うれしい一時間? 無意味な一時間?
医療関係イベントの設営も間も無く大詰め。
後半のラッシュでとにかくシステムは全て完了、あとは各ブースの看板を仕上げて固定し、お客さんからのオッケーを貰うだけです。
中盤のくみ上げについてはうちのベテランさんの頑張りで楽々modeに突入。
宇治沢施工の都築さんも機嫌が治ってきたのか、15分休憩の時はジュースの差し入れなどがありました。
まあ、それでも1時間残業は申し渡されましたけれどね。
「……よし、これでフィニッシュ。あとはゴーサインをもらうだけだな」
「そうですなぁ……」
最後の仕上げが終わり、高尾さんと東尾レンタリースの関山さんが憂鬱な顔になっているのですが。
終わったから、あとは報告だけですよね?
まだ何かあるのでしょうか?
「トミーさん、まさか最後のチェックでやり直しとか仕様変更とかもあったりします?」
「……今、二階で仕様変更の調整中らしいわよ? イベントの一番偉い人がさっき到着してね、急遽、展示台を増やしてアンケートボックスを置きたいんだって」
「あれ? アンケートボックスは四箇所作ってありましたよね? 後二つは予備で今回は使わないって関山さんが話していましたよ?」
「それが見つかってね……」
あ〜。
予備の分もレンタル代を支払うのなら、それも使えという指示ですか。
それで別の会社の人が急遽、展示台作成作業に入ったと。
なるほど、ぎりぎりになってそういうことがあるのかと納得していましたら、
「チェック前に、二階のブースのお客さんがまだ到着していないらしくて。その人たちがくるまでは作業は一旦完了で、裏の具材置き場で待機して欲しいということだ」
「「「「「「了解しました」」」」」
関山さんが私たちに指示を出してから、インカムでどこかに連絡を取っています。
私たちは搬入エレベーター前の臨時資材置き場に移動、自販機でジュースを買ってきて適当に座って一休み。
さすがに今日の仕事はきつかったのか、皆さん無口のままスマホを弄ったり図面の見直しをしています。
「ミコシーちゃん、おつかれさま。さすがに今日はきつかったでしょ?」
「仕事自体はきつくないのですが……あの、都筑さんは勘弁してほしいですね。いくらお客さんの指示だからといって、いきなり仕上げたものを作り直すっていうのは……」
「まあ、あの人はそれが仕事だからさ……私も初めての時は色々と理不尽な文句を言われたり、ぎりぎりになって指示が変わったり罵詈雑言を浴びせられたりしていたから……」
「うわ、トミーさんでもそうなのですか」
「むしろ今、ここにいるメンバーで都筑さんの洗礼を受けていない人はいないんじゃないかなぁ。ミコシーも古田君も、これで理解したでしょ」
はい、それはもう。
次からは都筑さんの現場担当になったら、心を殺して鉄面皮で作業することにします。
その前に、隙を見せないように道具をそろえた方がいいのでしょうけれど。
「そういえば、トミーさんとかは、道具ってどこで揃えてのですか? このまえ、どれぐらいの値段か知りたくて100均にいってみたのですけれど」
「うん、工具専門店で買った方がいいわよ。安いものは精度もよくないし、必要な道具は無い場合もあるし……あと、錆びる」
「うん、錆びるなぁ」
「さび止めコートって書いてあっても、錆びるんだよなぁ」
なるほど。
そうなりますと、やっぱり近所のホームセンター一択ですか。
あそこで道具をそろえるとなると、どうしても現場二つ分ぐらいの給料が羽を生やして飛んでいきますが。
「スケールと工具袋はいいものを揃えた方がいいかな。あとプラスとマイナスのドライバーも」
「ラチェットは会社がまとめ買いしてくれるから、それを購入した方がいい。個人で専門店で買うと、かなり高いものをつかまされるからさ。それにオクタ用のビットは、市内では2か所ぐらいしか売っていなくてね」
「あと、安全靴……は購入したのか。それじゃあ、さっきのぐらいでいいんじゃないか? 社割でラチェットを買ってから、高尾さんに話をしてシステムを組む方も教えてもらうといいよ」
大川さん、トミーさん、そして伊藤さんがこと細かく教えてくれます。
やっぱりシステムも組めるようになった方がいいのですか。
その場合、どうしても腕力と背が足りないのです。
背はもうどうしようもないので、脚立で対応するとして、問題は腕力です。
力 is ジャスティス、これはもう鍛えるしかありません。
といっても、現場に出ているとスポーツジムに通う時間なんてないので、これは実戦で鍛えるしかありませんか。
そんな他愛ない話をしていると、イベントホールが騒がしくなってきました。
どうやら都筑さんが2階から3階に上がってきたようで、各ブースの様子をうかがっているようです。
これで使い勝手が悪かったりしたら、すぐに修正が入るらしく、うちのメンバーの皆さんもまじめな顔に……あ、スマホを弄ったり雑談を継続していて構わないのですか。
「今更緊張してもねぇ……」
「そういうこと」
ふむ。
すでにヘルメットを片付ける準備まで始めている方もいますが。
そんな光景を見ていますと、高尾さんと関山さんがバックヤードにやってきました。
「作業終了です、お疲れ様でした」
「撤収!!」
その言葉で皆さんガッツポーズ。
予定ではまだ30分ほどあるのですが、今日の作業はこれで終了だそうで。
「あの、一時間残業が30分残業に短縮なの?」
誰かがそう問いかけていますが、高尾さんは頭を振って一言。
「いや、1時間で切ってあるので安心してください。関山さんがもぎ取りました」
「「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」
一斉にあいさつ。
そして私たちは、過酷で二度とやりたくない現場を後にします。
もう夏休み、明日は講義もないのでのんびりと体を休めて……。
「では、明日の撤去は17時にいつもの場所集合で……と、この搬入エレベーターの前に集まってください」
いつもの場所はそこ。
まだそれを知らない私や古田君のために言い直してくれて感謝です。
「では、明日もよろしく」
そう笑いつつ関山さんが帰ります。
そして私たちも……はぁ、明日、また都筑さんの顔を見るのか。
いやいや、撤去なら無理難題を言われることはありませんよね?
大丈夫ですよね?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






