、私を手招きしています。

 そのまま堤さんのもとに向かいますと、黒い台車付きの箱を指さしています。


「これ、精密機器だから丁寧にね。そのまま転がしてくれればいいから」

「精密機器ですか」

「音響機材だからさ、壊すと高いからねぇ~」


 え、音響機材ですと?


「PA機材……」

「ん? PAなんてよく知っているね。まあ、その通り、こいつは会場で使ったやつだから、丁寧にね」

「はい、わかりました」


 そう指示をして、堤さんはトラックへ。

 私はごろごろとPA機材をハイエースへと運んでいきます。

 そんなこんなで積み込み頑張っていますと、本日の作業が無事に終了。


「それでは、本日もありがとうございました」

「「「「ありがとうございました」」」」


 挨拶を終わって、本日も終了。

 みなさん、お疲れ様でした。

 でも、どうして終わりの挨拶は『お疲れ様でした』ではなく『ありかとうございました』なのでしょうか。

 今度、聞いてみましょう。


………

……


――翌日・月曜日

 朝。

 爽快とは言い難い筋肉痛で目が覚めました。

 

「今日は一講目から……痛たたたた」


 ふくらはぎが、腰が、方が、腕が痛いです。

 システム(オクタ)の部品を配るときも回収するときも、中腰での作業でした。

 普段、どれだけ体を鍛えていなかったのかとつくづく反省するばかり。

 

「ふぅ。まだうら若き乙女が、全身に湿布を張ることになるとは思ってもいませんでしたよ」


 昨日の現場の帰り、トミさんがコンビニで湿布を買って帰るようにと話していたので、進められるままに買って帰ったのはこういう事態を予測していたのですか。

 さすがは経験者です。


「さて、そろそろ行きますか」


 時間ギリギリになって走る羽目になるよりも、少し早めに大学に行って座っていた方がましです。

 それに、午後は何もないのでゆっくりと体を休めることにします。

 MCになる道はまだ遠いのですけれど、今のアルバイトもきっといい経験になりますので。

 さあ、痛い体を我慢して、地下鉄へと向かいましょう。

 次の現場の連絡は、いつ来るのかいまから楽しみです。


 音響機材の担当も、やって見たいなぁ……


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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