仕切り板の向こう側
会社の社食では席全体を仕切り板で仕切ってある。まあ、コロナの頃からそういう事になった。で、最初こそ、窮屈なその仕切り板だったんだけど、慣れてみるとさ、これが意外とさ、いいんだよな。
「他人と話しなくていいしな」
食べてる時とかさ、なんかコロナ以前って他人と話しながら食べるのがマナーみたいなところがあったじゃん。それが無くなってさ、むしろ喋んじゃねえっていう感じになってさ。全体的に仕切り板敷かれてさ、防備というか、まあ、それだって例えば誰かが監査に来た時とかちゃんとやってますって言うのをアピールするためのモノなのかもしれないけどさ。でもとにかくそれのおかげで、私はありがたかった。
「今まで私って無理して話してたんだろうかなあ」
って思った。
それまでは沈黙が怖かったというか。なんかもしかしたら若干病んでたのかもしれない。今はおかげで別に話したいことなかったら話さなくてもいいじゃん。っていうメンタルになったというか。いやよかった。私は知らない間に、自分の中に違うモーターなりパーツなりを入れてたみたいだ。マグナムセイバーにトルクチューンモーター積んでるみたいなさ。
だもんでそれを気が付かせてくれた社食には感謝している。世間に比べて早い投入だった仕切り板。今考えると先見の明があったという事だろうか。そんな風に好意的に思えるくらいの好感度。あと仕切り板が発生してから昼ご飯は必ず社食で食べるようになった。混んでても。絶対。だって座れば一人だ。一人の世界だもん。外に出なくてもいい。思えば、なんか今日はちょっとしんどいって言う時は外出てたなあ。私。いや、実際しんどかったんだろうな多分。
で、その仕切り板なんだけど最近、一部の箇所の仕切り板が透明アクリルになって、向こう側が見えるようになった。しんどい!それしんどい!意味ねえ!いやコロナ的には意味あるかもしれないけど、私的には意味ねえ。無意味。無駄!役所の窓口か!あるいは銀行の窓口か!金貸し所の窓口か!ドコモの窓口か!なんだ!どれだ!ってなる。あとモニターか?とかオンライン会議か?とかってなるんだよ。見えるとさ。見えるとそうなるわけ。
だから見えないのがいいんじゃん。摺りガラスみたいな仕切り板がいい!当然そう思ったけど、お世話になってる社食に暴言を吐くのも憚られる。会社に対しての暴言は多少はいいけどさ、でもお世話になってる社食に暴言は吐けない。
だから、そこには座らないようにしているんだけど、こないだ昼に豚丼が出た時にさ、人気なんだろうな。すごい混んでさ、社食が。で、それだけならまだしも、平素から忌み嫌っていた透明アクリル仕切り板ゾーンに座る羽目になってさ。
参った。
本当に参った。見えるの。対面に座った人が見えるの、本当に参ってさ。
あとさ、その透明アクリル仕切り板の席に座ってる時、ずっとさ、アクリルの板越しにさ、奥側の通路っていうのかな、社食の一番奥の方、奥の席の所にさ、なんか変なものが見えてさ。
変なもの。なんて言ったらいいんだろう。言葉にできない。言葉では言い表せない。なんて言ったらいいのかわからない。でも、見えたんだよな。見えたのよ。奥の席の所に。
ちなみにアクリル越しにじゃないと見えない。何度も目は擦った。立ったり座ったりした。その時わかった。アクリル越しにだと見えるんだ。通路の奥の。そこでは嫌われ課長の村井がさ、座って飯食ってたんだけどさ。それにまとわりつくようになんか。なんだろ。
とにかく気持ちのいいもんじゃない何かが見えた。
で、その日の仕事終えて、家に帰ってさ、アマゾンプライムでさ『見える子ちゃん』って言うアニメがあるじゃない。あれを見た時さ、わかったの。私に見えてたのもあれだって、あれの類だって。わかった。わかったのよ。
それだから、見える子ちゃんの事、私応援してます。すごく応援してます。kindleで漫画も全部買ったし。ゾンプラでもdアニメストアでも観ましたアニメ。観てます。がんばれーって言ってます。四谷みこちゃんの事応援してます私。幸せになってほしいと思います。
あれでプリキュアの映画版みたいな感じのが出たとしたら私行くよ映画館、で、がんばれーってライトかなんか振って応援するよ。そらもうするね。振るね。ガンガン振るね。肩脱臼するくらい振るね。で、喉チンコ飛んで行っても応援するね。頑張れーって言うね。
あとだからそんな訳で、最近社食が混んでる時は利用しないことにしてる。面倒だけど外に食べに行ってる。
「お前俺の事見えてる?これ免許証?名前八山ユタっていうの?」
見えてない見えてない。何にも見えてない。
「見えてるの?」
見えてないよ。
「明日も天気いいかなあ。明日こそは洗濯しないとなあ」
もう冬だからなあ。洗濯する日も限られてくるよなあ。いっそあれかなあ。冬の間だけでもコインランドリーで乾燥機使うとかそういう事してみようかなあ。
「見えてる?」
見えてない。