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イツミ [ 天使の顔をした悪魔 ]  作者: Aju


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4 連邦軍長官

 連邦軍長官室の椅子に深々と背を預けて、ダシタ・パイル・ガド・ロウズは満足げな笑みを浮かべた。

 ついにここまで来た。


 すでに40を超えてしまったダシタは、その野心と能力の割には出世が遅すぎるのかもしれない。


 有能過ぎるのだろう。上の嫉妬を買っている。オレよりも無能なおべんちゃら野郎の方が早く出世していく。オレはそれが苦手だからな。

 愚かしいことだ。そんなゴマスリ野郎ばかりが上層部に行って、連邦の安全保障を司る軍が機能するのか?


 ダシタの不満は、自分が選ぶことになると思っていた副長官の人事も、前任のガマ・スラブ長官(今は安全保障委員だ)が決めてゆき、それを大統領もすでに追認してしまっていたことだった。


 タテマエでは、連邦軍の長官と副長官は安全保障委員会が推薦して大統領が任命することになっている。

 が、実際には長官は前任の長官が選任し、副長官は新長官が選任して、それぞれ委員会と大統領が追認するのが慣例だった。

 長官職はたいてい副長官がスライドする。

 それは今回も同じで、慣例通りダシタは長官に昇格したわけだが、前任のガマ・スラブ長官は同時に副長官としてまだ32歳のブリンク・デ・ラ・シランを指名していったのだった。


 ブリンクはバランスの取れた、別の言い方をするなら如才ない男だった。そういうところもダシタは気に入らないし、自分がギリギリ過半数の支持だったのに対し、ブリンクが満場一致で委員会の推薦を受けたことも気に入らなかった。


 まあしかし、長官と副長官という立場であれば、個人的な感情は脇に置いて連邦全体の安全保障という軍の目的に忠実に機能するよう組織を動かさねばならぬ。

 何にせよこちらが「上司」なのだから、くだらん阿諛を見せたらオレは許さん。これまでのようにはいかんぞ、ラ・シラン君。



「ラ・シラン君。これから君に見せるものは、生体認証サインを必要とする連邦の超機密中の機密だ。」

 ダシタは長官室に呼びつけたブリンクに、にこりともせずに言った。

「この機密へのアクセス権は、大統領と副大統領、そして連邦軍長官と副長官の4人だけに認められる。退任後も墓まで持っていかねばならない機密だ。もちろん、『表』の機密ではない。

覚悟ができないならば、今すぐここから出て行きたまえ。」


 生体認証サインは、わずかでも違反すれば記憶を全て消される——それは廃人となって人生の全てを失うということだ——という厳しい誓約である。

 よほどの軍事機密にアクセスする時にだけ求められることがある、というもので、通常の軍務の中で経験する軍人はまずいない。

 軍の中でさえ都市伝説に近い制度だが、軍規の中には厳然とその条文が存在する。が、その『機密』が何を指すのか、については軍規を読むだけでは何も分からない。


 ダシタが意外だったのは、単なる如才ない世渡り上手に過ぎないと思っていたブリンクが、顔色も変えずに

「承知しました。サー!」と言ったことである。


 こいつは、意外な側面も持っているのかな?——と思いながら、ダシタは書棚から1冊の『本』を取り出し、その奥の生体認証端末に指を当てた。

 といっても、ダシタはブリンクを評価したわけではない。むしろ、奇妙に不快な感情が胃のあたりから立ちのぼってくるような感覚を覚え、自分の内面を訝しんだ。


 書棚がスライドして、その背後に空間が現れた。

 2人乗り用の転送ポッドである。


 ブリンクがダシタ長官に言われるまま、タッチパネルに手のひらを当てて生体認証を済ませると、ダシタがそれを承認した。

 転送ポッドの扉が閉まり、ポッドが下降を始める。

「君は、『イツミ』というエスパーの名を聞いたことがあるかね?」

「都市伝説としては——。」

 ダシタの問いに、ブリンクが当たり障りのないように答える。


 ダシタはふいに、先ほどの不快感の正体が分かった気がした。

 この若造の、こういう落ち着き払った如才なさが、オレは嫌いなんだ。

「これから、それを見せる。見た以上は、生体認証サインは必須だ。拒めば、私が連邦軍長官の名において君をその場で処刑する。」


 脅したつもりだったが、ブリンクは顔色も変えず、ダシタの期待とは違う反応を見せた。

「都市伝説ではなかったのですね。光栄です。そのような機密を共有できるとは。」


 やがてポッドの扉が開き、その場所に降り立った時には、さすがのブリンクも怪訝な表情になった。

「これは・・・?」

「かわいい少女にでも会えると思ったかね?」

「遺伝子変換器・・・・ですよね?・・・」

「そうだ。その辺の産科にあるようなものではなくて、身体からだ中の全ての遺伝子を変換することのできるハイスペックなものだ——。」

「そ・・・それは、違法なのでは・・・?」

 ブリンクの「全て想定内」といった太々しい如才なさの表情が崩れたことに、ダシタは満足感を覚えながら続けた。

「だから、『裏』の超機密なのだよ。もっとも、この超兵器が開発された時には『遺伝子変換規制法』はまだ存在していなかったがね。

不老不死で不可能を持たず、惑星すら破壊する超能力ちからを持つ——。巷で物好きがウワサする都市伝説の超エスパーは、ここのサーバーに保存された遺伝子配列のデータなのだ。」


 呆然と機械マシンを眺めるブリンクに、ダシタは満足そうな笑みを隠そうともせずたたみかけた。

「変換には危険が伴うから、用もないのに今やって見せるわけにはいかないが、この運用規定を読んで生体認証サインをしたまえ。」

 ブリンクは、端末に表示された内容を、厳しい表情で読み始めた。


「これが超機密である本当の理由はね、ラ・シラン君。万が一このデータが外に漏れてしまったら、今その辺にある産科の機械マシンでも超兵器『イツミ』を誕生させてしまう可能性があるからなんだよ。そうなれば———」

 ダシタ・パイル・ガド・ロウズ長官は、生体認証サインを終えたブリンク・デ・ラ・シラン副長官に、わざとらしく憂いを含んだ顔を作って言った。


「連邦秩序は崩壊する。」



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