表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/237

第1話 船旅だョ!全員集合

新章の開始です。

いくつもの出会いを経て準レギュラーも増える第7章を、ぜひお楽しみ下さい!

 ウーサンは大陸の一部が大きく湾曲した場所にあり、その周囲を大小様々な島が取り囲む国だ。地理的にはベーリング海とか日本海みたいな、縁海(えんかい)が一番近いのかな。ただこの世界では、海に名前はついてないみたい。


 そして外海を隔ている島の中で最大のものが、国の首都にもなっているウーサン(とう)になる。直行便は貨物船かチャーター船しかないので、旅客船はいくつかの島を経由しながら、半日かけてウーサンに着く。僕たちもそれを利用してるから、観光遊覧船気分で船旅を楽しんでいた。



「ボク船って初めて乗ったけど、風が気持ちいいねー」


「私も船旅は初めてだから警戒していたのだが、あまり揺れないのだな」



 人を乗せて運んでくれるのは、平べったい形をした全長三十メートルくらいの船。前方には屋根があって座席が並び、後ろの方は開放されたデッキになってる。日本にあった水上バスを彷彿とさせる船体で、定員は百人程度らしい。


 こうした形の船が就航できるってことは、ここの海はほとんど荒れないってことだろう。おかげで船酔いの心配はないし、バランスを崩すことなくデッキに立っていられる。



「私たちまで乗せていただいて、本当によろしかったのでしょうか、アイリスお嬢様」


下僕(げぼく)が全員で乗ろうって聞かないんだもの、気にしなくてもいいわよ」


「……余計な出費になってない?」


「イノーニを出る前に、迷宮で稼いできたから大丈夫だよ。列車は席が取りにくいけど、船だったら団体でも平気だからね。せっかくだし旅の思い出に、みんなで乗ってみたかったんだ」


「私、お嬢の使い魔に生まれてよかったよ。ありがとね、ダイチ!」



 なにせあの短時間で五つの集団を潰したのは、探索者ギルドでも驚かれてしまった。それができたのも、カメリアとクロウのコンビがいるから。上空からの索敵って、この世界では反則だし。


 そんな貢献をしてくれたクロウは、列車の旅を存分に楽しんでいた。主にカメリアのおっぱい枕を……だけどね。そして今は気持ちよさそうに、上空を旋回している。


 ここは洞窟型の迷宮なので、同じことは出来ないと思う。でも難易度の高い場所へ行けるようになったから、より多くの人を養っていけるはず。クランなんて作って大人数で活動する予定はないし、稼いだ分は仲間のために使いたい。そんな思いがあったので、船旅は全員でしてみることにした。



「アスフィーちゃんは、体に不調とか出ていませんか?」


「潮風ベタベタする。あとでお風呂はいる」


「今夜は念入りに洗ってあげますからね」



 もちろん乗船前に顕現してもらったアスフィーも一緒だ。デッキに備え付けのベンチに腰掛けたスズランに抱っこされ、眠たげな視線で海を眺めてる姿は可愛い。列車の中でもよくこうしてたけど、この二人はすっかり母娘みたいになってる。


 こんな時間はもっと増やしてあげたいし、ウーサンへ着いたら迷宮にも挑戦しないと。



「こういうのは家族旅行みたいでいいものだな」


「使用人を三人連れたお嬢様と、その付き人たちって感じかしら」


「アイリスの服装や話し方は上流階級っぽいし、そんな風に見られてても不思議じゃないね」



 金髪縦ロールだったら更にお嬢様っぽく見えるのに、それが出来ないのは残念だよ。なにせ、この世界では種族によって髪の色が決まってる。ハイエルフに進化する前のシアがブロンドヘアだったように、金色系の髪色はエルフ族だけ。髪を染める技術もないから、吸血族のアイリスは金髪になれない。



「そういえばアイリスって、いつも同じ服を着てるよね。そのドレスって何着もってるの?」


「あら、いい質問ねカメリア。誰も聞いてこなかったから言わなかったけど、自慢も兼ねて教えてあげるわ」


「アイリスお嬢様のお()しになる衣類は、始祖様からいただいた特別製なのです。こちらのドレスには[不朽(ふきゅう)修繕(しゅうぜん)自浄(じじょう)]の効果が付いています。軽く汚れを落として保管しておくだけで、翌朝には新品同様になっているのです」


「どう、凄いでしょ。この服があるから、私の【霧化】を使っても大丈夫なのよ」


「うわー、すごいね! ボクもそんな服があったら欲しいな」



 スズランみたいに身に着けたものが一緒に消えるとかじゃなくて、服自体が特別製だったのか。僕も同じ服を何着か持ってて、ローテーションさせてるんだと思ってたよ。



「その服は秘宝(トレジャー)級だったのか、これは驚いたな」


「カメリアがもらった〝精霊のグローブ〟と同じなんだ」


「ウーサンだと暑苦しく見えるのが難点なのよね。島についたら普通の服を見に行くわよ」


「水着も見ておきたいし、みんなでお店にいこうか」



 ラムネの冷房があるから汗だくにはならないけど、黒いゴスロリドレスで過ごしてたら目立つことこの上ない。常夏の国だけあって日差しもきついし、帽子とかも買っておいたほうがいいかも。ノースリーブの白いワンピースに麦わら帽をかぶって、サンダルを履いた姿なんかも似合いそう。



「私の水着はマスターが選んでくださいね」


「ボクは前に着せてもらった鎧みたいなのにしてみようかな」


「あのけしからん鎧か! カメリアは前に恥ずかしいと言っていたのに、どうして着ようと思うのだ?」


「さっきからクロウが【遠視】で遠くの砂浜を見てるんだけど、あれとよく似た格好をした女の人が結構いるんだよ。だから大丈夫かなって」


「ずっと降りてこないと思ったら、そんなものを覗いてたのね」



 やっぱりあるのか、ビキニスタイルの水着。あんまりセクシーなものだと、ナンパとかされそうで嫌だな。ノヴァさんがみたいな人が近くにいれば、声をかけられる確率も減るだろうけど、僕だとあまり虫除け効果がないからなぁ……



「心配ですか? マスター」


「うん。可愛い子や美人が揃ってるから、絶対にナンパされるだろうなって」


「ねぇねぇダイチ。それって私たちも?」


「ミツバは元気で可愛いし、ニナは落ち着いてて美人だし、イチカは大人な感じがしてセクシーだよ」


「……あぅ、恥ずかしい」


「ダ、ダイチ様、お戯れを……」



 あっ、イチカが照れるなんて珍しい。



「まったく……使い魔たちが扱いにくくなるから、何度も口説くのは控えてほしいわね」


「私やスズランというものがありながら、節操がなさすぎるぞ」


「僕は素直な気持ちを伝えただけなのに!」


「ボクにもよく言ってくれるけど、ダイチは褒め殺しの天才だね」


「マスターはまるで息をするように、私たちの心に響く言葉をくださいますから」


主様(ぬしさま)は無自覚。よし、覚えた」


「変なことは覚えなくてもいいからね、アスフィー」



 一緒に寝たりするようになってから、アスフィーはやたら僕のことをいじってくるようになった。笑う姿はまだ見たことないけど、少しずつ心が成長してるのかな。


 この世界ではインテリジェンス(意志ある)デバイス(道具)って言われてるけど、僕は器物に霊が宿る付喪神(つくもがみ)じゃないかって思ってる。そうなるとアスフィーって、精霊に近い存在かもしれない。スズランが自分の子供と同じ〝ちゃん付け〟で呼んでるのも、何らかの共通点を感じてるからかも。


 だとすれば、こうして仲良くすればするほど、より力を発揮しやすくなるはず。


 でも、いじるのは程々にして欲しい。いくら僕が生まれる前から存在してるといっても、見た目が幼女なので精神的ダメージが半端ないから。



「あっ、そろそろ次の島みたいだよ」


「あの駄鳥(だちょう)、一直線に砂浜へ向かってるわね」


「帰ってきたらオシオキだな」


「斬る?」


「いやいや、魔剣で斬ったらさすがのクロウも消えちゃいそうだし、やめとこうね」


「じゃあ刺す」


「どっちも同じだから!」



 クロウの命は風前の灯かもしれない。






 こんな感じにワイワイと、僕たちは船旅を楽しんでいた。この先に待ち受けている、大きな出会いに気づかないまま――


次回は探索者ギルドへ向かう主人公たちに……

水曜日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ