初めてのシステムと、予想外の事態
初夏。
7月も中旬になると、北海道でも気温が30度近くまで上昇します。
ここ最近の北海道の気温の上昇率はとんでもなく高く、クーラーのないアパートでは窓を閉め切っているとゆであがってしまいそうになります。
かといって貧乏大学生ではクーラ付きマンションなんて借りることは難しく、もっぱら冷風機とアイスクリーム頼みの毎日が続いています。
なお、前期試験は無事に終了し、明日からいよいよ夏季休暇なのですが。
「その夏季休暇の初日が、このアルバイトとはまた……」
朝6時。
今日の現場は、札幌の中央区を流れる創成川、その上に作られた創成川公園狸2条というところが本日の現場です。
はい、今月頭に学んだテントを8基ほど設営、さらにバンティアンというパネルを設置し、そこに写真と看板を飾るそうです。
午前10時からのイベントということで、それまでに設営を終わらせなくてはなりません。
それはもう、朝っぱらからベテランの大川さんや伊藤さんトミーさんに加えて、おじさんチームの中島さんと綾辻さんや社員の高尾さんといった豪華メンバーで本日はお送りしています。
「ミコシーちゃんは具材をばら撒いたら備品を入れていってね。これがリストだから、一つ一つ確認して」
「はい、分かりました」
恐ろしいのは、本気を出したベテランさんたちのテント設営の速度。
一つのテントを立ち上げるのに5分もかかっていないんじゃないかなぁ。
ちなみに今回も2×4の大型店と、さらに地面の上に木製のボードを引いて、さらにブルーシートを広げるそうです。
このあたりはよく判っていないので指示の通りに作業を進めるだけ。
「ええっと、ここは1800のテーブルが4本と椅子が20脚……こっちはテーブル8本……」
図面は受け取っているので、それに合わせてレンタルのテーブルや椅子などを配っていきますと。
ちょうどステージの横にテーブルを入れた時、明桜レンタリースの広崎さんが、PA機材をテーブルの上に広げ始めました。
「はぁ……今日のイベントは音響も全てレンタルなのですか」
「まあ、調整するのはこっちの仕事だからね。興味があったらあとで教えてあげても……」
「え、本当ですか?」
そこまで話してから、広崎さんはなにかを考えています。
「いや、無理かなぁ……まあ、様子見ということで。作業に戻ってくださいね」
「は、はいっ、失礼しました」
そういえば手が止まっていましたか。
これはいけない、とっとと備品を配ってしまいましょう。
そんなこんなで私が備品を配っている最中にテントは全て設営完了。
引き続き、会場の真ん中に『バンテアン』というパネルを設置し始めています。
これは一枚のパネルに支柱に憑りつけるための金具がついていまして、丸いベースの上に立っている支柱に金具を填め込むだけ。
そのため、ある程度の角度をつけての設置が可能だそうです。
「ミコシーも、備品終わったらヴァンテに回って!!」
「はい。もう終わりますので」
「終わったらこっちに来てね、教えるから」
トミーさんが手を振って呼んでいますので、備品を配り終えて空いた『カゴ台車』を指定の場所にまとめ、そのまま真ん中のヴァンテアンの設営居場所へ。
これはパネルよりも重いのですが、実はなれると一人で簡単に設営できるという優れモノだそうで。
事実、中島さんと綾辻さんの二人はホイホイッと掛け声を出しながら、次々と真四角に組んでいきます。
「中島さぁぁぁん、まだ中にウェイト入れていないよね」
「しまった! すぐ開けるわ」
まあ、軽いパネルでしかも外での設営。
中の丸ベースの上にウェイトを置く必要があるそうで、中島さんはしまったぁっていう顔でヴァンテを開いています。そこに綾辻さんがウェイトを設置すると、今度こそと指さし確認して閉じています。
「それじゃあ、ミコシーもやって見て。今の説明で分からない事はある?」
「いえ、大丈夫です」
パネルを両手で持ち上げて、支柱の乗ったベースに乗せてから、勢いよくパネルと支柱を接続。
バチンという音と同時に、パネルと支柱が接続します。
そして同じ要領で反対側には丸ペースと支柱をセットすると、今度は角度を変えて再びパネルの設置。
「ね、難しくないでしょう?」
「はい。でも、これって外すときはどうするのですか?」
「このパネルと支柱の間にマイナスドライバーを差し込んで、こうしててこの原理で。
――カチッ
トミーさんが外す見本を見せてくれました。
こんなに簡単に外せるとは、すごく便利でいいですね。
「それじゃあ、あと3か所も設置して……と、別の備品が来たから、私はそっちに回るので。困ったことがあったらおじさんたちに聞いたらいいよ」
「おじさん……まあ、そのぐらいの歳か」
「最年長はもっと年上だけどな。と、それじゃあ終わらせてしまうか。この後の作業の打ち合わせもあるから」
中島さんがそう告げたので、ふと会場を見渡しますが。
すでにウィルプラスの設置作業はほぼ完了ですよね。
まだ何かあるのでしょうか?
「まだ設置するものがあるのですか?」
「いや、設置はこれで終わりだから、あとは本番対応ですよ」
「本番……ってまさか!!」
思わずステージの方を見ます。
広崎さんが最初話していたことはねこの本番対応のことなのですね?
「綾辻さん、その本番対応って誰がやるのか決まっているのですか?」
「いや、設営が終わってから打ち合わせがあるんだけれど……」
「やります、私にやらせてください。何事も経験ですよね!!」
食い入るように叫んでしまいました。
これには中島さんも綾辻さんも少し引き気味ですが。
「あ、俺は別に構わんよ。毎年やっていることだけど、経験っていうのなら変わってあげるよ」
中島さんの言葉で、私は舞い上がりそうです。
そんなこんなで、そのあとの設営もがっちりと終了、あとは打ち合わせの場所に移動して。
「さて、今年の本陣対応は例年通り3名。それぞれにサポートを3名だけど、誰か希望者はいる?」
高尾さんがメンバーの皆さんに問いかけますので、私は手を上げて一言。
「私がやります。これが夢でしたから!!」
「あ~、そうだね。ミコシーはそれが目的で入ったんだよね。それじゃあ、一人はミコシーにお願いして。あとは中島さんと綾辻さん、いける?」
「ぉっと、今年は休む暇なしか」
「構いませんよ」
とんとん拍子で本番対応のメンバーが決定。
さあ、それじゃあ広崎さんのところに……。
「それじゃあ、本番対応の人はこっちへ。このテントは外から見えないから、ここで着替えてね」
「着替える?」
そう問い返すと、トミーさんが大きな箱をいくつも開けています。
その中から、いかにもという感じのゆるキャラの着ぐるみが出てきました。
「今年はミコシーも入ってくれるので助かるわぁ。例年、この中に入れるサイズの人がなかなかいなくてね、助かったわ」
「それじゃあ、着方はトミーかせ教えてあげてね」
「了解です。それじゃあ、一番軽いバルーンタイプのやつにしようか。空気がこもらないから、ほかのに比べて涼しいとおもうわよ」
はい?
えぇっと……PAのサポートじゃなく、着ぐるみの中?
あれ? 何か私、間違ったような……やらかしましたぁぁぁぁぁぁ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






