第1話 大勇者との約束
第6章の開始です。
劇中の時間がいきなり3ヶ月(24日×3)以上飛びます。
お互いに剣を持ち、少し間合いをとって対峙する。僕が持っているのは片手と両手のどちらでも使える、いわゆる片手半剣と呼ばれるやつ。正面にいるノヴァさんが持っているのは、どこの店でも売ってるような両手剣だ。
今まで円盾とショートソードだったけど、ノヴァさんの薦めもあってこの戦闘スタイルに切り替えた。それというのも魔法を発動する時、手をまっすぐ伸ばして狙いをつけるため。僕の場合こうしないと、うまく当てられないことが多い。
シアもピンポイントで狙う時は杖や指を使うけど、エトワールさんは目線だけで百発百中だ。さすが大賢者と呼ばれるだけはある。
「ほら、考え事してないでかかってこい。じゃないとこっちから行くぞ」
おっと、いつまで経っても動かないから、ノヴァさんから激が飛んできた。
「言われなくても行きますよ。今日こそダウンさせてみますからね!」
〈ファイア・ボール〉
左手でノヴァさんに狙いをつけ魔言を唱えると、アルファベットの魔紋が即座に構築された。バスケットボールと同じくらいの火の玉が飛んでいくが、ノヴァさんはそれを剣で斬ってしまう。
剣で魔法を消してしまうとか相変わらず無茶苦茶だよ、この人は。
しかしそれは想定内だ。牽制用の魔法をもう一度放ち、それを隠れ蓑にしながら一気に距離を詰める。メロンが持つ【神速】をカンストさせたので、飛んでいく魔法を追いかける程度は容易い。
ノヴァさんは再び魔法を消してしまうが、剣を振り抜いた体勢になってる今がチャンス!
「甘いぞ、ダイチ!」
「あっ、しま――」
この人の技量なら、魔法を斬り飛ばして突っ込むことも可能なはず。わざとスキを見せておびき寄せるため、その場から動かず斬ったのか。僕が繰り出した袈裟斬りは、素早く翻された剣で弾かれる。
その時、大きな力で押されるように、僕は後方に下がってしまう。三人で修行するようになって、ノヴァさんは【迎撃】というスキルを発現させた。それには相手をノックバックさせる効果があるのだ。
僕の力は星五まで上げた【剛力】で強化されている。スキル効果が発揮された攻撃を押し返せるのは、人族が持つ【剣技】の上位スキルである【武技】と、ノヴァさんの才腕がシナジーを生み出すからだろう。やはり人類最強は、一筋縄じゃいかない。
「今度はこっちから行くぞ!」
「くっ」
〈アース・ウォール〉
「そんなものが俺に通用しないのを忘れたか?」
ちゃんと覚えてますよ、とっさに出した土の壁はあまり厚くないしね。大抵の魔法や攻撃を力技で跳ね返す人だから、この程度で減速させられないことは百も承知だ。
ただ、ノックバックで崩れた体勢を、立て直す時間があればいいんです。
案の定、ノヴァさんは勢いを殺さないまま、壁をぶち抜いてきた。破壊された土の塊がいくつも飛んでくるが、それを全て見切って前へ出る。これはカンストした【専念】で、集中力が上がってるおかげ。伊達にここで修業を続けてきたわけじゃない。
振り下ろされる剣に、自分の武器を合わせて受け流す。このままだと、確実に第二第三の攻撃が襲ってくる。だから僕は自分の剣を手放した。ノヴァさんの顔が驚きの表情に変わるが、一瞬の間を生じさせただけで十分だ。
〈ソニック・インパクト!!〉
「ぬぉぉぉっ!?」
圧縮空気をまとった右の拳が、ノヴァさんの腹に命中する。二メートル以上ある巨体も、さすがにこの衝撃には耐えられず、上空へと投げ出された。そしてそのまま落下して地面へ激突する。
かなり派手な音がしたけど、これくらいなら大丈夫だろう。崖から落ちても怪我しない人だし。
「よしっ、やった!!」
「おめでとうございます、マスター」
他の精霊たちと近くで見ていたスズランが、嬉しそうに近づいてきた。何度も挑戦して、やっとノヴァさんからダウンを奪ったんだもんね。僕だってちょっと踊り出したいくらいだよ。
「今のは新しい魔法か?」
「はい、圧縮した空気をパンチと一緒に打ち出す魔法です」
「武器を手放すのは減点だが、ダイチらしい戦法だな。とにかく良くやった」
「ありがとうございます」
実際のところ奇策だから、実戦では使えないだろう。だけど大勇者から一本取ったというのは、とても大きな意味を持つ。なんたって、これで僕も魔剣をもらえるんだから。
カメリアはもうノヴァさんから魔剣を一本もらってる。刀身の根本部分にもグリップがある、ツヴァイヘンダー型の長剣だ。柄頭部分に金色の宝石が付き、黒い柄と鍔には緻密な意匠が施されている。赤みを帯びた金色の刀身が、普通の剣とは異なるオーラを醸し出す。全長が僕と変わらないので、百七十センチくらいあるだろう。
鞘もないし長すぎて持ち運ぶのが大変だけど、そこは魔剣なので手元に呼び出せる。しかも[不壊]や[修復]それに[鋭利]なんかの効果がついてるから、酷使しても壊れないし切れ味は落ちない。簡単なメンテナンスだけで使い続けられる、手間いらずのすごい剣だ。
シアに炎をエンチャントしてもらい、ファイアソードとか言いながらブンブン振り回して、すごく楽しそうだった。そんな使い方をしてもびくともしないのが、魔剣のいいところだよね。欠点は持ち手が熱くなってしまうことだったけど……
「今度はボクの番だよ、ノヴァさん」
「よしっ! いっちょ揉んでやるぞ、カメリア」
「おいおい大勇者さんよ、ご主人さまの胸は俺様のもんだぜ」
すっかりいいコンビになってるな、この二人。クロウのスキルもいくつか上がって、カメリアには死角がなくなってる。なにせ【鳥瞰】で視覚を共有したら、カメリアの視野は三百六十度あるのと同じだ。慣れるまでは別視点の情報に混乱してたけど、今では完全に自分のものになったみたい。
「今日は俺の先手で行くぞ」
「うん、いつでも来ていいよ!」
ショートソードを二本構えたカメリアと、ノヴァさんが対峙する。さすがにツヴァイヘンダーだと、狭い迷宮なんかで戦えないから、カメリアは二刀流も習うことにした。
あっという間に身につけた彼女を見て、少し落ち込んだのは秘密だ。ツノが折れてた時に無茶な探索に付き合わされていたせいか、体の動かし方がすごく上手なんだよね。そうしたセンスの良さは、ノヴァさんも感心してたくらいだし。
「セイヤッ!」
「くぅっ……」
一気に肉薄したノヴァさんが剣を振り下ろすと、辺りに硬質な音が響き渡る。剣をクロスさせて防御したカメリアの顔が歪んでるし、これはクリティカルの乗った攻撃になってるな。
僕たちの修行に付き合ってくれるようなったあと、ノヴァさんのスキルが二つ進化した。さっき僕がくらった【迎撃】は、人族が持つ【逆襲】の上位スキル。カウンター攻撃が決まったあと、相手をノックバックさせる。
そして今のは【痛撃】という、【強襲】の上位スキルだ。これは先制攻撃が成功した時、まれにクリティカルが乗る。サクラの耐性や魔人族のスキルも抜いてくるので、カメリアでもダメージを受けてしまう。ノヴァさん以外持ってる人はいないだろうけど、かなり厄介なスキルなんだよ、これ。
僕も何度か痛い目にあってるし、耐性スキルを過信するのは良くないって、戒めにもなった。
「おらおら、どうした! 防戦一方だぞ」
「ボクだって負けないよ」
〈そこを動くなッ!!〉
「おっと!?」
スキルを発動したカメリアの存在感が、大きく膨れ上がる。これは先日発現した魔人族の【威圧】ってスキルで、相手の戦意を削いで動きを止める効果を持つ。敵意を向けられていたり、自分に集中してる相手だと、特に効き目が増す。
「今度はこっちから行くよ!」
カメリアはショートソードを腰の鞘へ収め、代わりに魔剣を呼び出した。右足を前に出して半身で剣を相手に向ける姿は、ロボットアニメの決めポーズみたいでカッコイイ。
「これくらいで俺を止められると思うな」
「マスター、ノヴァ様はどうするおつもりでしょうか」
「あの人のことだから、強引に突破するんじゃないかな」
「……ヌォォォォォォォーーーッ!」
――パァァァァーン!!
「あっ、やっぱり」
全身の筋肉が盛り上がってるし、気合で【威圧】を跳ね返したっぽい。しかし音が聞こえるくらいの気迫を込めるなんて、この人はどんどん化け物じみてくるな。
「えーっ!? 今度こそ決まったと思ったのにー」
「あれくらい気合でもなんとかなる! まだまだ甘いぞカメリア」
「こうなったらこのまま強引にっ!」
カメリアが縦横無尽に剣を振り回すが、ノヴァさんはそれをヒョイヒョイと避けている。死角に回り込まれても上空にいるクロウの視点で捉え、カメリアは正確に剣を繰り出す。
自分の身長より大きい剣を、まるで木の枝みたいに振り回す姿は、なんど見ても凄いな。それを紙一重でかわし切るノヴァさんも大概だけど……
「わはははははは、そんな攻撃じゃ俺に当てられんぞ」
「これならどうだ!」
「おっと危ねえ」
当たらない攻撃に痺れを切らしたのか、カメリアは体ごと剣を横薙ぎに回転させた。しかしノヴァさんはそれをジャンプで避け、そのまま刀身の上に着地を決めてしまう。剣の先端に乗られたら、さすがに動かすのは難しい。
「うわーん、参りました」
「カメリアはあまり小細工せず、真っ向勝負のほうが実力を発揮できてるな」
「ボクもダイチみたいに、色々出来るようになりたいって思ってるんだ」
「こいつは元の世界にあった〝げーむ〟とかいう知識があるから、全く予想外のことをしやがる。真似するのはなかなか大変だと思うぞ」
「一緒に活動してたら自然に身につくと思うし、焦らずやってこうよ」
「うん! これからもダイチとはずっと一緒だもんね」
ちょっと気合が空回りしてる感じがするけど、一生懸命なのは伝わってくる。そんなカメリアの頭を撫でてあげると、花の咲くような笑顔を浮かべてくれた。
ここに来て三ヶ月以上経ち、僕たちは大きく成長できたと思う。山奥に引きこもってるから、他の人と比べてどれくらいかはわからない。なにせ基準になるのは、人外の域に踏み込んでるノヴァさんだし。
精霊たちもかなり成長したけど、もう力に振り回されなくなった。本当にノヴァさんには、頭が上がらないよ。
「俺から一本取ったら魔剣をやる約束だったな。お前にピッタリなのがあるから、今から持ってきてやる」
「はい、よろしくお願いします」
僕に渡す予定の魔剣はもう決めてあるって言ってたけど、どんなものなんだろう。迷宮を何度も攻略してるノヴァさん達だから、こうして余るくらい持ってるけど、普通はなかなか手に入らない貴重品だ。そんな剣が自分のものになるって考えただけで、テンションが上ってくる。
逸る気持ちを抑えながら、僕はノヴァさんを待つことにした。
次回、大勇者と主人公が揃ってやらかします(笑)
「第2話 魔剣と契約」をお楽しみに!




