第3話 仕事してくださいよ、先生
自分は[賢聖]の息子だと言っていた、カクタスという男性が近づいてきた。一緒にエルフ族の女生徒も二人ついてきてるけど、その視線はシアに向けられている。いくら賢聖の息子でも、ハイエルフの真実は知らないだろう。
そもそも禁書に指定してまで隠していた情報なんだし、知ってるのはほんの一部の人だけなはず。ハイエルフに関する書物はほとんど持ち出したってエトワールさんは言ってたから、賢聖ですら知らない可能性が高い。
変に絡まれたら、僕がみんなを守ってあげないと……
「そこの君、初めて見る顔だね」
「ああ。昨日まで別の場所にいたから、会うのは初めてだな」
「おっと、自己紹介の前に声をかけるなんて、とんだ失礼を。私の名前はカクタス、父は最年少で賢聖になったユーフォルビア。君も知ってるだろう? 以後お見知りおきを、お嬢さん」
「ユーフォルビア様のご子息だったのか。私の名はオルテンシアという。よろしく頼む」
さり気なく父親を自慢してるあたりがあざとい。たぶんそれを伝えるだけで、一目置かれるからだろう。だけど異世界人の僕や、他種族のアイリスとカメリアにはあまり効果がないからね。もちろんシアだって、臆することなく受け答えしてる。当然スズランも無関心な視線を向けているだけだ。
いきなり自分がどれだけ優秀か語り始めたけど、学校行事をほったらかしでいいのかな? 引率の先生っぽい人は知らん顔してるけど、彼に弱みでも握られてるんですか? 仕事してくださいよ。
「――とまあ、見聞を広めるために、ここの学園に留学したんだよ。君も困ったことがあれば、五片の私を頼ってくるといい。同郷のよしみで手を貸してあげるからね」
「もしそんな事態が訪れれば、お願いするとしよう」
「私は美しい女性の味方だから、遠慮なんていらないよ」
エルフ族ってまだあまり見たことないけど、シアには他の人にない魅力さがある。これは僕の贔屓目じゃないはず。だって目の前にいるちょっと派手な取り巻きの二人より、確実に可愛いもん。恐らく彼もそれに気づいたから、こうして声をかけてきたんだろう。
それに、さっきからスズランの方もチラチラ見てるんだよね、この人。エルフ族の男性はハーレムを作ることに抵抗がないってシアが言ってたし、こうやって手当りしだい可愛い子に目をつけるんだなぁ。
「う~ん、それにしても勿体ない。せっかくの美貌が日焼けのせいで台無しだよ?」
「国を出たのはもう随分前だし、今はこの肌が気に入ってるから、元に戻す気はないな」
やっぱりこの国だと日焼けって思ってもらえるのが助かる。今後はここを活動拠点にしちゃうのも良いかもしれない。迷宮の難易度とか見ながら、みんなに相談してみよう。
「ねぇねぇカクタスくぅ~ん。髪も変な色だしぃ、もしかしてダークエルフだったりしてぇー?」
「あっはっはっ、バカなことを言ってはいけないよ。ダークエルフなんかになったら、恥ずかしくて外に出られるわけがない。私なら潔く自決するね」
「えぇ~、カクタスくんが死んじゃったらぁ、私も生きていけないよぉー」
「そーそー、死んじゃうなんてダメだからね」
やっぱりダークエルフに対する偏見って凄いな。賢聖の息子ですらこれなんだから、情報操作は完璧だ。
「そういえばあたし噂で聞いたことあるんだけど、大賢者は目立つために髪を白くしてるんだって。もしかして、それを真似してるとか?」
「あはははっ、ウケるぅ~!」
「大賢者なんて運良く手柄を手に入れただけで、賢聖の足元にも及ばない小物さ。君たちもエルフ族を裏切った人物の真似をするなんて、してはいけないよ」
真実を知らないから好き放題言われてるよ、エトワールさん。それに賢聖からは、いまだに恨まれてるっぽい。あの人が里帰りできる日は、まだまだ遠そう……
「そんな事より、今は授業中じゃないんですか? そろそろ戻ったほうが、いいと思いますよ」
「おっと、そうだった。自作のスキル紋を描き込んでるような人物に言われるとは、私もまだまだだな」
「そっちの子供とぉ、魔人族の子が五片だしぃ、仲間はずれは嫌だったからぁ、描いてたりしてぇー」
「その気持、ちょっとだけわかるかも! あたしも五辺には憧れてるし」
これはスキル紋じゃなくて剣紋だから!
肌に魔法陣を描き込んで「クッ! 封じられた左手がうずく」や「フッ……お前程度の相手に、左手を使う必要もなかったな」とか言いたい年頃は、もう卒業してます。
説明するのが面倒だから、このままスルーするけどね。
「それでは、私はこれで失礼させていただくよ。もし彼に不満があったら、いつでも相談に乗ってあげるから、遠慮なく訪ねてきたまえ。特にそちらにいる人魚族のお嬢さんとは、仲良くなりたいものだ」
「私に気に入られたいのなら、世界を超越する力が身についてからにしなさい」
「守護者級をソロ撃破できる実力があるなら、話くらいは聞いてあげるよ」
アイリスはしれっと僕の素性を明かしてるし、カメリアは大勇者でも難しいことを言い始めた。それにしても、あからさまな引き抜きでなく、間接的に勧誘してるあたり、頭の切れる人だ。
「私の存在意義は、この方にお仕えすることが全てですので」
「今の言葉は聞かなかったことにするから、早く戻ったほうがいい。先生が困ってらっしゃるぞ」
しばらく僕たちの方を無視してたけど、今はハラハラした表情でこっちの様子を見てる。このカクタスって人、色々な点で問題児なんだろう。なにせ授業中にも関わらず、ナンパしに来るくらいだ。これまでも様々なトラブルを起こしてるに違いない。
「フッ……まさかこの私がいとも簡単にフラれるとは、初めての経験だよ。君、名前は?」
「僕の名前は大地。よろしくね」
「ダイチ君か、覚えておくよ。この私が男の名前を記憶するなどめったに無いことだから、光栄に思うといい。では、機会があったらまた会おう」
最後にウインクをして、学生の集団へ戻っていった。喋り方もそうだけど、やることがいちいちキザだなぁ。女の子ウケはいいのかもしれないけど……
ちょっと自信過剰すぎるけど、性格が悪いわけではなさそう。もっとも、女性限定って言葉が付くけどね。とにかくシアのことを、うまく誤解してくれたのは助かった。
このあと実習授業で迷宮へ入るって聞こえてきたから、邪魔しないように気をつけないと。学園の行事なら計画表が提出されてるだろうし、ギルド職員に聞いて違う場所に行ってみることにするか。危険があって難易度の高い場所で、実習なんてしないはずだから。
次回はカクタス君サイドの話です。
彼の運命やいかに……




