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8 それぞれの立場

 ダシタ・パイル・ガド・ロウズ連邦軍長官はイラついていた。ラカン方面のテロリストの掃討が、いっこうに進まない。


「どこに問題があるのかね?」

 ラカン方面総司令であるドアメ・ト・ベノモックの立体画像を睨みつけるようにして、ダシタは詰問した。

「ラカンは・・・」

と、ベノモック総司令は緊張に頬をひきつらせながら答えようとする。

「ラカン支隊は、軍として脆弱なのです。政治も脆弱で・・・そもそも・・・」

「言い訳を聞いているのではない。問題はどこにあるのかね? 何が不足しているのだ? 不足しているものがあれば、本部から補おう。」

 息をもつかせぬようなガド・ロウズ長官のたたみかけに、ベノモックはしどろもどろになってしまった。

「不足しているものが君の能力なら、君を取り替えることになるが?」

「ふっ・・・不足は、ありません! スラムからのテロリストのあぶり出しを強化させます!」



 ベノモック総司令から激しく叱責を受けたラカン支隊のブリッツ支隊指令は、頭を抱え込んでしまった。

 ラカン支隊は、半分が利権を守ることだけを目的としたような地方軍閥部隊の寄せ集めだ。

 歴代の支隊司令はその改革に取り組んではきたが、政府そのものが利権調整団体のような「寄せ集め」政府であり、軍改革はことごとく邪魔され頓挫してきている。

 「民主主義」は、ここでは悪い方向にばかり作用してきていた。

 いくら連邦軍長官の厳命といっても、一朝一夕に打てる手などあろうはずがない。


 そうして追い詰められたブリッツ支隊司令は、極めてシンプルな方法を思いつくに至った。


 そうだ——。寄せ集めであることを活かせばいいだけだ。


「ベノモック総司令。自由に使える予備予算を、少し回していただくことはできますか?」

「何に使うかだけ、聞いてもいいか? ブリッツ君。」

「詳しくは聞かれない方がいいと思います。総司令。」


 ブリッツが考えたのは、各軍閥を競争させることだった。その賞金として、使途を問われない「裏金」を用意したのである。

 スラムは人道にもとる事態に陥るかもしれない——。と、ブリッツが考えなかったと言えば嘘になるだろう。

 だが、ブリッツは「そんなことになるとは思わなかった」ことにして、自らをも欺いた。

 短期間で、長官の言うような成果をあげる他のどんな方法があるというのか?



 各都市の周辺を取り巻くスラム街での、なりふり構わぬ掃討作戦が始まった。それはスラムの住民を「人間」とは扱わない非道なものに発展していった。

 拷問、バラックの破壊(それは住民の居場所さえも奪うということだ)、廃ビルの爆破、少しでも疑いを持てば射殺・・・。

 各軍閥が競争するため、それらはどんどんエスカレートしていった。


 さすがに都市住民も、この人道に反したようなやり方に対して批判の声をあげる人が増えていったが、政府は「非人道的行為はごく一部の兵士によるもので、そうした行為を行った者には厳正に対処する」と言うのみで、これといった動きは起こそうとしない。

 なにしろ、今度の連邦軍新長官の苛烈さについては、銀河の隅々までウワサが流れているのだ。

 しかも、その新長官は、どうやらこのラカンに目を付けているらしいのである。

 迂闊に逆らうようなマネをしたら、その先、自分の地位や派閥にどんな影響があるか分かったものではない。



 スラムの住民たちは、戦わざるを得なくなった。

 生きるために、である。

 ただ、それだけのために、絶望的なほどの巨獣を相手にして・・・。


 そんなスラムの住民たちにとって、政府から「テロリスト」と呼ばれている反政府組織の構成員たちは、次第に「武器を持った頼もしい味方」に変わっていった。

 都市からも「人道危機」を憂える市民が合流し、デモを行なって「人間」の盾を作った。

 さすがに軍も、丸腰の都市住民を撃つようなことをすればマズいことになる——くらいの理性は残っていた。そこまでやっては、連邦人権委員会が黙ってはいないだろう。

 慌てたのはブリッツである。このままでは、自分が断罪されかねない。


 ブリッツは「上」の指示を仰いだ。

 責任を押し付けられた形のラカン方面総司令ベノモックは、長官との板挟みの格好になった。

「人道的な配慮は欠いてはならない。法に基づいて引き続き作戦を行うように。」

 ベノモックもまた、抽象的で曖昧な言葉で「責任」を現場のブリッツ司令に押し付け返した。


 ラカンにおけるテロリスト掃討作戦は、膠着状態に陥った。



「何をやっているのだ、ラカン方面軍は!」

 ダシタは机を叩いて声を荒らげた。

「スラムでの連邦軍の振る舞いに対して、人権委員会が調査に乗り出したのです。少し無理をさせ過ぎたのではありませんか?」

 やんわりとたしなめたラ・シラン副長官に対して、ダシタはさらに声を荒らげた。

「そういうことを言っているから、いつまで経っても秩序が乱れたままなのだ!」


 人権委員会は、何の落ち度もなくテロで殺される市民の「人権」を何だと思っているのか!?

 ダシタにすれば、人権委員会など頭でっかちの観念論者に過ぎない。


 あれを使うか——。

 人権委員会の知らない超兵器。


 ダシタは暗い目をしてじっと黙ったまま、腹の中だけで考えた。



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