第13話 ぷよぷよボールみたい
誤字報告ありがとうございました!
さらば、全てのタイプミスとかにならないですかね(笑)
まずは人の形をしたアクリルキーホルダーになってるバンダさんを、元の状態に戻すのが先決すべき課題だ。カップ麺やフリーズドライのキャベツみたいに、お湯をかければ膨らむわけじゃないし。
「手っ取り早く、下僕の血をふりかけましょうか」
「あっ、やっぱりそれで復活するんだ」
予想通りの解決策だったけど、ご飯のお供みたいに言うのはやめて欲しい。
ちなみに僕は鮭の入ったのが好き。次点でのりたまかな。そういえば一つの容器に三種類入ったやつって、ごま塩だけ余るんだよ……
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃなかった。
「すまぬが親父殿は血族の血以外、受け付けんのじゃ」
「あら、それってどういうことかしら」
人魚族との間に子供を作ったことで、一種の制約が出来てしまったらしい。そんな体質になるのを覚悟してたんだとすれば、カトレアさんのことを深く愛してたってことだ。
やっぱりかっこいいな、この人。今はスルメだけど。
「それならバンダさんを復活させられるのは、アプリコットさんかリナリアだけなんですね」
「それなのじゃが、リナリアには無理なんじゃよ。実はこの子は養女でな、血がつながっておらんのじゃ」
「あっ、ごめんなさい。聞いちゃいけないことでした?」
「(ふるふる)」
「リナリアも知っとることじゃし、お主たちになら聞かれても構わんのじゃ」
吸血族との間に生まれたアプリコットさんは、寿命が長いせいでまだ小学生くらいの体型をしている。子供がいるって聞いたとき、相手は一体どんな人だったんだろうなんて考えちゃったけど、リナリアは養子だったのか。
でもこの二人って、とても強い絆で結ばれてた母娘だと思う。アプリコットさんはリナリアをすごく大切にしているし、リナリアは本当の母のようにアプリコットさんを慕ってたから。
「あなたの血にどれくらいの力が宿ってるかわからないけれど、それだと少し時間がかかってしまうかもしれないわね」
「なんにせよ、このままでは親父殿が不憫じゃ。限界まで私の血を与えてみるのじゃ」
「もし一度で目覚めないなら、ここで無理しても同じ時間がかかってしまうわよ。血の力というのは、一度失うと回復に時間がかかるものなの」
そういえば献血でも、一回ごとにかなりの期間を開けないとダメだった。確か一年に献血できる回数も決まってたはず。アイリスにはほぼ毎日給血してるけど、ちょっと舐め取るくらいだから大丈夫なのかな。
……大丈夫なんだよね?
「ねぇアイリス、なんとかならないのかな」
「このままだと嬢ちゃんの声を戻すヒントが手に入らないぜ」
「心配しなくてもいいわよ、カメリア。少し無駄が出るのだけど、私を触媒にして下僕の力を注ぎ込んであげるわ」
どうやら同族同士で力のやり取りをする方法があるっぽい。力を変換する時、多少のロスが出てしまうくらい、問題ないだろう。僕の力が役に立つのなら、いくらでも協力するよ。だけど、できれば四百ミリリットル以内でお願いします。
「ここで血を吸うの?」
「わざわざ移動するなんて、意味がないじゃない。それに取り込んでからすぐ渡すほうが、無駄も減るのよ」
中腰になった僕に、妖しく瞳を輝かせたアイリスが迫ってくる。血を吸うときの彼女って、すごく妖艶というか色っぽくてドキドキしてしまう。そんな理由があるなら仕方ないとはいえ、なんか嫌な予感がするんだ……
そんな僕の心配をよそに、首筋に牙を立てたあと、にじみ出た血をペロペロと舐め取っていく。だいぶ慣れたけど、やっぱりくすぐったい。
「んっ……ふはぁ………。お腹の奥が、ポカポカするわ」
いつもより少し多めに血を吸ったアイリスが、僕から離れて上唇をペロリとなめる。金色の瞳が潤んで、頬は熱が出たみたいに上気してるし、吐息も熱くていつも以上にエッチな表情だよ! リナリアはスズランの後ろに隠れながら、真っ赤な顔でこっちを見てるじゃないか。やっぱり教育上よろしくなかったかも。
〈供影〉
呪文を唱えたアイリスの影が伸び、バンダさんの下に吸い込まれていく。単純に伸ばしてるんじゃなく、どんどん送り込んでる感じかな。恐らく影に力を乗せて、バンダさんへ提供してるんだろう。
すごいな、みるみるうちに体が膨らんできたぞ。干からびていた肌も、瑞々しくなってきてる。急激に活性化しているせいか、肌がゼリーのように波打ちだした。縁日でよく見る、水に入れると膨らむボールが、こんな感じにプルプルしてたなぁ……
「ふっかぁぁぁぁぁーーーつ! である」
「親父殿っ! 無事じゃったか、良かったのじゃ……」
「おぉ、愛しの我が娘よ。心配をかけたようで、すまなんだのである」
瞳をうるませながら抱きついたアプリコットさんの頭を、バンダさんが優しく撫で始める。血を吸うことで仲間を増やす種族だけど、二人で抱き合ってる様子は普通の親子と何ら変わらない。
そういえば吸血族的に直接の眷属って、家族とは違うのかな。アイリスも始祖を敬ってるけど、親としては見ていない気がするんだよね。
あれ? カメリアの肩に止まってたクロウが飛び出していった。バンダさんを睨みつけてるけど、どうしたんだろう。
「あー、やっぱりどこかで見たことある面だと思ってたが、俺様を暗くて狭い場所に閉じ込めやがったヤツだな!」
「お主は吾輩が封印した悪霊ではないか。蘇った上に喋るようになるとは、もはや捨て置けんのである。二度と抜け出せぬようにしてやるから、覚悟するのである。今度こそ慈悲などないであるぞ」
この二人には因縁があったのか。
って、バンダさんが臨戦態勢になってるけど、復活したばかりなんだから無理しないでくださいよ。
「この子はボクと契約して、悪いことしなくなったんだ。封印するのは可哀想だから、やめてほしいんだけど」
「俺様にも仕えるべきご主人さまが出来たからな、封印なんかされてたまるかってんだ」
「はいはい、感動の再会はそれくらいにして話を進めるわよ。このままだと、いつまで経っても家へ帰れないわ」
「むむむ? アイリスまで来ておるとは、いったい何事であるか。それに……! 愛しの我が孫娘になにがおきた!?」
リナリアに気づいたバンダさんの顔が驚きの表情になり、すぐさま怒りの形相へと変わっていく。うわっ、犬歯が倍の長さくらいに伸びてきたよ。吸血族が怒ると、こんなふうになるんだ……
「おのれ邪神め、孫にまで手をかけるとは、もはや許せん! 今度ばかりは自爆呪文で、滅殺してくれるのであるッ!!」
「家族が大切なのはわかるけれど、少し落ち着いて下さらないかしら」
「止めるでないのである、アイリス。髪の色が変化してるのであれば、一刻の猶予もないのである」
「その問題は片付いたから、心配いらないわ」
「何を言ってるであるか。あやつに近づけるのは、吾輩しかいないのである。愛する妻と命がけで張った結界も破れておるし、異常事態が起きておるのは明白なのである」
「昔の始祖様はもっと落ち着いた方だったのだけれど、こうまで取り乱すのは家族ができたからなのかしら。それはともかく、無理にでも話を聞いてもらうわ」
〈凝影〉
今にも飛び出そうとしていたバンダさんの体が、石のように固まってしまった。影縫とは違う呪文だったけど、これも束縛系の効果があるみたい。きっと同族にしか効果のない、特別なものなんだろう。
「ぬぅぅぅぅぅ……【霧化】も出来ぬとは、どういうことであるか。いくら我輩の力が衰えとるとはいえ、眷属のスキルは始祖に効果がないはずである。一体なにをしたのであるか」
「始祖様を力で抑え込めるなんて、ちょっと気持ちがいいわね。これで話を聞いて下さる気になったかしら?」
「しっ、仕方ないのである。話を聞くのである」
伸びていた犬歯も元の長さに戻ってるから、落ち着いてくれたのかな。とにかくこれで話を進められそうだ。
「しかし、一番若いアイリスにしてやられるなど、吾輩ショックなのである……」
バンダさんが涙目になってるよ。
まあ話を聞かなかったのはそっちだから、諦めてこの事実を受け入れて下さい。
普段から始祖を超える力を手に入れたってアイリスは言ってるけど、本当に超えちゃってたな。相手が本調子じゃないとはいえ、これって凄いことのはず。
アプリコットさんとリナリアが必死に慰めてくれたおかげで、バンダさんも元気を取り戻したみたい。干からびていたときより復活に時間がかかってたのは、それだけショックが大きかったってことだろう。
次回、主人公たちは再び迷宮へ……




