閑話13 魔剣アトモスフィア
誤字報告ありがとうございました!
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第6章の最後を飾る閑話をお楽しみ下さい。
空気の膜を通り過ぎると、氷で覆われた世界が目の前に現れる。道は土っぽい色をしてるけどガッチガチに固まってるし、山のように見える部分はほとんど氷で出来てるらしい。吹雪いてたりしないから視界はいいけど、かなり寒いよここ。吐く息も真っ白だ。
「うわー、さすがにボクもこの寒さは無理だよー」
「高貴な私がこの程度で……と言いたいところだけど、ここはそんなレベルじゃないわね」
「暖房をお願いね、ラムネ」
【自然】のスキルを三つ上げたラムネが加熱と操風を並列発動し、僕たちの周りに温かい空気の層を作ってくれた。星を上げると細かい制御ができるので、僕たちの周りだけが快適な温度になる。各人がバラバラに動いても暖房は途切れないし、冷たい空気を吸わなくていいので呼吸も楽だ。
入口付近でこれなんだから、生半可な防寒装備だと、ここを攻略するのは難しそう。遭難する人もいるって話、たしかにうなずける。
「ねぇシア。普通の探索者って、どうやってこの迷宮に入るの? 着込んだら動きが鈍るし、ボクたちみたいに精霊の力を借りられないよね」
「一番スタンダードな対策は、防寒の効果がついた装備品を身につけることだ。ただこれには欠点があって、装備した部分以外に効果が出ない」
「中途半端に身に着けて、お腹を壊してご飯が食べられなくなったり、ツノが冷えてダイチに触ってもらえなくなりそうで、嫌だなぁ……」
「だから防寒効果のついたマントやローブで移動して、戦闘の時は我慢するというのが一般的だな」
「こうして軽装で優雅に攻略できるのは、ラムネのおかげってわけね。褒めてあげるわ」
アイリスに頭を撫でられたラムネが、すごく嬉しそうにしてる。この子が生まれたのはアイリスのおかげだし、また今夜にでもお礼を言っておこう。
なにせ出発直前に迷宮に入ったのは、僕のワガママみたいなものだから。どうしても移動の前に、アスフィーの栄養補給をしたかったんだ。それに、また話をしたいって理由もある。
戦闘もせずに呼び出すのは可哀想だから、シアに相談してあの子が喜びそうな場所まで連れてきてもらった。先日のデートもすごくいい場所だったし、この街に詳しいシアがいて大助かりだよ。
「あっ、向こうの方に太い尻尾をした白い動物が、固まってるみたい」
「恐らくスノー・フォックスの群れだろう。中級ランクで動きも速いから気をつけてくれ」
カメリアにはクロウの偵察があるから、索敵はバッチリだ。部屋や通路のないフィールドマップだと、二人のコンビネーションを最大限に活かせる。
さっきの入り口から繋がってる迷宮は、モンスターがコロニーを作って生息してる領域らしい。ここなら障害物が少なくて思いっきり剣を振れるし、一度に大量のモンスターを狩れるから、アスフィーも喜んでくれるはず。
「アスフィー、来てくれる?」
「呼んだ? 主様」
「あっちにモンスターの集団がいるから、ご飯をいっぱい食べられるよ」
「わかった。手伝う」
刀に変わったアスフィーを手に、モンスターのいる場所まで移動する。キツネっていうからもっと可愛いのかと思ったけど、尻尾にトゲが付いてるし足が太くて爪も鋭い。あれに引っかかれると大怪我しそう。
「少し離れた場所にも二十匹くらいの集団があるから、ボクはそっちを片付けてくるよ」
「わかった、ここは僕とアスフィーで頑張ってみる。気をつけて行ってきてね」
「うん、行ってきまーす!」
ツヴァイヘンダーを顕現させたカメリアが、右側にある丘の方へ走っていく。こっちの集団は三十匹ちょいってところかな。
「討ち漏らしたモンスターは私とアイリスが担当しよう」
「主人に手間を掛けないよう、せいぜい気張りなさい」
「私は何かあったらすぐマスターのおそばに行けるよう、ここで待機しています」
「それじゃあ、頑張ってくる!」
シアは弓で戦ってみるらしく、黄色い宝石がついた風雷の弓を顕現させてる。弓を射る姿も見てみたいけど、いまはアスフィーの食事に集中しよう。
端の方にたむろしている数匹の集団へ一気に近づき刀を振ると、なんの抵抗もなく首が落ちた。やっぱり[切断]の効果が乗ってるから、すごい切れ味だ。
振り下ろした刀の軌道を変え横薙ぎに一閃すると、もう一匹の前足が途中から消えてなくなる。モンスターはこうやって切り落とした部分が消えるから、グロイ絵面にならなくて助かるんだよね。
更に刀を下から斬り上げ、真ん中にいたモンスターの胴体を真っ二つに。状況が飲み込めずに固まっている最後の一匹を、正面から一刀のもとに斬り捨てた。
なんだろう、体が思ったとおりに動く。自分の思考をトレースできてるような動きは、剣戟アクションをプレイしてるような感覚だ。僕の左手に現れた剣紋は、どういった効果があるかわからないって、ノヴァさんは言ってた。もしかすると、刀の扱いに補正がかかってるんじゃないかな。そんな理由でもないと、この短時間で技量が上がるなんて考えられないし。
『うまうま。もっと食べる』
おっと、考えるのは後にしよう。いまはアスフィーのために、一匹でも多くモンスターを倒さないと……
◇◆◇
とりあえず今日は、軽く五つくらいの集団を倒して帰ってきた。上級探索者が贅沢な暮らしをしてる理由がよくわかったよ。ドロップアイテムや輝力の買取金額を見て驚いたもん。とにかく時給が凄すぎる。僕が仲介ギルドで一ヶ月働いた分を、たった数時間で超えちゃってたからね。
アスフィーもかなり満足してくれたみたいで、僕のおんぶで帰ってきてからも、ずっと顕現したままだ。
「アスフィーちゃん、一緒にお風呂へ行きませんか?」
「私は刀。不汚もついてる。洗うの不要」
「石鹸で洗うとさっぱりしますし、いい匂いがするようになります。それにお風呂で温まると、よく眠れるんですよ」
「なんだったら俺様が一緒に入ってやってもいいぜ、スズラン」
「クロウにはカメリア様がいるのですから、そちらを優先してあげてください」
スズランは精霊たちもお風呂に入れてるから、そのノリでアスフィーも誘ってるっぽい。だけど濡れたりすると錆びないのかな? まあ[不壊]の上位効果である[不滅]を持ってるし、お湯に浸かるくらいなら平気だよね……
あっ、スズランの熱意に負けてアスフィーが折れた。
って、刀に対してこの表現は不適切だった。とにかくお風呂を体験してみることにしたようだ。あの様子だと、今日はベッドで一緒に寝ようとか言い出すんだろうな。アスフィーは小さくて可愛いから、スズランの母性が暴走してるのかも。
「あの子はどんどん母親みたいになっていくわね」
「先日膝枕をしてもらったが、母のように安心できてよく眠れたぞ」
「あっ、いいなぁーシア。旅の間にボクもやってもらおうっと」
「その時は俺様におっぱい枕をしてくれよ、ご主人さま」
軽いノリで喋るクロウが増えたし、今回の旅もにぎやかになりそう。アスフィーも一緒に移動ができないかな。寝る前にでも聞いてみよっと。もし自分の意志で顕現できれば、好きなときに遊びに来られるから、僕としては嬉しいんだけど……
とりあえず今は明日の出発へ向け、順番にお風呂へ入りながら旅行の準備をしよう。
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やっぱりアスフィーは、僕たちと一緒のベッドで眠ることになった。何だかんだでスズランは、押しの強い子だよな。何故かイチカもノリノリで、アスフィーが着られるように服の仕立直しをやってたし、スズランは上機嫌で髪を乾かしたりブラシで梳いたりしてたよ。
「お風呂はどうだった?」
「温かい水とても不思議。石鹸ちょっと苦手」
「もしかして頭を洗う時、目に染みちゃったとか?」
「違う。スズラン柔らかすぎ。押し付けられるとくすぐったい」
いったいスズランはどんな洗い方したのさ!?
つい柔らかそうな部分を凝視しちゃったけど、「それが正解です」みたいな笑顔を僕に向けないで!
「お風呂が気に入ったんなら、いつでも出てきていいよ」
「私は道具。用もないのに顕現おかしい」
「話をしたいとか、一緒に散歩したいとか、お風呂に入りたいとかも立派な用事だから、遠慮はしないで欲しいな」
「主様やっぱり変」
「マスターはアスフィーちゃんのことを、娘みたいに思っているからですよ。あなたもそうしてると落ち着くでしょ?」
眠る準備が整った後、アスフィーは僕を背もたれにして、足の間に座っている。アスフィーの身長って、小学校に上がりたてくらいの子供だし、確かに娘って感じがするかも。実際にその年齢の子供がいたら、僕が十四歳の時に生まれたってことになるけどね!
この世界は種族によって成人年齢がバラバラだけど、さすがにその歳で父親になる人はいないだろう……
「腰や背中以外の場所、新鮮。だけど刀を抱く主様、もしかして変態?」
「確かに帯剣する場所って腰か背中だけど、今は人の姿をしてるんだし変態扱いはやめてー」
「わかった。もう言わない。だけど私、スズランみたいに柔らかくない。抱き心地悪いはず」
「そんなことないですよ。アスフィーちゃんのほっぺたとかお腹は、ぷにぷにしてますから」
「あっ、ホントだね。すごく柔らかいよ」
「ぬひひゃま。のわすのらめ」
おっといけない、あんまり柔らかいから思わず頬を引っ張っちゃった。女の子なんだし、もっと優しく扱ってあげなきゃ……
「ねぇ、マスター」
「どうしたの? スズラン」
「私、アスフィーちゃんみたいな子供も、欲しくなってしまいました」
つい先日、シアみたいな子供が欲しいっていてたけど、いったい何人くらい生むつもりなの? だからそんなに熱い視線で僕を見ないでよ。ドキドキして眠れなくなるからさ。
「主様。私とも作る?」
「あの……アスフィーさん。意味がわかって言ってるのかな?」
どう考えてもビジュアル的に事案が発生するから! 仮にそれが可能だったとして、意志ある道具を生み出せるなんてことになったら、世界中から狙われてしまいそう。誰かに見つからないよう、隠れて暮らす生活なんてしたくない。
その後も二人にからかわれながら、出発前の夜は更けていった。
これにて第6章は終了です。
毎度おなじみの幕間をはさみ、いよいよ人魚族の国へ。
今度の相手は邪神!?
ボリューム満点でお送りする第7章に、乞うご期待!




