超ナルシスト俺様系のお医者さんに言い寄ったと勘違いされましたけれど、公衆の面前で「ざまぁ」してみました。
私は今オペ室の診察台の上。
意識はあるけど痛みはほぼないはず。
いわゆる、下半身麻酔というやつだ。
今日私の検査を担当してくれているのは、この大学病院で超有名なナルシスト俺様系男子。
この日は私が実験台らしく、後輩や研修生らを引き連れて、いかに俺様の技術が素晴らしいかを切々と語っている。
「ほら、ここでこの血管にこう通して……こうすれば効率がいいってワケ」
「わぁ〜! 先生すごいですぅ」
「さすがですね! メモしないと」
取り巻きさんたちは、必死に俺様先生に媚びを売ってるけど、正直、めちゃくちゃ痛いんですけれど!
なぜ私は痛いと言わないかって?
それは命を握られているから。
今日の検査は、股関節らへんにある太い血管から、造影剤を入れる精密検査。
ゆえに腹部から下、素っ裸で羞恥心満載だし、
声を出したり、少しでも動こうものなら手元が狂うからねと、言わば人質をとられているようなもの。
だから、俺様先生の御高説も、御高説にそぐわない悶絶するような痛みも果敢に耐えているワケで……。
「じゃあ、造影剤入れていくけど、目元が光るけど痛くないからね」
足元からスゥーッと冷たい液が入ってくるのを感じた後ーーバチバチッと目を瞑っているのにも関わらずオレンジの火花が走った。
(痛った! この先生マジ勘弁(色々な意味で))
というように、私の口も悪くなるワケで。
だって今も、
「俺の素晴らしい技術で〜」とか、
「俺のタイミングがバツグンで〜」とか、
「患者に痛みを与えないのが〜」とか。
超ナルシスト俺様系を発揮してるんですから。
悲しいかな、取り巻きさんたちの黄色い声(野太い声も混じっていたな)に腹部より下もバッチリ見られ、私は検査で大事な何かを失った気分……。
◆ ◆ ◆
麻酔が切れた頃、私の療養ベッドへと俺様先生はやってきた。
ーーなんと、麗しい留学医学生を引き連れて。
そして例にも漏れず、取り巻きさんたちもいらっしゃる。
「具合はどう? 全然痛くなかったでしょ?」
「……おかげさまで(めちゃくちゃ痛かったですわ)」
と私が言うと、満足気な笑みを浮かべた俺様先生は、あろうことか鼻高々に翻訳し始めた。
「〜〜〜」
私は英語がさっぱりわからないけれど、きっとまた御高説しているんだろう。
唯一私が聞き取れたのは、麗しい留学医学生さんの
「Oh,Great!」
だけ。
そして取り巻きさんたちも翻訳を褒め称える。
すると俺様先生は物言いたげにこちらを見てくる。こともあろうに、私は俺様先生と通じ合ってしまった。
俺様先生は言っている。
ーーさぁ、褒めるが良い、と。
だから私は言ってみた。
「手術だけではなく、英語も堪能なんですね。さぞおモテになるでしょうね〜」
と、最大限俺様先生に忖度して。
待ってましたと言わんばかりに、俺様先生は満足気に前髪をかき上げる。
「悪いけど俺はもう結婚してるんだよね。愛する妻もいて、高級車もあってさ。せっかく言ってくれたのに悪いね……」
ーーいや、口説いてないですけど!?(笑)
どこかのテレビアニメのナルシストキャラのように、シャラランと音がしそうな前髪の流しっぷり。
すると、クスリ、とカルテを持った取り巻きさんが小さく笑った。カルテには多分、私の家族構成が書いてあるんだろう。
「!?」
ワケがわからない俺様先生。
だから私は言ってみた。
「私ももう結婚してるんですよね〜。これから夫が面会に来ます」
ーークスクス。
病室内に広がる笑いの援護射撃。
私はここで、トドメの一言。
「先生は冗談もお上手なんですね。……でも先生、私今回の検査、本当はめちゃくちゃ痛かったです。苦しくて泣き叫ぶかと思いました。もう、あの検査はしなくて大丈夫なんですよね?」
すると、俺様先生は真っ赤に顔を染め上げて、
「もう、ないから大丈夫。
……では、お大事に!」
と去って行った。
ーーナルシストも俺様も、御高説も。
ほどほどにが一番ですよ、先生♪