第6話 単に見境や節操がないだけだろ?
誤字報告ありがとうございました!
内容は変わってませんが、表現を少し変えています。
お姫様抱っこしていた女の子を、地面にそっと下ろす。不安げな瞳で僕たちのことを見てるけど、ありえない火力の魔法とかで怯えさせちゃったかもしれない。
そんな姿を見てつい、洞窟の明かりを反射してキラキラ光る、エメラルドグリーンの瞳がすごくきれいだ、なんて不謹慎な感想を抱いてしまう。セミショートの髪がくすんだ紫色になってるけど、これは粘液がべったり付いてるせいかな。
「大丈夫?」
「――、――――――、―――」
「あっ、無理に話そうとしなくてもいいよ。モンスターの粘液やガスで、喉を痛めてるかもしれないから」
こちらになにか伝えようとしてくれたみたいだけど、女の子の口からは空気の抜けるかすれた音しか出ない。たぶんこの子も[歌姫]だろうし、無理をさせて仕事に影響が出たら大変だ。
「とりあえず大抵の毒物に効果がある薬を飲んでおいてくれ」
「シア様は【薬術】のスキルを持っておられますから、医療施設で出される薬より効果がありますよ」
同族に見えるスズランに言われて安心できたのか、女の子はシアが渡した水薬を少しづつ飲み込んでいく。なんか小動物みたいで可愛い。
飲み物を口にして人心地つけたからかな、女の子の両目から涙がポロポロとこぼれだしてしまった。
「もう大丈夫だから安心してね。他の四人も命に別条はないし、出口までは僕たちが送っていくから」
「――……、――――」
リョクに出してもらった毛布で体を包んで、あやすように背中をゆっくり撫でる。しばらく毛布に顔を埋めて泣いてたけど、そうしているうちに少しずつ落ち着いてきた。
「えっと、肯定の時は首を縦に振って、否定する時は横に振ってもらっていいかな?」
「……(こくん)」
「まずはみんなのいる場所に行って、体の汚れだけ落とそうと思うんだけどいい?」
「(こくん)」
「立って歩けそう?」
「(ふるふる)」
あんな事があったんだし、腰が抜けちゃってても仕方ないか。むしろ意識を保ってただけでも凄いと思う。気弱そうな印象を受ける子だけど、人前で歌うことが多いだけあって度胸があるのかも。
スズランが持つスキルの恩恵を受けている僕たちだから、大抵のことは冷静に対処できる。もしそれが無い状態でモンスターにさらわれたなんて事になったら、男の僕だって取り乱して泣き叫んでただろう。その点、この子はとても強い。だけど心に傷を負ってるだろうし、身内や先生に引き渡すまでは、僕たちができるだけフォローしてあげないと。
「一番力の強い僕がさっきみたいに運ぶことになるけど、それでもいい?」
「(こくん)……(ふるふる)」
「あっ、やっぱり男に触られるのは嫌?」
「(ふるふる)」
「えーっと……僕の後ろにいるスズランって子ならどうかな?」
「(ふるふる)」
うーん、一度うなずいてから否定ってどういうことだろう。男に触られたくないってわけじゃないみたいだし、スズランに運ばれるのも拒否してる。ここから動くのが嫌ってことは、ないと思うんだけど……
「マスター。恐らくですが、彼女はご自分の臭いを気にされてるのではないでしょうか」
「(こくん、こくん)!」
「あっ、そういうことか」
リョクのスキルだと服まで綺麗にできないし、アイリスの力でいつでも家に帰れるから、着替えを持ち歩いてない。第一、結界で人払いしたとしても、迷宮内で全裸になって清浄なんかしたら、新しい扉が開放されてしまう。
数日かけて迷宮を攻略する探索者たちって、一体どうやってるのかな。
いや、そんなこと今はどうでもいい……
「僕もかなり汚れちゃってるし、それは気にしなくて構わないよ。かえって僕のほうが臭うかもしれないから、その点はゴメンね」
「(ふるふる)」
「乾くと臭いや汚れも落ちにくくなる、急いで戻ったほうがいいだろう。運ぶなら力のあるダイチが一番安全だ。君もそれで構わないか?」
「(こくん)」
納得してくれたみたいなので、さっきと同じようにお姫様抱っこをする。身長は他の子たちより若干低いから、百五十センチにぎりぎり届かないくらいかな。もちろん体格の割にまろやかなモノをお持ちなので、おんぶの選択肢は無しだ。
女の子は体に巻いた毛布を顔の半分くらいまで持ち上げ、頬を染めながらこちらを見ている。すごく庇護欲を刺激する仕草は、僕の中にある何かを刺激してやまない。これは四半期ごとに交代する、通称〝俺の嫁〟を見ている感覚に近いかも。今まで画面の中にしか感じなかった気持ちを呼び起こすなんて、歌姫って呼ばれる子たちはカリスマ性のある存在ってことだろう。
「いくらその子が歌姫だからって、あまりジロジロ見るのは失礼だぞ、ダイチ」
「芸能活動してる人と、こんなに接近するのは初めてだから、つい見とれちゃってた」
「やはり男性というのは、可憐な少女に心惹かれるものなのか?」
「どうなんだろう、人それぞれじゃないかな」
この世界は娯楽が少ないから、なにかに一極集中しそうだけど、日本は多様化が著しかった。ソーシャルゲームなんかでも、色々なタイプのアイドルを登場させて、イチオシ総選挙なんてやってるくらいだ。トップになると中央で歌えたり、上位のメンバーはソロアルバムを出せるってやつ。
「(ジーーーー)」
「あっ、えっと僕?」
「(こくん)」
「僕は互いに心を通わせられる人なら、好きになれるよ」
いま僕の周りにいる女の子たちを見たら納得できないかもしれないけど、やっぱり見た目より相性が一番大切だと思う。だって出会い方は色々だったけど、みんなとの暮らしはとても楽しいから。
「参考までに聞きたいのだが、ダイチは歌姫にどんな印象を持っていたのだ?」
「実は歌姫を見るのって、今日が初めてなんだ」
「(!?)」
「そうだったのか。アーワイチにも来ていただろうに……」
確かにコンサートの告知とか、街の掲示板に貼ってあったりした。でも異世界に来たばかりで余裕がなかったし、元の世界でも興味のない分野だったからスルーしてたんだよ。
「ただ今日であった子たちは普通の学生と変わりなかったから、勉強と芸能活動の両立ですごく大変だろうなって」
「(こくこく)」
「確かに歌姫たちは大陸中を飛び回ってるからな。他種族の立ち入りを厳しく制限している、オッゴの首都でも特例で歌唱会を開けるほどだ」
「(くいっ、くいっ)」
「えーっと、私のことはどう思う? かな」
「(こくこく)」
「あんな状況を一人で耐えるなんて、普通は無理だと思う。すごく強い子だって感じたかな。よく頑張ったね、えらかったよ」
「(うるうる)」
瞳をうるませた女の子が、僕の胸に顔を埋めてまた泣き出してしまった。しまったなぁ、泣かせるつもりなんて無かったのに……
どうしよう。この辺りに他の探索者はいないけど、誰かに見られたら大変なことになるかも。今さらながら、世界的に有名なアイドルをお姫様抱っこしてる、今の状況が怖くなってきたよ!
「まったく、か弱い女性を泣かせるとは……ダイチはとんでもないロクデナシだな」
「わざとじゃないからね!?」
「そうやって無自覚に人の心へ入り込んでくる辺り、実にけしからん!」
「僕はすごく自然な会話の流れだって思ってたんだけど!?」
「つまり相手が歌姫だろうと、まるで息をするように殺し文句を言っているわけだ」
「どんな立場の方でも別け隔てなく接してくださるのは、マスターの良いところですから」
「単に見境や節操がないだけだろう?」
「シアひどい! 僕だってちゃんと線引きくらいできるよっ」
「(くすくす)」
あっ、僕たちのやり取りを聞いてた女の子が笑ってくれた。シアはこれを狙ってやってくれたのかな。ちょっと心にダメージを受けたけど、女の子の緊張も少しほぐれたみたいだし、結果オーライってことにしておこう。
僕たちをまぶしそうに見つめる視線を感じながら、待ち合わせ場所へ急いで移動した。
すっかりアイリスに依存してる主人公は、テントで着替えるなんて発想が出てきません(笑)




