第11話 そんなこと現実にやらせてたまるか
誤字報告いつもありがとうございます。
助かってます!
とうとうモンスターが学園島に上陸してしまった。通り道に魚が浮いてるということは、何かしらの毒物を出してるんだろう。迷宮に出た使者と同じく、近づくだけで意識を失ってしまうかもしれない。
ここからでも全身が見えるようになったけど、胴体は太った蛇というよりナメクジに近いかな。体のサイズは人と同じ大きさのタイヤが付いた、大型のダンプカーくらいありそう。
潰れたカエルのような顔と短い二本の手は、どこかで見た覚えがある。古いSF映画に出てきた犯罪組織のボスと、よく似てるかも……
「辺りをキョロキョロ見回してるってことは、正確な位置までは感知できないみたいだね」
「目も使っているなら私の出番よ。上空から幻影を使って誘導してあげるわ」
「(ギュッ)」
「あら、心配してくれるの?」
「(こくん)」
「私も空を飛べるから心配には及ばないわ。あなたの姿を借りて、醜悪な化け物を痛い目に遭わせてあげる。だから安全な場所で大人しくしてなさい」
「花嫁……ドコダ」
「(!……ガタガタガタガタ)」
あのモンスターって喋れるのか!
黒板を爪で引っ掻くような不快な声が、ここまで響いてきた。当事者のリナリアは、真っ青になって今にも倒れそうになってる。
煩悩の塊みたいな邪霊だけあって、生贄を言葉責めするため発声能力を身に付けたに違いない。そして相手が喋れないのをいいことに、いやらしい言葉でいたぶったり脅したりしたんだろう。
花嫁に選ばれた人魚族の女性が全員そんな目にあってきたって思うと、だんだん腹が立ってきたぞ。僕は陵辱や拷問イベントの出てくるゲームって、好きじゃないんだ。そんなこと現実にやらせてたまるか、絶対に阻止してやる。
アイリスにもう一つだけお願いをして、上空から幻影を使った誘導に向かってもらう。
「もう誰も怖い思いをしないように、あいつを必ず倒してくるよ。だからもう少しだけ我慢してくれる?」
「(……こくん)」
「リナリア様の声が戻った時には、一晩中ベッドでお話しましょうね」
「(///)」
なんかスズランの接し方って、他の精霊たちやアスフィーとは少し違う気がする。もしかするとスズランにとって、リナリアは妹的ポジションになってるのかも。お風呂で洗い合いをしたおかげだろうけど、仲が良いのは見ていてほっこりする。
「守護者級程度の相手であれば心配はいらん。一人も欠けることなく戻ってくるから、安心して待っていてくれ」
「終わったらみんなで泳ぎに行こうね!」
「さすがご主人さま、ナイスな提案だぜ!」
「それでは行ってきますので」
「我らの問題じゃのに、頼りっきりで申し訳ないのじゃ。人魚族が受けてきた無念を、どうか晴らして欲しい」
「カクタス君」
「ひぃっ……な、なにかな」
そんなに怯えないで欲しんだけど。
やっぱり特級スキルで発動した魔法がまずかったのかな。だけど僕もあそこまで水柱が上がるなんて、思ってなかったんだよ。
「あのモンスターは近づくだけで意識を奪う、ガスみたいなものを出してると思う。だからなるべく風上へ向かって、離れるようにして欲しい。それから、たぶん火系の魔法が有効はなずだから、伏兵みたいなのがいたらお願いね」
「君たちはその……大丈夫なのかい?」
「うん、僕たちは状態異常無効の加護があるから、大抵の毒物には対抗できる」
「わかった。敵が現れた時は私が責任を持って対処しよう」
「学園長とリナリアのこと、守ってあげて」
「このカクタスに任せたまえ、命にかえても守り通してみせる」
うん、やっぱり何だかんだで責任感のある人だ。学園長は問題児みたいなことを言ってたけど、役割をしっかり与えてあげれば、勝手な行動も減る気がする。
「アイリスが誘導を始めたみたいだぜ。俺様が運んでやるから、お前ら背中に乗りな!」
テラスで大きくなったクロウにまたがり、島の端にある空き地へ飛んでもらう。そこで迎え撃つ準備をして、確実に葬ってやる。
◇◆◇
「オデノ花嫁……ドウジテ逃ゲル」
アイリスに誘導されたモンスターが、こちらにどんどん近づいてきた。幻影で作ったリナリアは、障害物をすり抜けながら滑るように移動してるけど、全く疑問に思ってないみたいだ。あまり知能が高くないなら、これからの作戦もやりやすい。
「ヤット捕マエ……グゲェーー」
シアに作ってもらった落とし穴に、アイリスの幻影で地面とリナリアをセットで出してもらった。そしてズルズル這い寄ってきたモンスターが、まんまと引っかかって穴へ落ちる。今がチャンスだ!
〈タイタン・フット〉
――ズドォォォォォォーーーン!!
「イデェェェェェーーー……イデェヨォォォ」
そこに硬い岩でできた、巨大な足を落下させる。
石の塊でもいいんだけど、個人的な鬱憤ばらしも込めて踏みたかったんだ。
とりあえず踏まれて喜ぶようなタイプじゃなくて良かった。エナメルブーツを履いた女王様の足とか、ピンヒールを落とさなくて済むしね!
「神ヲ……足蹴ニジダナァァァァ」
「なに言ってるのさ、神じゃなくて煩悩の塊じゃないか」
体勢の崩れた状態で踏みつけたから、結構ダメージが入ったと思うんだけど、まだまだ元気だな。シアと魔法を同時発動させて、このまま蒸し焼きにしてしまおうか……
「許ザン……許ザンゾォォォ」
「うわっ、分裂したよ!?」
「穴からどんどん這い出してきやがるぞ!」
「少し時間を稼いでくれ。私がこの一帯を結界で封鎖する」
リナリアをさらった使者は、カエルのモンスターが合体したって聞いてたけど、こうやって本体から分離してたのか。シアの結界が完成するまで、一匹も逃さないようにしないとダメだ。
「落とし穴から離れた場所で【威圧】の準備をなさい」
「わかった!」
カメリアが少し離れた場所まで走っていくと、アイリスがそこにリナリアの幻影を生み出す。
「「「「「……! 花嫁……オデノ花嫁!!」」」」」
〈そこを動くなッ!!〉
「「「「「!!!!!」」」」」
幻影と重なった状態で【威圧】を使ったから、効き目がものすごく高い。これは二人のファインプレイだよ!
思考が単純な相手にはかなり有効な手段になるな。落とし穴の代わりに、こっちで足止めしても良かったかも。
「いくよアスフィー!」
『ご飯の時間』
彫刻のように固まっているモンスターを、アスフィーで次々光に変えていく。数が多いだけあって、とても満足そうだ。
ツヴァイヘンダー型の魔剣で、まとめて斬り捨てるカメリア。結界を維持しながら、魔弓で次々仕留めていくシア。分裂したモンスターは徐々にその数を減らしていき、やがて動いているのは僕たちだけになる。
どうやら分裂すると特殊能力が無くなるようで、持っているのは魔法耐性くらいになっていた。ナメクジ型カエルの時は、恐らく高い物理耐性もあったはず。そうでなかったら、あの質量魔法には耐えられないだろう。
もしかすると使者よりもっと強力な魔法耐性や、魔剣でも傷がつけられない斬撃耐性なんかを、持ってた可能性が考えられる。分裂してくれたのはラッキーだったな。
「マスター、まだどす黒い思念波のようなものを感じます。どこかに隠れている者がいますね」
「どこにいるかわかる?」
「……落とし穴の中にいるようです」
そっと落とし穴に近づいていくと、何やらブツブツとつぶやく声が聞こえてきた。
「マダ諦メナイゾ……花嫁ヲ奪ッデ復讐ジデヤル……声ヲ返ジテ……悲鳴ヲオカズニ楽ジムノモイイ……ゲヒッ……ゲヒヒヒヒヒヒ」
「そんなことはさせないよ」
「ド……ドオジデココガ」
「そのように黒い波動を撒き散らしていたら、見つかるのは当然ですよ」
「オ前……何者」
「それをあなたにお答えする必要はありません」
おそらくこれが、モンスターの核になってる本体といったところだろう。一体だけこんな所に隠れてるなんて、変なところで知恵が回る。もしかすると生存本能みたいなものなのかも。
まあ理由がどうであれ、そんなことはどうでもいい。
どのみちこいつを生かしておくつもりはないからね。
「今まで人魚族を散々苦しめてきたんだ、楽には逝かせてあげないよ」
「マデ……今ナラ数々ノ無礼、許ジデヤル」
「低級な邪霊の分際で、偉そうに言わないでもらえるかな。とにかくお前はもう終わりだ、二度とこの世界に現れるんじゃない!」
〈レイジング・インフェルノ!!〉
「グゲェェェェェー……アヅイ……アヅイヨォーーーッ」
「それは敵を焼き尽くすまで消えない炎だよ。これまでの行いを後悔しながら、その存在ごと消えていくんだね」
予想通り強力な耐性スキルは、本体であるこいつが持ってたみたい。落とし穴の中を荒れ狂う猛火にさらされても、なかなかしぶとく生き残ってる。そのぶん苦痛が長引くから、ざまあみろって感じだよ。
――イ゛ェアアアアーーー……
しばらくのたうち回っていたモンスターが、断末魔の声を上げて光に変わる。
これで長年人魚族を苦しめてきた、悲しい歴史に終止符を打つことが出来たはず。アプリコットさんに報告して安心してもらおう。
――こうして無事にモンスターを倒すことができたけど、リナリアの声は戻らなかった。
呪いの館
◇◆◇
次回、解決策を求めて吸血族の始祖を訪ねる主人公たち。
そこには……




