初めての挑戦と、失態と
日曜日の午後。
本日はYOSAKOIソーラン最終日です。
大通会場には、予選を勝ち抜いたチームが続々と集まり、ファイナルラウンドのための準備が始まっています。
市内にある各会場も、最後のチームの踊りが終わった時点で撤収作業が開始。
ウィルプラスのメンバーも市内各地に割り振られ、夕方17時からの撤去を待っているそうです。
ちなみに私も露店は17時で完了なので、今は水風船とポイを作る作業の指示待ち。
ええ、指示待ちだったはずなですけれど、露店担当の明桜レンタリースの広崎さんが解体撤去の指示のためここから離れています。
急遽トミーさんがヨーヨー釣りに回り、私はスーパボール掬いの接客対応。
万が一の時のために、トミーさんが無線機を預かってくれたので、まずは一安心です。
「子供二人分、お願いします」
「はい、200円です」
代金を受け取って、子供たちにポイを手渡します。
ポイが破れるまでは取り放題。
一つも取れなくても、小さいスーパーボールを一つサービス。
家族連れで楽しそうに遊んでいる姿を見ていると、こっちもうれしくなってきます。
最終日ということもあって、だんだん人が集まり始めました。
大人も子供も混ざって楽しんでいますと、ふと大人の一人がスーパーボールを救いまくっている姿に気が付きました。
それも、大きめのスーパボールばかり連続で掬っています。
ちなみに掬っていい個数は最大で5つまで。
そこで掬うのは終了です。
「お客様、ちょうど五個になったのでこれで終了です。まだ救うのであれば、追加でぽいを購入してくれますか?」
「あ、ああ、そうか。それじゃあ新しいのを買うよ」
「はい。それでは古いポイは回収しますね」
「い、いや、これは大きいのを掬った記念に持って帰りたいんだけど」
そう告げてポイをポケットにしまおうとしました。
でも、それは備品なので回収する必要があるのです。
最後に数をチェックしないとなりないので、持って帰られても困ります。
「それはできませんので。返却をお願いしていいですか?」
「あ、そうなのか」
そう呟いた瞬間、お客さんはいきなり立ち上がって走り出しました。
「え? ポイ泥棒? 」
急いで追いかけたいところですけれど、私がここを離れるわけにはいきません。
すると、私の様子がおかしかったのかトミーさんが私に声をかけてくれました。
「御子柴ちゃん、何かあったの?」
「いえ、実はお客さんにポイを持ち逃げされてしまって」
「はぁ? あれを持って逃げるってどれだけ欲しかったのよ」
「そう思いますよね。でも、そのお客さんって5つ連続で大きい奴を掬ったので、それで終わりですから新しいのをお買い求めくださいって説明したのですよ。そうしたら、新しいのを買うといってくれたので」
そう説明しますと、トミーさんはなにかに気が付いたようです。
「ははぁ、そのお客さん、違法のポイを持ち込んだんだよ。だから交換に応じなかったし、大きい奴ばかり掬っていったのでしょ? しっかし、しょぼいお客さんもいたものねぇ……」
「え、違法ポイ? それってなんですか」
「それについてはまたあとで。今は接客に集中して」
「はい!!」
ふと気が付くとお客さんが待っています。
急いで応対し、あとはお客さんの動きに注意しないとなれません。
しかし、どうして広崎さんのいるときは来なかったのに、私に変わった瞬間に問題が発生するのでしょうか。
………
……
…
――午後5時
違法ポイ事件のあとは、どうにか露店を切り盛りしましたよ。
あれからおかしいお客さんは……数人いましたけれど、ポイの色にこだわった子供ぐらいです。
色によって強度が違うので、基本的には指定されたとおりに渡すことしかできませんでしたけれど。
やっぱり好きな色で掬いたいっていう子供は多くいるようでして。
そんなこんなで17時には広崎さんも戻ってきました。
「よし、こっちも撤去作業にはいって。売り上げはどこ?」
「これです」
「ありがとう。何か変わったことはあったかな」
「はい、実はこんなことが……」
そのまま金庫を返却します。
そして違法ポイと思われるものを使っていたお客さんについて説明しましたら、いつもとは違って広崎さんは困った顔をしています。
「はぁ。そんなしょぼい詐欺をして何が楽しいのやら。御子柴さんはそのお客さんが掬っているときは気が付かなかったの?」
「うまく掬っているなぁって思った程度で、あとは接客が忙しくて細かいところまでは確認していませんでした」
「まあ、初めてだからそういうお客もいるって認識しておいて。多分ほかの店でもやらかしている奴だろうからさ。まあ、こういう縁日の仕事もあるということは覚えておいてね。うちのレンタル商品の中でも、縁日用品の貸し出しについては夏場に結構問い合わせが多くなるから。また次もよろしくお願いします」
「はい、申し訳ありませんでした」
はぁ。
罪悪感。
それにしても、スーパーボール掬いで大きいのだけ狙ってくる違法なお客って。
何がしたいのでしょうか。
ひょっとして、いくらでも掬える俺様かっこいいって思わせたいのでしょうかね。
「さあ、とっとと撤去を終わらせましょう」
広崎さんの指示で撤去も開始。
設営の時の逆回しで作業するだけなので、最初ほど手間取ることはなく。
ただ、この余った水風船の処分については、今後の課題ということになるのでしょう。
ぎりぎりの数だけ作らないと、残りはロスになってしまうのですね。
はあ、もったいない。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






