重いコンダラ……いえ、重いのは砂地のカゴ台車です
8月に入って、アルバイトの現場数がどんどん増え始めています。
基本的に夏になりますと外で行われるイベントが増え始め、それに伴い朝設営夕方撤去とか、朝設営の翌日夕方撤去といった仕事が多くなるそうです。
さらに運動会や学校祭といったイベント、盆踊り会場とかロックフェスティバル、あとはコンサート会場の物販用テントとか、もう色々と仕事が増えて大変だそうです。
そういう理由で、新しく現場に参加するアルバイトのみなさんの数も増えてきましたしそれに伴って本社での研修を終えた社員さんが帰ってきたりと大忙しだそうで。
「ということで、本社の研修を終えて北海道に戻ってきました溝口です。新人さんはあまりご存じでないと思うけれど、まあ、レギュラーのみなさんともどもよろしくおねがいします」
今日の現場は、小学校のグラウンドで行われる避難訓練のテント設営および備品搬入。
その作業前に、東尾さんと一緒にハイエースから出てきたのが、この溝口さん。
伊藤さん曰く、もともとは私たちと同じアルバイトだったそうですけれど、社員に登用されて先月までは九州の本社で研修を受けていたそうです。
そしてようやく一通りの資格を習得したので、北海道に戻って来たということだそうで。
「これからは、溝口さんって呼ばないとならないのかぁ」
「よろしくお願いしますよ、溝口さん」
「そのあたりは、今までどおりで構わないから……と、君が新人の御子柴さんだね、話は聞いているよ」
「話!! あの、私の話ってどんなことですか」
思わず話題を振られたと思ったら、いきなり何か含んだ言い回しですが。
「いや、都筑さんの現場でやられたって……まあ、あの人の現場ってストレスたまるから、あまり女性は入れないよにするから」
「溝口さん、俺も女性!!」
「中島さん……はげたおじさんには、都筑さん専属で頑張ってもらうよ?」
「やめてくれぇぇぇぇぇ。ストレスで毛が抜けるぅぅぅぅ」
「いや、ないから!!」
途中から冗談交じりになって、現場の雰囲気が明るくなりました。
やっぱりピリピリとした気まずい空気よりも、こうのびのびと作業できた方がいいですよね。
そして図面の配布と持ち場の割り当てを確認、私はいつものように備品搬入に回りました。
「あ~、御子柴さん。本当に備品搬入でいいの? テントの設営に回ってもいいんだよ?」
「トラックからカゴ台車を降ろして、グラウンドの奥まで移動。そこで出来上がったテントに備品を入れる、ですよね?」
「うん、まあ、そうだけど……それじゃあ、頑張ってみようか」
「はい? はい!!」
何かあるのかなぁと思いつつ、伊藤さんと二人でトラックからカゴ台車を降ろします。
「ミコシーは右斜め前について。俺は左前について引っ張るから……」
「はい。では行きます!!」
――ゴゴゴゴゴッ、ゴッゴッゴッ
んんん?
いつもよりもカゴ台車が重いです。
乗っている備品はいつも通りですし、もう何回も押しているので難しくない筈なのですが。
「ミコシー、ここは建物の中じゃなくて外。アスファルトや硬い床じゃなくて地面だからね。車輪が回りずらくなっているし、ちょっとした起伏でカゴ台車が左右に流れるから、よし、がんばれがんばれ!!」
「な、なるほど理解です!!」
いつもよりも車輪が重くて回りずらい、つまり力がいるということですか。
これは全力で引っ張らなくてはなりませんね……。
「んぐ……んぎぎぎぎきぃぃぃぃぃぃぃ」
力いっぱい引っ張っていますが、やはりいつもよりも速度は遅く。
一つ目のカゴ台車が指定の場所まで到着するのに、いつもの倍近く時間が経過しています。
「やっばり、ここはきついよなぁ。変わってもらう?」
「い、いえ、時間的には大丈夫ですよね? それならこのまま続けさせてください」
「お、やる気だねぇ……それじゃあどんどん行ってみようか」
そのまま伊藤さんと一緒にカゴ台車の移動。
実に10台のカゴ台車をどうにか運び終えます。
その間にもテントはどんどんと立ち並び、私が運び終わったカゴ車からは次々と備品も配られ始めました。
「うわ、次は備品……」
「その前に水分補給だよ。この炎天下の中でそれだけ汗を掻いたら、脱水症状を起こして倒れるからさ。ほら、みんなも水分を取りながらやっているだろう?」
そういいつつ、伊藤さんが私にスポーツドリンクを投げてくれました。
それを受け取ってから他の人を見てみますと、確かに道具袋のほかにペットボトルの入った袋を下げて居たり、途中途中で荷物置き場に行ってお茶を飲んでいます。
「な、なるほど。水分を取りつつ、でないと確かにきついのですね……あ、これありがとうございます」
「いいっていいって。どうせ主催からの差し入れだから」
「な、なるほど……」
イベントの主催の方々の差し入れとして、クーラボックスいっぱいのジュースが置いてあったそうです。
たしかに、ここから自販機を探すとなると、休憩時間でないときついかもしれませんね。
それにしても暑いです。
スポーツドリンクを軽く口に含んでから喉に流し込み、再び作業開始。
そして作業終了の午前10時には消防局から消防車なども到着。
午後から始まるイベントのうち合わせが始まりました。
「それじゃあ、設営はこんなところで終了です。このあとは、17時からの撤去なので各自、車の中で休憩したりすきにしていて構いませんので。16時30分までに戻ってきてね」
東尾さんがそう告げて自分の車へ移動。
私たちもここまで乗って来た社用のハイエースに乗り込みますと、クーラーをつけてしばしの休息。
「そうだ、トミーさん、今度でいいので工具で何を買ったらいいか教えてください」
「ん? 別に構わないしなんならに一緒に買いに行く? 私も買い足したい工具があるからね」
「お願いします。それで、どれぐらいの予算が必要でしょうか……」
ここ、大切。
「ん~、まあ、初めてだから5000円ぐらいで足りると思うわよ。溝口さん、会社でラチェット買えるわよね?」
「一本1800円。二時間分の給料と同じぐらいかな?」
「あ、私、欲しいです!!」
そう手を上げて告げますと、ハイエースの中の皆さんが驚いた顔。
「え、ミコシーもシステムやる気満々?」
「まじか……」
「まあ、一人でも組める人がいるのはいいことだけど、最初はあまり無理しないように」
「最初は上場からだね。脚立の使い方も今度教えてあげるからね。あと、明日の昼間なら私も手が空いているから、その時に買い物に行きましょうか」
などなど、皆さんからのアドバイスも貰ったので、安心してラチェットを買うことにしましょう。
さあ、これで明日の予定も決まりました。
あとは頑張って撤去を終わらせてしまいましょう!!
まだ時間じゃないのですけれどね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






