閑話14 カクタス
今回の話はエルフの貴公子(?)カクタス君SIDEです。
私の名前はカクタス。父は最年少で[賢聖]になり、実力もナンバーワンと言われるユーフォルビアだ。母は平凡な才能しか持っていなかったが、父が娶った者の中では最も容姿が優れていた。
そんな二人のいいところを受け継いだ私は、見た目も才能も兼ね備えた、誰もが一目置く存在である。学業成績は常にトップをキープし、魔法実技でも負けたことはない。街を歩けば皆が私に媚を売り、女性たちは我先にと言い寄ってくる、全てにおいて完璧な男だ。
私がこのまま研鑽を積んでいけば、父の持つ記録を抜くのは確実だろう。その時には嫁の数でも負けないようにしようと考えている。
そんな私は将来へのコネづくりと、容姿の優れた嫁候補を探すため、ウーサンへ留学を決めた。父は同族しか娶らなかったが、私は配偶者の種族を限定する気はない。特に人魚族の女性には、必ず加わってもらなければ……
こうした目論見で始めた留学生活だったが、学園内で地位を確立するのは容易かった。授業の内容も低レベルだし、魔法に至っては私の足元にも及ばない。迷宮内での実習など、あくびが出てしまうほどだ。それだけの実力を持つ私を快く思わない学生もいたが、少し本気を出すだけで引き下がってしまう、そんな骨のない連中ばかりである。
そしてまた退屈な実習授業が開始された。
しかし今日は嬉しいことが一つある。それは[歌姫]たちが、ツアーから帰ってきているからだ。仕事が忙しい彼女たちは、こうして授業に出られる日が少ない。せっかく巡ってきたチャンスを、絶対にモノにしてみせよう。
ウーサンでは容姿や歌唱力に優れた者を歌姫と呼び、偶像として世界中に派遣していた。年齢制限や恋愛禁止など、様々なルールに縛られた彼女たちを、開放してあげるのが私に与えられた使命なのだから。
◇◆◇
ツアーやコンサートで出席日数の足りない歌姫たちを誘い、私のグループに入れてあげた。みんな大人しくて控えめな娘ばかりだが、私の力を見ればすぐ積極的に迫ってくるはず。この美貌と才能に、なびかない女性など存在しないだから。
今日の実習では、倍の単位がもらえるほどの実績を上げてみせるから、楽しみにしておくといい。
目的を果たして余裕が出た私は、建物内を見回してみる。魔法を使って優雅に戦うエルフ族と違い、他種族の探索者はがさつな者ばかりだ。
そんな品格の足りない者たちの中に、ひときわ目を引く集団があった。一人の男を取り囲むように立っているのは、四人の女性たち。髪の白いエルフからは、なんともいえない風格が伝わってくる。日に焼けた肌が少し残念だが、凛とした佇まいが素晴らしい。白くなってしまった髪は、強い日差しの影響だろうか? エルフ族の誇りでもある金色の髪を痛めないよう、私も気をつけねば。
しかし、まさか国外でこれほどの逸材に出会えるとは……
それに後ろに控えている人魚族の女性は、いったい何者なのだろう。学生では出すことのできない艶やかさがあり、すべてを包み込んでくれそうな微笑みは、まるで聖母のようだ。そして他の者たちを圧倒している、豊かな胸が素晴らしい。エルフ族には決して到達できない頂を、ぜひとも攻略したいものである。
彼女たちにすっかり目を奪われてしまった私は、吸い寄せられるように近づいてしまうのだった。
◇◆◇
近づいてみてわかったが、少し変わった髪の色をした子供と、魔人族の女性は五片のスキル持っている。人魚族の女性は無片だが、この美貌があれば何も問題はない。オルテンシアというエルフの女性は、手袋をはめていたのでスキル数はわからないが、中級探索者だから実力はあるのだろう。
しかし人族の男についている紋様はなんだ?
見栄を張るために描きこんだのだとしても、もっとスキル紋に似せる努力をするべきだな。まだスキルの発現してない子供が、遊びでやる落書きのほうがまだマシだぞ。まさかオルテンシアが手を貸したとは思えないが、【書術】のスキルを持ったエルフ並みに綺麗な図形を描いたことだけは褒めてやる。
こんな見栄っ張りの男と行動するなど、彼女たちの才能が勿体ない。どうせなら私のように、優秀な者と組むべきだ。そうした意図を込めてさり気なく勧誘してみたところ、彼女たちはとんでもないことを言い始めた。
世界を超越する力?
守護者級をソロ撃破?
ふふふふふ、なかなか面白いことを言う。私の父ですら特級モンスターをソロで倒すのは、不可能だというのに……
人魚族の女性は召使いのようなことを言っているし、オルテンシアは私の言葉を完全に聞き流している。まさかこの私に、そんなことを言える女性がいるとはな。こうもすげなく扱われたのは初めてだ。この平凡そうな男に、なんの未練があるというのか。
良かろう、この私に名前を教えるがいい。男の名前など覚える価値などないが、今回だけは特別に記憶しておいてやる。だがこれだけは忘れるな、人族がどうあがいたところで、エルフの私には勝てないことを。
◇◆◇
学園が支給している特別な腕輪を装着し、私たちのグループも迷宮へと入る。この腕輪はモンスターのランクによって点数が入る特殊仕様だ。成績優秀な者には単位ボーナスがあるので、それを彼女たちにプレゼントしよう。学業と歌手活動を両立させている歌姫たちには、最高の贈り物になるはず。これで私の株も大いに上がるというもの。
「あの、カクタスくん……」
「どうしたのかな?」
グループの一人が、私におずおずと声をかけてきた。こうして控えめで奥ゆかしいところはポイントが高い。やはりこの娘たちを誘ったのは正解だったな。
「さっきの曲がり角って、右に進むのが指定コースだけど」
「ああ、左に向かっているのはわざとだよ。なにせこの迷宮は足場が悪いし、環境もあまり良くないからね。そんな場所に長居させて、君たちが怪我をしたり病気にでもなると大変だ。だから中級モンスターを何匹か倒して、さっさとここから出ようと思ってるのさ」
「危険じゃないですか?」
私の実力があれば、中級程度が何匹襲ってきたところで敵ではない。なにせ【魔術】のスキルを持った、エルフなのだから。雷や岩に弱い水棲モンスターが多いこの迷宮だと、私は無敵なんだよ。
「ははははは、何も心配しなくていい。君たちは後ろで見ているだけで大丈夫だからね。もし手伝ってくれるのなら、歌を聞かせてくれると嬉しいな」
「わっ……わかりました」
歌姫の彼女たちは、全員が【歌唱】のスキルを持っている。その歌声には気持ちが高揚したり、集中力が高まったりする特別な効果が乗ることは有名だ。だから人魚族の歌手は世界中で人気が高い。効果は微々たるものだけど、可愛い子に応援されるだけで百人力さ。
◇◆◇
中級モンスターを数匹倒したので、課題に必要な点数は十分だろう。他のグループはお昼すぎまでかかるだろうけど、私たちは戻ってから優雅に昼食を楽しめる。
おっと、隣の部屋にちょっとした集団がいるようだ。少し変わった色をしているが、しょせんカエル型のモンスター、雷撃で一網打尽にできる。あれを潰しておけば、単位ボーナスは確実なはず。
「最後にあの集団を範囲魔法で倒すから、それが終わったら地上に帰ろう」
「「「「……はっ、はい」」」」
ふふふ、私の強さにすっかり飲み込まれてしまったようだね。しかし私の力はこんなものじゃないんだよ。それをこの範囲魔法で見せてあげよう。
集中力を高めながら視線を動かし、部屋いっぱいの範囲を指定する。
〈雷の雨〉
体の周りに魔紋の帯が構築されていき、それが一周すると魔法が発動した。このスピードで魔法を放てるのは、【魔術】のスキルを持ったエルフ族だけ。しかも上位属性を難なく使いこなせる者など、同年代では私くらいしかいない。
部屋一面を雷が覆い尽くし、轟音が鳴り響く。少しマナを消費しすぎたが、手加減なしの魔法を浴びれば、たとえ変異種であっても一撃だろう。
「カッ、カクタスくん。モンスターまだ生きてる……」
「なにっ!? そんなはずはっ!」
集団でいたから彷徨う者ではないはず。いくら変異種といえど、こんな場所に魔法耐性があるモンスターが出た記録はない。そもそも父に認められた私の魔法は、上級が相手でも通用するんだぞ。
雷がダメなら岩はどうだ。
〈岩の、矢〉
くっ、私としたことが……
集中力を欠いて魔法の発動に失敗してしまった。しかもモンスターたちの様子がおかしい、お互いの体を寄せ合って一体なにをするつもりなんだ。
「なんか大きくなってる」
「がっ、合体するモンスターなんて、聞いたことがないぞ」
「とっ、とにかく逃げないと……」
「新種ならギルドにも報告しないといけない。いちど撤退して対策を練り直そう」
私もマナを使いすぎたし、どこかで落ち着く必要がある。怯える少女たちと移動を始めたが、ぬかるみに足を取られた娘が転んでしまう。迷宮に入ってから、ずっと私に話しかけていた少女だ。
「大丈夫か、プラム君」
「はっ、はい。大丈夫です」
「とにかく急ごう、立てるかい?」
奥の部屋を見ると、モンスターが合体を終え、数倍の大きさになっている。巨大化したことで性質でも変わったのだろうか、そのモンスターから醜悪な臭いが漂ってきた。
腕をとってプラムを立ち上がらせ、部屋の出口へ向かって急ぐ。そして先行させた彼女が通路へ出た直後、左腕に鋭い痛みが走りバランスを崩す。そのあと頭に何かが当たったところまでは覚えていたが、次の瞬間には目の前が暗くなっていた――
カクタスが人魚族にこだわっている理由が存在するのですが、とある種族特性が関わってきます。7章の終盤に判明しますので。




