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閑話11 ノヴァとエトワール

「行っちまったね」


「面白い奴らだったな、エトワール」



 大地(だいち)たちが空間転移で去っていった場所を、ノヴァとエトワールの二人は感慨深そうに見つめている。



「あの坊やのことだから、街や迷宮でも色々やらかすんだろうさ。次に会うのが楽しみだよ」


「人嫌いのお前にしちゃ珍しい、そんなに気に入ったのか?」


「坊やだけでなく、オルテンシアも面白い子だからね。なにせ私の残していった古代文字を解読して、魔道具の鍵も解除してるんだ。自分じゃ気づいてないみたいだけど、すでにあの歳で当時の私を超えてるはずさ」



 アーワイチの森にあった小屋は、元々エトワールが使っていた。この大陸でも歴史ある国のアーワイチには、古い文献がたくさん残っている。それを研究するための拠点として、あの小屋を使っていたのだ。


 呪いを受け止めることができた、驚くほど柔軟な魂の器。そうした異物を抱えたまま、最後まで諦めなかった精神性。魂の器にヒビが入った状態にもかかわらず、それまでと遜色のない活動を続けられた地力(じりき)の高さ。


 オルテンシアが経験を積んでいけば、近い将来自分を追い抜くだろう。エトワールはそう思っている。だが彼女にとって、それは喜ぶべきことなのだ。


 まだエルフとして生活していた頃から、ライバルと言える存在に恵まれず、悶々とした日々を送っていた。そうした鬱積を魔法の修行や研究にぶつけていたら、まだ若輩者と呼ばれる年齢で[賢聖(けんせい)]を超える力が身についてしまう。


 その実力を認められ、賢聖任命の打診を受ける。しかし今ですら風当たりがきついのに、そんな地位に小娘が加われば軋轢(あつれき)を生むだけ。自分たちより若くて優秀な人物を(こころよ)く迎えてくれるほど、エルフ族のプライドは安くない。第一、もっと研鑽(けんさん)を積んで高みへ登りたい彼女にとって、後進の育成になど関わってる暇は無かった。


 オファーを受け入れれば針のむしろ、断ってもそれを理由に非難される。そうなる事がわかりきっていたため、エトワールは国を出ることにした。禁書としてひた隠しにされている、ハイエルフの資料を持ち出して……



「確かにオルテンシアのやつは、他のエルフとは違ってたな」


「なにせ私を見た第一声が〝どうしたら胸が大きくなるか〟だって、笑っちまったね。もしあの子が真っ先に魔法を教えてくれなんて言ったなら、叩き出してたかもしれないよ」


「そんな事しなくて良かったじゃないか。おかげで俺はカメリアっていう後継者ができたし、スキルが二つ進化した。それに、お前の魔法も強化されたしな」


「あんたの【強襲】と【逆襲】が進化できたのも、あの坊やが言ってた異世界の〝げーむ〟とかいう遊びを、教えてもらったからだろ?」



 人族であるノヴァは、固有スキルの【剣技】を【武技】に、そして【盾技】を【防技】に、更に【投擲】を【射技】へ進化させていた。これは願いの成就によって寿命を超越したことで、修業を続けた末に得られたものだ。


 しかしそこから先へは全く到達できず、焦燥感(しょうそうかん)に身を焦がす日々を送っていたのだ。そんなフラストレーションが溜まっていたところへ未確認飛行物体のクロウが現れ、八つ当たり気味にいきなり攻撃してしまう。とはいっても、あれでかなり手加減していたのだが……



「一定確率で威力が倍になるとか、普通はありえんだろ。攻撃ってのは力や当たりどころ、それに武器で全て決まるってのが常識だからな」


「反撃したら相手を後退させて()(ぞら)らせるってのも、一体どんな力が働いてるのさって話だね」


それ(ノックバック)に近いことも出来なくはないが、相手との力量差次第だ。今の俺なら[獣王(じゅうおう)]や[魔皇(まこう)]が相手でも、必ず決められるはずだからな」


「そんな非常識なスキルを身に着けちまう、あんたも大概(たいがい)だよ……」


「後継者を育てる気なんて無かったが、直感を信じて受け入れた甲斐があるってもんだ。人生なにがどう転ぶかわからんぜ!」



 ノヴァが後継者育成に消極的だったのには訳がある。それは彼自身特別な訓練や修行を、実践してきたわけではないからだ。大勇者などと呼ばれるようになった後には指導者として期待され、弟子入りを志願する者が殺到した。


 しかし、彼らの求めているのは強くなる方法。


 だが、そんなものはノヴァ自身持っていない。モンスター相手に剣を振り、攻撃は盾で防ぐか回避する。ごくごく当たり前のことをやっているだけ。それなのに何か特別なテクニックがあるのだろうと問い詰められた。そんな生活に嫌気が差し、エトワールと一緒に山奥へ引きこもり、自分たちの存在を世間から隠したのだ。


 ところが自分のもとに現れた大地(だいち)とカメリアは、今まで聞いたことのない要望を口にする。


 <<手に入れた力が強すぎるので、制御する方法を教えて欲しい>>


 二人の言葉を聞いた瞬間、ノヴァは面白いやつが来たと思ってしまう。そして同時に、どこまで伸びるのか確かめてみたい、そんな好奇心を抑えられなくなった。


 スキルを持たず剣の扱いは素人同然の大地、体を動かすセンスはあるが力技で押し切ろうとするカメリア。そんな二人と一緒に修行をやり直していると、まるで自分も初心者に戻った気分になる。そうした感覚が新鮮で楽しい、これはずっと忘れていた気持ちだ。


 その結果ノヴァも全盛期を超える体のキレを獲得し、スキルを二つ進化させた。



「みんなを連れてきてくれたアイリスちゃんには、感謝しないとね」


「そういやあいつ、もう始祖を超えてるだろ?」


「使い魔があんな状態だし、間違いないとおもうよ」


「イチカの気配なんぞ、熟練の探索者と変わらんぞ」


「あの子たちはそんなこと絶対にやらせないだろうけど、今の三人なら一流の暗殺者にだってなれそうだね」



 使い魔というものは、生み出した人物の強さに比例する。大地の血を吸って大きく増したアイリスの力に加え、名前を授けられた三人は使い魔という枠組みを逸脱してしまった。


 本当に強い者というのは、力を隠していてもわかってしまう。これまで数え切れないほどの探索者を見てきたノヴァとエトワールは、それと同じ空気を三人から感じていたのだ。


 もっとも使い魔の三人は、自分たちにそんな力があることなど、全く気に留めていない。毎日の家事をこなすことが生きがいなので、こればかりは仕方のないことである。



「ダイチに譲った魔剣は想定外だったが、アイツラにはもっといいもんを渡してやるんだったな」


「あの子たちなら、すぐ自力で手に入れられるさ。今は秘宝(トレジャー)級と伝説(レジェンド)級で十分だよ」


「いきなり強い武器を持っても迷宮探索の楽しみが減るし、アイツラのためにもならないか……」



 モンスターや宝箱から手に入る装備品には等級があり、効果が一つのものは希少(レア)級と呼ばれ、効果が二~三個のものは秘宝(トレジャー)級の呼び名が付く。そこから上は魔剣等の契約武具となり、伝説(レジェンド)級は効果が三個、神話(ミソロジー)級になると効果が四個、そして創世(ジェネシス)級で五個だ。



「坊やの剣は最低でも創世(ジェネシス)級、下手すると幻想(ファンタズム)級だね。私もあんな意志ある道具インテリジェンス・デバイスと契約してみたいもんさ」


「それなら久しぶりに迷宮へ行くか?」


「いいね。坊やから習った魔法も使いたいし、守護者級を乱獲しようじゃないか!」



 二人は若い頃に戻った気分で、迷宮攻略の計画を練り始める。





 こうして大勇者と大賢者の二人は現役に復帰し、迷宮内でもちょくちょく目撃されるようになるのだった。


次回は大地とオルテンシア、そしてスズランを加えた三人のデート回。

スズランに小さな変化が訪れます。


お楽しみに!

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