第9話 大賢者の正体
誤字報告ありがとうございました。
家から出てきていきなり魔法を放ったのは、シアと同じ白い髪で小麦色の肌をした女性だった。身長はスズランと同じくらいで、左目の泣きぼくろがよく目立つ。見た目は三十代くらいの、妖艶な美女といった感じかな。エルフ族の寿命は三百年くらいだって聞いてるけど、百歳を超えてこの容姿っていうのは本当に凄い。
「どうして……」
「あら、ここに来客なんて初めてだね」
シアは茫然自失って感じだ。まさか大賢者が自分と同じダークエルフになってたなんて、思わなかったからだろう。さっき魔法を使った時、シアと同じ装丁の本が浮かんでたし、恐らく【魔導】スキルを持ってるはず。
「そのお姿は……」
「ああ、これかい。魔法を極めるために[転化]したんだよ」
「どうしたらそんなに胸が大きくなるんですか! 教えて下さい、大賢者エトワール様っ!!」
あー、そっちかー。
大賢者のまろやかさんって、カメリアと同じくらいあるもんな。もしダークエルフになることでそのポテンシャルが開放されるなら、シアにもチャンスはあるってことだ。
「こいつはあっちで焦げてるバカ亭主のおかげだよ」
「ダイチッ!!」
「えっと、なにかな?」
「協力してくれ!」
「シアが望むなら協力は惜しまないけど、人前で言うことじゃないと思うな……」
いきなりそんな事を言うから、大賢者がニヤニヤしながらこっちを見てるよ! 別に隠すつもりはないんだけど、僕たちが付き合ってること速攻でバレてるし。
この世界にも揉めば大きくなるなんて言い伝えが残ってたり、バストアップ体操や寄せて上げたりする下着ってあるのかな。
「アイリスちゃんも久しぶりだね」
「駄犬の躾がなってないわよ、しっかりなさい」
「ここんとこ修行の成果が出てなかったから、懐かしい顔を見てついハメを外しちゃったんだね。許してもらえるとありがたいよ」
「ふんっ! そんなつまらない理由で斬られるなんて、とんだ迷惑だわ」
「とにかく狭い家だけどみんな上がっとくれ。そっちの精霊獣も一緒で構わないよ」
「おっぱいのでかい女は気が利くね! もっと育てたいなら俺様も協力するから、いつでも言いな」
さすが大賢者だ、クロウの素性を一発で見抜いてる。それにさっきチラッと見えたけど、左手の甲に九枚の花びら模様があった。つまりこの人は、シアを越えるスキルの持ち主ってことだ。アイリスが会えばわかるって言った意味、あれで理解できたよ。色々な相談をするのに、これ以上最適な人はいない。
◇◆◇
案内された家の中は、内装や家具も含め、ほとんどが木でできていた。家も家具も大勇者の手作りなんだって。シンプルだけど丁寧に作られてるし、意外に器用な人みたい大勇者って。あれだけの攻撃を受けたのにピンピンしてることも含め、色々と常識では測れない人だ。
ちなみに大勇者の名前はノヴァさん、大賢者の名前はシアが言ったとおりエトワールさん。大氾濫の後に結婚して、ずっと二人だけで活動してたとのこと。すごく仲がいいし、この家だってきっとエトワールさんのために、頑張って作ったんじゃないかな。なにせエルフ族は木の家が落ち着くって話だしね。
「人と同じ姿になった精霊が子供を生むとか、人には仕えないはずの精霊獣と契約するとか、極めつけはツノの折れた魔人族が元に戻るときたもんだ。あんたら、ウチのバカ亭主より非常識だね」
「私も始祖様に匹敵する力を得ているし、使い魔に至っては自我が芽生えたわ」
「なんだよ、ますます倒しにくくなったじゃないか!」
「何でもかんでも剣で解決しようとするのをやめなさい、この駄犬」
さっきアイリスに向かって飛ばしてた魔法みたいなの、あれは純粋な剣技なんだって。技に耐えられなくて数発で壊れるけど、普通の剣でも出来るとのこと。だけど可視化された斬撃を飛ばすってなんだよ、アニメやゲームじゃないんだからさ。
そんな人より非常識って言われた僕らは、一体どうすればいいのかな……
「全てダイチが原因だな」
「私のマスターですから」
「うんうん、ダイチのおかげだよねー」
「みんな酷い、僕一人のせいにしないでよ!」
「私が得た力の源はダイチの血だし、スズランが特級精霊になったのも、シアがハイエルフに進化できたのも、カメリアが魔人族として復活したのも、下僕の行動が発端になってると思うのだけど?」
結果的にはそうかも知れないけど、非常識って言われるのは納得できない。そりゃ僕は異世界人だから、こっちの人から見たら異端に映るかもしれないよ。だけどなんだかんだで丸く収まってるんだから、そんな風に言わなくてもいいじゃん。
あっ、カメリアだけは別ね。今夜はいっぱいツノを撫でてあげよう。
「しかし、私は本当にハイエルフになれたのでしょうか」
「スキルが発現してるんだ、間違いなくハイエルフに[転化]してるよ」
「他にも三人いたのに、どうしてシアだけ呪われたのかしら?」
「エルフってのは、魂の在りようが他の種族とは違う。それに惹かれた何かが取り憑いた、そう考えるのが妥当だね」
実はエルフって、自然界にいる妖精に近い存在らしい。やっぱりシアを初めて見たとき妖精だと思ったのは、間違いじゃなかったんだ!
エトワールさんの推測によれば、他の種族より魂の階位が高いと言われるエルフだから狙われた。確かに理由としてはしっくり来る。
「シアはその影響で魂に呪いを刻まれたんですが、それに打ち勝ったからハイエルフになれたってことですか?」
「その理解でおおむね間違いじゃないよ、坊や。ハイエルフになる条件は二つあって、どちらも魂の器に関係してる。一つは外的要因を受け入れられる器の広さ、そして受け入れた因子に耐えられる強度だね」
「私にはそれがあったと……?」
「先天的なものだから確かめる術はないけど、誇っていいよ」
もしシアに適性がなかったら、その場で命を落としていたそうだ。そんな事にならなくて本当に良かった。シアと出会えなかった生活なんて、今さら考えたくないもん。
「私のように何者かに取り憑かれることって、よくあるのですか?」
「少なくとも私は聞いた事ないね。仮に発生したとしても、その場で呪いごと消滅してるだろう。話を聞く限りギリギリの状態だったみたいだけど、かなり強い呪いだったはずさ」
「私はそれに中途半端に耐えてしまったから、厄災のエルフになるところだったのですね」
「後で説明したげるけど、その心配はしなくていい。とにかく精霊の力を借りたとはいえ、オルテンシアは狂化の衝動を抑えて生き延びた。つまりハイエルフになるための条件を、クリアしたってことだよ」
「しかし私は、つい先日までハイエルフのスキルが使えなかったのですが」
「これは私の想像なんだけど、大きすぎる異物を取り込んだオルテンシアは、魂の器にヒビが入っていた。そこから力が抜け続けていたんだと思う。それを治したのが、ここにいる坊やさ。その様子じゃあんたたち、もう結ばれてるんだろ?」
「あっ!? あうぅぅぅぅ……」
玄関先でやったやり取りを見て、どこまで進んでるかわかっちゃったんだろう。耳まで赤く染めてうつむくシアが、答えを出してくれてますね。可愛いから頭を撫でてあげよう。みんなに生暖かい目で見られてるけど、気にしたら負けだ!
「エトワールさんは、どうやってハイエルフになったんですか?」
「私は迷宮で願いを叶えてもらったからさ。だから安全に[転化]してる。それを自力でやってのけた坊やたちは、本当に凄いよ」
「ちなみに俺は寿命の延長を叶えてもらった。おかげでこいつと生きていけるし、修行も思う存分出来る!」
「ハイエルフになると寿命が倍近く伸びるから、オルテンシアも五百年以上生きられる。人生設計をやり直すなら、早いうちがおすすめだね」
なんでもノヴァさんが百三十歳で、エトワールさんが二百八歳らしい。だからこの人に坊やと言われても我慢しよう。ちょっと悲しくなるけど……
エトワールさんより早い年齢でハイエルフになったシアは、青年期の容姿が三百歳くらいまで続く。スケールが大きすぎて、寿命がせいぜい八十年くらいの僕には、想像ができないよ。
とにかくシアの仲間がいてよかった。それが世界的な有名人なのは予想外だったけど、これで自分を卑下することもなくなると思う。だってエルフ族として、より高みに登ったってことだもんね!
第2章の第9話でアイリスが[転化]という言葉を使っていますが、エトワールがハイエルフになったことを知っていたから。それをオルテンシアに伝えなかったのは、大勇者に会いたくなかったことと、ハイエルフのスキルが発現してなかったのが理由。
◇◆◇
次回はなぜ〝厄災のエルフ〟が生まれたのか。
水曜日更新予定の第10話「自分の若い頃を思い出すよ」をお楽しみに!




