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第5話 オルテンシアの過去

過去編です。

 エルフの国[オッゴ]を出たオルテンシアは、人族が治める国[イノーニ]でパーティーを組む。


 剣技・盾技・強襲のスキルが発現した、人族の男オレカス。

 剣技・投擲・逆襲のスキルが発現した、人族の女クズミナ。

 格闘・跳躍・回避のスキルを持った、猫人族の男ディゲス。

 三人が契約しているのは、防御系の力を持つ青の中級精霊だ。


 そしてオルテンシアは、魔術・薬術・知術のスキルを持っている。


 かなり前衛寄りではあるものの、魔術のスキルを持ったオルテンシアが使う魔法は精霊を凌駕しており、彼らのパーティーは順調に攻略階層を伸ばしていた。



「この辺りのモンスターだと歯ごたえなさすぎだな、もっと奥に行ってみようぜ!」


「迷宮では何が起こるかわからない、油断は禁物だぞオレカス」



 先へ急ごうとするパーティーリーダーの言葉に、オルテンシアは眉をひそめる。彼らのパーティーは、メンバー全員が三片(トリプル)ということもあり、他の探索者たちに比べても頭一つ抜けていた。実際、実力もどんどんついていっているが、彼女の目には増長しているようにしか見えなかったのだ。



「シアは相変わらずお硬いなぁー、そんなことじゃ上へ行けないぜ」


「愛称で呼ぶなと、何度も言ってるだろ……」



 名前の愛称呼びを許すのは自分の家族にだけ、そんなこだわりのあるオルテンシアは毎回注意しているが、オレカスはどこ吹く風で受け流している。容姿の整っているエルフ族は人気があり、オレカスも事あるたびにアプローチしていた。愛称呼びは、その一環だからだ。



「そんなに睨んだら可愛い顔が台無しだよ、オルテンシアちゃん」


「クズミナは女のそんな顔が好きじゃないのか?」


「違うよディゲス。あたしが好きなのは、苦痛に歪んで命乞いするときの顔さ」



 そう言ったクズミナの顔がいやらしく歪む。まだ自分の手で実行したことはないクズミナだったが、彼女は軽い嗜虐趣味を持っていた。可愛いものや綺麗なものを壊したい、そんな欲求をモンスターにぶつけている。



「相変わらずいい趣味している。まぁ、その時はオレも参加させろ」


「女のモンスターとか居たら、みんなでいじめようぜ!」



 こうやって時々暴走するパーティーメンバーを見て、オルテンシアは盛大にため息をつく。最初の方こそ本性を隠していた彼らだが、最近は自分の嗜好をごまかそうともしない。特に探索者のランクが上がってから、街の住民に対しても粗暴な態度が目立つようになっている。


 そろそろ彼らとのパーティーを解消する時期かもしれない、オルテンシアはそんな事を考えながら探索を再開するのだった。



◇◆◇



 それから半刻(2時間)ほど経過した時、四人の前にそれは現れた。体長二メル(2メートル)ほどある双頭の蛇、ツインヘッド・スネークだ。太い胴体をくねらせながら、二つの鎌首を持ち上げて彼らに近づいていく。



「よっしゃ、久しぶりにレアなモンスターじゃないか。さっさと狩っちまおうぜ!」


「待つんだオレカス。あれは左右の色が違う、恐らく変異種だ」



 奥の方から近づいてくる個体は、向かって右の首から上が白く、反対側は黒い。通常のツインヘッド・スネークに、こんな配色は存在しない。



「それこそラッキーじゃん。変種ならレアアイテムを落とすかもね」


「変種はドロップ率が高いはずだ、他の探索者が倒してしまう前に片付けよう」



 三人はオルテンシアの忠告を無視し、モンスターへ向かっていった。投擲スキルを持ったクズミナが投げナイフで注意を引き、盾技と強襲持ちのオレカスがシールドバッシュを発動する。格闘のスキルを持ったディゲスは、プロテクター付きグローブで殴りながら、回避と跳躍スキルを使ってヒットアンドアウェイを繰り返す。



「オルテンシアちゃーん、あたしら手一杯だから黒い方やっちゃって」


「まったく……手を出してしまったからには仕方ない。了解だ、射線を開けてくれ」



 〈炎の矢(フレイム・アロー)



 三人が白い首に集中したのを確認し、オルテンシアが呪文を唱える。彼女の周りを取り囲むように、帯状の魔紋(まもん)が構築され、完成とともに炎でできた極太の矢が放たれた。



 ――ギィィィィィヤァァァー



 断末魔の声を上げながら、黒い方の首が炎に包まれる。その命が尽きた時に漆黒のモヤが発生し、オルテンシアの背後へ忍び寄っていた。しかし、それに気づく者は誰もいない……



◇◆◇



 変異種のツインヘッド・スネークからは、指輪がドロップしている。鑑定しないとわからないものの、何かしらの効果がついているのは確実だ。迷宮を出て意気揚々と帰路についた四人だったが、道の途中でオレカスが立ち止まった。



「どうした、怪我でもしていたのか?」


「怪我ならオルテンシアちゃんの精霊に治してもらいなよ」


「いや、オレはなんともないが、おかしいのはシアだ」



 珍しく深刻そうなオレカスの言葉を聞き、クズミナとディゲスは最後尾を歩いていたオルテンシアの方を見る。その顔が目に入った瞬間、二人の表情は驚きに変わった。



「オルテンシアちゃん、その目って……」


「これはなにか悪い病気なのか?」


「君たちは何を言ってるんだ? 私の体調はいつもどおりだぞ」



 オルテンシアが持っていたのは、翡翠を思わせる綺麗な緑の瞳だ。それが血のような赤に変わり、白目の部分が黒くなっている。突然の変化にクズミナとディゲスは言葉を失っているが、オレカスの口から残酷な言い伝えが告げられた。



「オレはゼーロンで聞いたことがある。赤い瞳と黒い目をしたエルフは破滅の象徴。シアは世界中に厄災を振りまいたと言われる、ダークエルフに堕落したんだ!」


「待ってくれオレカス、それは真偽定かでない伝承と言われている。現に私はいつもと変わらないし、何かを壊したいって衝動もないぞ」


「いーや、そんなことはどうだっていい。この瞳を持ったモノを討伐すれば報奨金が出るんだ、オレたち金持ちになれるぜ」


「へー、それはいいねー。それにオルテンシアちゃんのあの顔、最高じゃないか。あたしがもっと歪ませてあげるよ」


「金が手に入るのは悪くない、運がなかったと思って諦めるんだな」


「……パーティーメンバーを殺すなんて冗談だよな? 嘘だと言ってくれ」



 大金が手に入るとわかった三人は目の色を変え、じりじりとオルテンシアに迫る。道の端へ一歩ずつ下がるオルテンシアだったが、オレカスが剣に手をかけたのを見ると、彼らに背を向けて走り出した。



「やめろ! 近づかないでくれ!! 誰か、誰か助け――」



 背中を剣で斬りつられたため、助けを呼ぶ声が途中で止まってしまう。そのままヨロヨロと歩を進めたオルテンシアは、道の端から落下していった。



「やべぇ、あいつ落ちやがった」


「あちゃー、下は急流だよ」


「賞金首を逃したのは痛いが、この高さから落ちたのなら助かるまい。死体も上がらんだろうし、諦めるしかないな」


「ちっ、しゃーねぇ。一人減って分け前が三人分になったし、指輪で我慢するか」



 川へ落ちたオルテンシアだったが、流されながら肌は褐色になり、金色の髪は白く変化する。そうした肉体変異と精霊のおかげで一命をとりとめ、彼らから逃れるようにアーワイチの森に身を隠す。




 そしてこの世界へ迷い込んだ、大地(だいち)と出会うのだった――


 アーク()ヤーク()兄弟もそうですが、主人公たちを陥れるゲストキャラには、ある意味わかりやすい名前がついてます(笑)

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