帝国騎士の悲恋
ーーー謁見の間
「今、なんといいましたか」
「はい。今日で第五騎士長を辞させていただきたく」
膝を折り頭を垂れた
「なりません」
「何故でしょうか」
「あなたがこの戦争の功労者であり、帝国の剣の一振りだからです」
王妃が淡々と説明する
帝国は代々女帝が国を治めている
自分は、第一位王女の夫になりたくて武勲を立てて何度も王女の結婚を願った。しかし、本人達や周りから諌められ他の要求は何も言わなかった。
「…私が他国へ嫁ぐ事になったからですか」
第一位王女リーフィリアがボソリと呟いた。
先日、聖王国への嫁ぐ事が決まったのも第一位王女が聖魔法の使い手でもあるからだ
「はい」
「…嫁ぐ先に、私の守護者としてあなたの席を用意していたのですが」
「申し訳ありません」
リーフィリア王女は辛そうだった
今まで黙っていた王が頭に手を当てて話し始める
「確かに、お前が最初から言っていたのはわかるが帝国の剣まで辞めるとはな…嫁ぐ事が決まった次の日に言いに来るとは思わなかったが…せめて、護衛くらいはしてはもらえぬか」
その内容に、王なりの心使いがみえる
「そうです!それに、帝国でそのままでも…」
リーフィリア王女が立ち上がる
「リーフィリア、席を外しなさい」
「…はい」
第一位王女は、侍女に連れられて離れていった
「少し、場所を移すか」
ーーー王の間
王妃と王3人のみになる
「では、本音で話そう。理由を聞こうか」
「私は、第一位王女リーフィリア様の夫になりたく日々精進しておりました。
しかし、それが叶わないのなら帝国にいる必要はありません。武勲もそのためだけに立てたのですから」
「ワシたちが、お主に対して配慮が足りなかったのか」
「しかし、何故第五騎士長まで辞める必要があるのですか?騎士の部下たちも引き止めたでしょう」
王妃が珍しく食い下がる
「そもそも、部下たちは理由を知っており、それに対して協力しておりました。先日の結婚の報告を聞き、部下からは別れの話が現実的になった事に賭けで喜んだか嘆いた程度です。」
「そうですか…」
「では、何故護送に付き合わないのは?」
「嫌だからです。何が悲しくて、好きな方を嫁ぎ先に送らねばいけないのですか」
それを聞いて王と王妃は一瞬ポカンとした後、王は盛大に笑った
「それもそうだな。しかし、これはお前の最後の仕事としてやってもらう」
「あなた!」
「やめておけ、代々このガルドリド家は一度でも決めたらテコでも動かん。私の友人でもあるディエゴも、嫁ができた時にさっさと騎士大隊長を捨てて領地に戻ったからな」
「では、了承すると?」
王妃はまだあきらめていないようだが納得するようだ
「私は、了承はしない。ディートリヒ、帝国の掟は知っているな」
「はい、【騎士長の場合、全ての騎士長を倒して己が信念をなせ】です」
任期までに何かあり辞める場合は、王の許しがない場合は騎士大隊長を含む騎士長6名を倒す事が必要となる。
「いつにする?」
「王女を護送した後にお願いします」
「休憩はいらぬのか?」
「はい」
ーーー
護送時、襲撃等は無く3日の日程で終了した。
王の配慮があったのかリーフィリア王女を見ることも話すことはなく滞りなく終わった。
移動中に王女の馬車が騒がしい時があったが知らないふりをした
帰りも到着次第、個人で帰せよと指示をうけておりの別れの言葉は言っていない
ーーー闘技場にて
「本当に、倒してしまったの」
王妃が絶句した
「やはりか」
「分かっていたのですか」
「ガルドリド家で久々に出た麒麟児と父親のディエゴに聞いたが、ディエゴですら冷や汗をかいて戦場を知れば、敵は居ないと言われたからな」
倒れた騎士大隊長を含む騎士長6名が蹲っている
「まさか、6人同時とは思っていなかったがな」
手放すには、惜しかったので許しは出さなかったが早まったか
その後、ディートリヒ関連で抑えていた様々な問題が噴出し帝都は一時的に混乱状態となった
「聖王国へは、第二位王女アルフェリアか第三、四位王女イーリス、ミーリスにしておけば良かったかと嘆くばかりだな」
「全くです」
武力だけでなく、人員掌握、交渉にまでに長けていたことを見抜けなかったことを悔いた
王と王妃は、深いため息をついていた
ーーーー5年後
あれから、兄達に混じり領地を守っていた
自身ににも、父上が結婚相手を探してくれて何度か会っていた。
その後、リーフィリア王妃は3人の子をもうけたと新聞で読んだ、
聖王との仲も良好らしい
日々の訓練が終わり、父上に呼ばれて書斎に来た
「ディートリヒ、お前に帝国から使いが来てるぞ」
「嫌です」
「さっさと行け」
父上は返答を聞かず部屋から出て行けと手を払う
来客室には、王の使いが待っていた
「はじめまして、私は王の使いであるフリードと申します」
「はじめまして、ディートリヒです。要件とは?」
面倒なことは、終わらせてしまいたい
「第二位王女、第三位王女が結婚適齢期となり、各領地より集めたのですが王よりガルドリド家を含めろとの「辞退します」
王の使いであるフリードさんが呆気ている
「今なんと…」
「辞退します」
「よろしいのですか?」
はいと返答し、なおのこと理由がわからないと言った顔をする
「現在、お付き合いさせていただいている方もいます」
理由を説明すると納得してお帰りいただいた
ーーー王の書室
「まさか、結婚相手を決めようとしていたとは…何としてでも止めろ!」
「しかし、相手がいるとは…」
「ディエゴめ、ちゃんとわかったと手紙に書いておきながら、やってくれるな!
隠しておったのか…他家に嫁がせてたまるか!」
あの一件から、王と王妃が手を回して結婚できないようにしたにもかかわらず、かいくぐりディエゴは裏をかいて結婚相手を探していた
全ての騎士長達を倒したことは伏せられていたが、麒麟児であるディートリヒは引くて数多。
その中で、ディエゴは悪意のある家を除外して小さい領主と接触して探していたから分からなかったのだ。
「さすが、戦勝の騎士と呼ばれるだけはありますか」
幾多の戦場で、常勝無敗を誇ったディエゴである
情報は戦場でも強さを誇ると、言わしめただけはある
「ディエゴが見つけた婚約者には辞退させ、ディートリヒには帝国にこいと伝えよ」
ーーー
それから、再度使者がきて冬が来るため、春に登上する事が決まり1人で帝国へ向かった。
父上は「もうバレたか」とため息を吐いていた。
春には、聖王国へ嫁がれたリーフィリア様が一時的に戻られているとのことを暗部から聞いていた。
「お久しぶりです。王様、王妃様」
「久々だな。息災だったか」
王も、王妃も少しお年を召したのかシワがあった
「早速ではあるが、3日後に婚約者の一人として娘達と会って欲しい」
「はい、分かりました」
「リーフィリアも戻っている。時間があるなら、あって欲しい」
「時間が有れば」
ーーー
部屋に到着し、すぐにリーフィリア様の使者が来て、リーフィリア様の部屋に来て欲しいと言われる。
久々に見たリーフィリア様は大人っぽくなって、子を抱いた姿は母親の顔になっていた
「リーフィリア聖王妃様、お久しぶりです。お変わりないようで安心しました」
「そちらも、元気そうで安心しました。少しの間ですが、こちらに居を移してますので何かあればよろしくお願いします」
リーフィリア様は何か言いたそうに口をつむんでいる
少しの間を置き、意を決したかのように話しはじめた
「あの時のこと、怒っておりますか?」
「何のことでしょうか」
「私が何も言わずに、他国へ嫁ぐ事を決めたことです。謝りたかったのですが、道中それも叶わずに終わってしまったので…」
「気にしてはおりません」
本当に気にしてはおらず、あの時に俺の初恋は終わったのだ
「今ここで、謝ります」
リーフィリア様は頭を下げて黙った
「頭を上げてください。もう、終わったことで気にしないで下さい。あなたは他国へ嫁がれた。そして、子ももうけて聖王妃としてこちらに滞在しております。」
頭を上げたリーフィリア様は悲しそうな顔のまま、唇を噛み締めている
「では、長いすると噂が立ちますので…申し訳ありませんでした」
そう言い残して席をたった
帰り際まで、リーフィリア様は辛そうだった
ーーー
園庭を歩いていると、小さな子供が遊んでいた。
「お兄さんは誰でしゅか」
女の子が舌足らずで話した
「私は、ディートリヒと申します」
膝を折り、頭を下げた
「アリア・ゼノンでしゅ」
その名を聞いた時、リーフィリア様の子だとわかった。
「おまえ誰だ!」
後ろから、5歳くらいの男の子が走ってきて女の子の前に立つ
「ディートリヒ・ガルドリドです」
「お前がお母様を泣かせたやつか!僕は、ボドルゼ・ゼノン!お前に勝負を挑む!」
厄介なことになってしまった
ーーー
「奥様、そろそろ迎えにいきますか?」
侍女が声をかけてきた
「…え、もうそんな時間なの?」
ディートリヒとの会話の後でだいぶ時間が経っていた
「中庭で遊んでいるそうなので、迎えにいきましょう」
「ええ、そうね」
中庭に着くと、大柄の騎士と剣を打ち合っている
…ディートリヒ?
「てやー!」
「その、振りはいいぞ」
「にいしゃまあ、がんばってー」
「当たり前だ!僕は、聖騎士になるんだ!」
乳母がいるが安心した顔をしており、子供達は楽しそうにしている
ディートリヒが笑い、ボドルゼの木剣を受け止めている
その光景が、とても……
「おっと、迎えが来たようだ。ここまでにしよう」
ディートリヒが少し横にずれた
「あ、母様!」
「おかあしゃまー」
私を見つけた2人がこちらに走ってきた
「はいはい、楽しかった?ディートリヒ、ありが…」
「いえ、私も暇を持て余してましたので…では」
笑っていたディートリヒは無く、いつもの顔と口調に戻り、踵を返して歩いて行った。
「お母様、ディートリヒ殿から…お母様?」
「なんでないてりゅの」
「…なんでもないの」
ああ、あの表情で笑ってくれたあの人を見れた嬉しさともう二度と見れない気がして哀しさが込み上げてきた
…ああ、私はこの人とこの光景を無くしてしまった
それを壊したのは、私で…奪ったのも私だった
願わくば、彼の隣にいることになる人にその笑顔が向けられることを願った
ーーーそれから、彼は結婚すること無く、自領地にて睡眠中の心臓発作で40歳という若さでこの世を去ることになる。嬉しそうで安らかな顔だったという。
幾多の戦場で無敗を誇り戦神の寵愛を受け、領地は多くの先進的な政治的改革と設備開発を行い創造神の頭脳を授けられ、戦時中に戦争に巻き込まれた多くの敵味方の子供達を救った事で慈愛の神の化身と言われた。
亡くなった時には、帝国で王家が一同に出席し盛大に喪式が行われ、聖王妃が来国し花を添えたという。
それから、ディートリヒが愛したリーフィリアは、息子であるボドルゼが聖王になった後で役目を果たしたかのように安らかに亡くなった。前聖王との仲は良いままだった。しかし、侍女達はリーフィリアが時折憂いた顔をしたままだったことを知っていた。
民衆は、ディートリヒの元に逝ったと言われ、残された前聖王は悪と罵った。前聖王が反論することはなく甘んじて受け入れていた。
民衆は、彼がリーフィリアから受け取った彼女と同じ瞳のサファイアのペンダント、時間を確認していた懐中時計、庭に植えていた勿忘草は、各分野でげん担ぎに用いられる。
のちに、生前リーフィリア聖王妃からディートリヒに謝る文や日記にディートリヒへの懺悔が多く残っていたこと、聖王から何度もディートリヒ宛にリーフィリア王妃を下賜する文があったがそれに対して断りと彼女を幸せを願う事が綴られていた。
賢王と呼ばれた王と王妃のディートリヒに対し、謝罪を記入した日記が見つかった。
これだけの功績と文献を残しながら、彼は亡くなる寸前まで笑うことはなかった。
最後の幸せが何だったのかは誰にも分からない。
酒飲んでいた時に戦時中にあったことを孫の自分に祖父が話していたのを思い出したので西洋風に書きました。
グダグダですいません。




