第3話 生麦生米巫女みこソード
僕が名前を呼んだら魔剣が光りだし、おかっぱ頭の小さな女の子に変身した。身長はアイリスよりだいぶ小さいし、百二十センチに届いてないくらいかも。赤くて短いフレアスカートの内側には、フリルとレースの付いたペチコートがわずかに見える。
上半身は白い小袖の着物みたいで、襟の部分に入っているラインや袖についてる括り紐が、どちらも赤くてよく目立つ。雰囲気としては巫女服っぽいかな。足も白足袋と赤い鼻緒の草履だし。
右側の髪をバレッタで留めてるけど、模様が鞘と同じになってる。そうなると上半身の白い服が刀身で、スカートが柄ってことか。柄頭と同じ色の黒髪だから、服との相性はバッチリだ。
「ちっちゃくてすっごく可愛い!」
「やっぱりやりやがったな、ダイチ」
「ほう……擬態できる意志ある道具か。これはまたレアな魔剣だったんだな」
「見たことのない服をお召しですね」
「この姿は使い手のイメージ。私が決めたんじゃない」
僕のせいでこの服装になったのか。
道理で和風テイストが込められてると思った!
だって鞘といい本体といい、赤と白で出来てるんだもん。巫女服とか連想するのは、仕方ないと思う。それに頭の中に響いてくる声が、何となく女の子みたいな気がしたんだよ。まさか幼女になるとは思わなかったけどね!
「とにかく眠いんだったら家まで行こうか」
「動くのだるい。運んで」
あっそうか、剣や刀って自分で歩いたりしないよな。普通は腰に刺したり背中にくくりつけたりするけど、この子の場合はおんぶがいいだろう。眠たげな目でうつらうつらしてるから、早くベッドへ運んであげないと。
背中を向けてアトモスフィアの前にしゃがむと、そのまま倒れ込むようにしがみついてきた。刀のときも軽かったけど、擬人化しても変わらない重さだ。だけどちゃんと体温はあるし、首筋にかかる息がくすぐったい。
「そういえば〝てんせんちれつ〟ってどういう意味?」
「天に穴を開け地を切り裂く。それくらい強いってこと」
「俺も神殺しの聖槍とか、破滅の鎧とか持ってるぞ」
それ物騒すぎますよ、ノヴァさん。神殺しの方はともかく破滅の鎧とか、装備すると呪われるやつじゃないですか。
「ボクもかっこいい名前の付いた装備がほしいな」
「それなら後で〝精霊のグローブ〟をやろう。そいつには[装甲]の付与が付いてるから、前衛のカメリアにはぴったりだ」
「ホント!? やったー。ありがとう、ノヴァさん!」
「なーに、ダイチの魔剣がとんでも性能だったからな。カメリアも強化しておかんと不公平だろ」
「良かったな、ご主人さま」
「うん、ボク嬉しいよ!」
こうしてると人類最強のノヴァさんも、孫に甘い普通のおじいちゃんって感じがする。まあ、そんな人をメロメロにしてしまう、カメリアの天真爛漫な魅力が凄いってことかな。
それにしても、クロウもなかなか策士だ。さり気なく手の届く場所に来てから話しかけてた。喜んだカメリアに抱きしめられて、だらしのない顔になってるぞ。僕もクロウの表情を見分けられるようになったから間違いない。
◇◆◇
家まで戻ってくると、シアとエトワールさんは庭に出ていた。シアには【弓道】のスキルが発現したから、今日も弓の練習だろう。
「ただいま、シア、エトワールさん」
「おかえりダイチ。聞いてくれ、やっとエトワール様に認め――って、この浮気者ッ!!」
「えぇっ!? そんな事してないよ?」
「それなら背中の子供はなんだ! 隠し子か? 私というものがありながら、一体いつ浮気したんだ。まさかカメリアとの――」
「ボクとダイチは、まだそんな関係じゃないからね!? いつかは子供が欲しいって思ってるけど……」
「安心しろご主人さま。子作りなら俺様が協力してやるぜ!」
「俺たちも頑張ってみるか? エトワール」
「あんたは時と場合を考えな!」
あー、もう、場がカオスになってきた。あんまり騒ぐとアトモスフィアが起きちゃうよ。
「さっきも何かが暴れる音がしてたけど、今日は騒がしすぎるわよ。落ちついて読書もできないじゃない」
「お帰りなさいませ、皆さま。ダイチ様の背中にいらっしゃるのは、新しいパーティーメンバーでしょうか?」
「……まだ子供みたいだけど、甘いもの好きかな」
「もしかしてダイチの子供? やっぱりシアと? それともカメリア? まさかアイリスお嬢とか!? あっ、髪が黒いし、イチカかニナかも」
「アイリスお嬢様を差し置いて、ダイチ様のご寵愛をお受けするわけには……」
「……わっ、私はダイチさんが望んでくれるなら」
うわー、アイリスとイチカたちも出てきちゃったか。使い魔の三人もここに来てから、外に置いた屋敷で生活するようになり、自我がどんどん発達してる。念願の女子トークが聞けるようになって、僕は嬉しいよ。シアにジト目で見られてるから、最後の部分は聞かなかったことにするけど。
今も三人で服や食事、それから部屋割りの相談をしてる。だけどこの子の実体は刀だし、栄養はモンスターを倒せば摂取できます。
「ちゃんと説明するから、みんな落ち着いて。とにかくこの子をベッドで寝かせたいし、まずは家に入ろう」
とにかく一旦仕切り直しだ。このままだと僕の評価が地に落ちる。そもそもずっと誰かと修行してるんだし、たった数時間で子供が出来るわけないじゃないか。いくら異世界人だからって、僕はそんな能力なんて持ってないよ!
◇◆◇
リビングでニナの入れてくれたお茶を飲んだら、やっと落ち着くことができた。多分、鎮静効果のあるハーブティーなんだろう。いつもながら、すごく気が利く子だよ、ニナは。
あとで頭を撫でてあげようかな。恥ずかしがりながら喜ぶ姿が可愛いし。
ちなみにアトモスフィアは僕の膝枕で眠ってる。顕現した魔剣って、契約者の手元に戻ろうとする力が働くんだって。でも意思を持ったこの子なら、ある程度自分でコントロールできるみたい。今は寝てるから無理だけど……
いきなり目の前に現れて倒れ込んでくることに目をつぶれば、紛失する心配がなくてありがたい仕様ではある。
「意志ある道具は気難しいのが多くて、滅多なことでは契約できないんだよ。それがなんだい、この懐きっぷりは」
「ダイチに常識は通じないからな、仕方ないだろ」
「非常識代表の二人に言われるなんて、下僕はもうおしまいね」
「もう少し遠回しに言ってくれると、僕は嬉しいんだけど……」
そもそも僕は、意識して何かを起こしてるわけじゃない。
結果的に変なことが起こってるだけなんだけなんだ。
魔紋に関して?
あれは、ただの知識チートですから!
意図的でなく、お約束ってやつです。
「あのな、ダイチ。意志ある道具は使い手との相性で、その性能が変化するんだ」
「あっ、そうだったの?」
シアが呆れ顔で僕を見てるけど、この子が意思を持ってるなんてノヴァさんとエトワールさんも知らなかった。ドワーフ族が持ってる【鑑定】スキルで調べた限り、普通の魔剣って結果が出てたらしいし。
「この子は付与をいくつ獲得してる?」
「えっと[不滅・切断・改善・不汚・擬態・顕現]の六個って言ってた」
背中で眠ってしまう直前に聞いたら、そう答えてくれた。カメリアの魔剣が四個だから、この子は二つ多いってことになる。
「その中の[顕現]は魔剣特有のものだから省こう。そうすると残りは五個だ」
「うん、そうなるね」
「いいかい坊や。意志ある道具と契約できても普通は三個、よほど相性がいい使い手でも四個なんだよ」
そうなるとアトモスフィアは、僕を最優の使い手だって認めてくれたのか。それはちょっと嬉しいな。
「私もエトワール様から付与魔法について学んだが、[不滅・切断・改善]など聞いたことがない」
「まあ[不滅]はわかりやすいね。間違いなく[不壊]の上位効果だろうさ」
「もう一つの[切断]もわかるぞ。さっきダイチは普通にブラック・ミノタウロスを斬ってたからな。間違いなく[鋭利]の上位効果だ」
「あんた、坊やにそんなモノけしかけたのかい!」
えっ!? あれって、そんなにヤバいモンスターだったの?
「ブラック・ミノタウロスは、通常の武器では傷ひとつ付けられない変異種だぞ」
「確かにすごく硬かったし、この子でも深い傷を負わせられなかったよ」
「いかに魔剣といえども、せいぜい皮一枚斬るのがやっとのはずだ」
シアが色々説明してくれるけど、物理攻撃無効のロック・バードより少し劣る程度の硬さとのこと。ただし体の大きさと力の強さがあるので、脅威度は遥かに増すそうだ。ランク的には特級に分類されるらしい。
武器やスキルのおかげだけど、何となく自分の強さが実感できた。ただし、慢心だけは気をつけよう。僕の力は借り物みたいなものだから……
「ダイチやボクが倒せなかったら、どうするつもりだったの?」
「斬り倒したのは想定外だったが、致命傷を与えるのはそんなに難しくない。例えば[穿孔]の付与が付いた魔槍を使えば、当たりどころ次第で一撃だ。あの時も、危なくなったら槍を投げるつもりで準備してたしな」
「そういや上から見えてたけど、槍を持って突っ立ってたな」
「ボクにも見えてたけど、あれって疲れたから杖代わりにしてたんじゃないんだね」
「はっはっはっ、体力もまだまだお前らには負けんぞ!」
サクラが持ってる【強壮】スキルの恩恵を受けた僕たちより、体力があるからなぁ。いま星を四つ上げてるから、かなり持久力は付いたはずなんだけど、ノヴァさんだけ修行の後もピンピンしてる。
とにかく僕と契約してくれたアトモスフィアは、かなり強い武器だというのがわかった。こうして僕の膝枕で寝てる姿は、普通の可愛い子供だけどね。これからも大事にして、仲良く暮らしていこう。
明日更新予定の「愛称を考えよう」をお楽しみに。
まだまだいくよぉ~~~!!




