第8話 トロッコ問題じゃないんだから!
探索者ギルドを出て、西側の郊外にある丘までやってきた。クロウが国やギルドから干渉を受けないよう、大賢者に相談するという理由を盾にしてみたけど、うまくいって一安心だ。神格化されてるって記録が残ってる存在だし、手に余るから丸投げされたのかも?
イノーニは別名〝農業国〟と言われてるだけあって、街を出ると一面に穀倉地帯が広がっている。モザイク模様に見えるのは収穫時期をずらすとか、輪作で別のものを植えたりしてるからかな。収穫物を満載した荷馬車が動いてたり、作物の手入れをしてる集団がいたり、のどかな風景を見てると落ち着く。
氷原迷宮が地上の環境に影響して、かなり南の方にあるにも関わらず、この辺りは秋みたいな陽気だ。朝晩は冷え込むみたいだけど、日がさしてる今の時間帯は少し暑いくらい。
アイリスの目印を作った後に、農作物の直売所へ寄ってみた。米っぽいものは見つけられなかったから、やっぱりこの世界には存在しないんだろう。とても残念だよ……
「この辺りまでくれば大丈夫なはずだ」
「それじゃあクロウ、お願いね」
「任せてくれ、ご主人さま」
シアの案内で、丘の向こう側にある段差のついた部分に到着。カメリアの肩から下へに降りたクロウの体が、どんどん大きくなる。力が上がったって言ってたけど凄いな、路線バスと同じくらいの大きさだ。クチバシから尻尾の先まで、十メートルくらいありそう。
受付けの女性には心配されたけど、僕たちはクロウに乗って移動できる。いくら険しい山でも、空から行けばなんの障害にもならない。あの依頼を受けて本当に良かったよ。シアが妙にやる気だったのは、【占術】のスキルが働いてたからだったりして。
「あら、なかなか立派な姿ね」
「どうだ、これなら乗せて運べるだろ」
「私もマスター好みの体型になれる、スキルが欲しかったです」
「スズランは今の姿が似合ってるから、そんなの必要ないって」
3Dでアバターを作るスマホアプリじゃあるまいし、自分の体をカスタムなんかしなくていいったら。最近シアとイチャイチャしすぎだから、不安にさせちゃったかな。僕もちょっと浮かれてる部分があるし、気をつけてあげないと。
「そうだぜスズラン、そんな立派なものを捨てるなんて俺様が許さないからな。とにかく乗ってくれ。ご主人さまとスズランは、しっかり抱きついてくれよ。ぐぇっへっへっ……」
「クロウのそんな部分、すごく損してると思うんだけど」
「うっせえ、これが俺様の生きる道なんだ。ダイチにとやかく言われる筋合いはないぜ!」
何があっても態度がブレないのは、ある意味清々しい。ただ、あまり品がないとアイリスやシアにお仕置きされるから、気をつけたほうがいいと思う。もしかして、それもご褒美になってるとか言わないよね?
「おっと忘れるところだった。ダイチ、お前の席はないから、歩いてついてこいよ」
「えー!? どう考えても飛ぶスピードにはかなわないって!」
「男なんぞ乗せたら、途中で萎えて落ちちまう。世界の至宝を救うためには、何かを切り捨てないといけない。これが尊い犠牲ってやつだな」
トロッコ問題じゃないんだから、みんながハッピーになれる方法を考えようよ!
男に跨がられたくないって気持ちは、僕にもよくわかる。だけど変身できるほどツインテールに執着はないし、イタズラの神に魅入られたりもしてない。そもそも男を捨てる気なんて無いから、そっち方面の解決策は無しだ。
直接クロウに触れないよう、誰かに背負ってもらうとか?
いやいや、それはダメだろ。いくらなんでも女の子に背負われるなんて恥ずかしすぎる。カメリアなら軽々背負ってくれそうだけど、妹は兄に背負われる存在であって、背負ってはダメなのだよ。童顔のせいでカメリアより年下に見られたとしても、これだけは何があったって譲れない。
「あんまり意地悪なことばかり言ってると、今夜一緒にお風呂入ってあげないよ」
「うぉっ、それだけはご勘弁を、ご主人さま! ほら、さっさと乗らないか、ダイチ。グズグズしてると置いてくぞ」
変わり身が早いなー
でも、ありがとうカメリア、なんかクロウの扱いがうまくなってるね。アメとムチを使い分けるなんて、僕にはちょっと難しいかも。そんな事より、もたもたしてると本当に置いていかれそうだから、気が変わらないうちに行動しよう。
丘の段差になっている部分から、クロウの背中へ次々乗り込む。契約主であるカメリアが先頭で、その後ろが僕。シアを真ん中に挟んで、空を飛べるアイリスとスズランが後ろだ。
「まずは地上スレスレを飛ぶから、しっかり掴まってろよ」
「頑張ってね、クロウ」
「それじゃあいくぜ!」
翼を大きく広げたクロウが軽くジャンプすると、そのまま水平に動き出す。羽は全く動いてないし、向かい風を捉えたわけでもない。スキルで飛ぶって不思議な動きをするなぁ、これなら垂直離着陸なんかもできそう。
スピードが上がってくると、一気に上昇を始めた。やっぱり空から見る景色は絶景だ。東側はどこまでも農地が広がっていて、遠くの方に低い山や森が見える。西側は高い山ばかりで見通しが悪い。でも、こうして見るとこの星が丸いってよく分かるな。
「うわー、凄いね。空からだとこんな風に見えるなんて、ボク感動しちゃったよ」
「確かにこうして見下ろす景色は素晴らしい。こんな体験ができた者など我々くらいだろう」
「見なさい、まるで人がゴミのようよ!」
こっちの人には通じないけど、そのセリフってフラグだから気をつけてね、アイリス。
「こんな景色をマスターと一緒に見られて、私は幸せです」
「うん、僕もスズランと同じ光景が見られて嬉しいよ」
あ、シアと一緒なのも、もちろん嬉しいからね。後ろからキュッと抱きついてくるのが可愛いすぎる。今は手を離せないから、降りた後に頭を撫でてあげよう。
「一番高いってーと、あの辺りにある山全部だな」
「多分、山に囲まれた盆地があるんだと思う」
かなり奥の方まで山が連なってるし、標高の高い部分に平坦な場所があるんじゃないかな。でも、そんな不便な場所に住んでいて、食料とか日用品ってどうしてるんだろう。ある程度なら自給自足できるだろうけど、足りないものは必ず出てくるはず。アイリスの影経由で使い魔たちが買い物できるし、必要なものとか提供すれば、お礼になるかも。
「あっ、クロウ。右に避けて!」
「うおっ!? なんか飛んできやがった!!」
急速旋回したクロウの横を、なにか細長いものが通り過ぎていった。槍っぽい物体だったけど、すごいスピードだったぞ。一体どこから飛んできたんだ?
「あそこ、あの山の向こうから飛んできたよ」
「あんな遠くから物を投げつけるだなんて非常識な真似ができるのは、間違いなく大勇者ね。まだ生きてるとは思ったけど、相変わらず迷惑なやつだわ」
「百歳は軽く超えてるはずなのに、大勇者ってどんな超人なの!?」
「想像以上にとんでもない人物のようだな」
「またなにか飛んできたよ」
「今度は石かよ! 回り込んで着陸すんぞ、しがみついとけ」
地上近くまで降下したクロウが、山の稜線に沿って旋回しながら、一気に反対側へ越える。そこは予想通り盆地になっていて、小さな森や湖なんかもあった。奥の方には滝もあるみたいだ。
丘の上に丸太小屋みたいなのがあるけど、あれが家なのかな。畑の区画や運動場みたいな場所もあるし、ちゃんと人の手によって整備されてる。
そこで仁王立ちしてるのが、白い髪を角刈りにした背の高い男性だ。身長はかなり高くて二メートル位ありそう。それに全身の筋肉が凄い、服の上からでも形がわかる! 見た目は五十歳くらいだけど、この人が大勇者なの?
「いきなり撃ち落とそうとするなんて、相変わらず乱暴者ね」
「おっ!? 久しぶりだな! やっと修行に付き合ってくれるのか?」
真っ先にクロウから降りたアイリスが、大勇者と対峙する。なんかビジュアルがすごすぎるぞ。これってどう見ても、ゴリマッチョに襲われるゴスロリ少女って感じ。
「俺もあれからだいぶ強くなったんだ、そんな連れないこと言わずにちょっと付き合え」
「バカなこと言わないでちょうだい。そんなことに付き合う義理なんて無いわ」
「ちょっとくらいいいじゃないか。先っちょだけ、剣先をちょっと突き刺すくらいで我慢するからよ」
えらく物騒なことを言ってるな、この人。それに言い方がちょっとアレだ。日本でやると事案が発生する。憲兵さんこちらです!
「やれるものならやってみなさい。以前は影に隠れるだけだったけど、今の私は一味違うわよ」
「ほう、そいつは楽しみだ」
「魔剣を取り出したって無駄よ、当たらなければどうということはないわ」
大賢者の隣に浮いてるのは青い精霊なのに、どこから剣を取り出したんだろうと思ったら、あれは魔剣だったのか。なにもない場所から現れるなんて、魔剣って凄いな。僕も欲しい……
「あっ、こら! 飛んで逃げるなんて卑怯だろ!!」
「おーほほほほほ。悔しかったらあなたも飛んでみなさい」
「……ちっ、しゃーねーな。まだ未完成だがとっておきを見せてやる」
〈撃刃斬!〉
「ちょっと危ないわね、何をするのよ!」
「わーはっはっはっ! まだ狙った所に飛ばせないが、数撃ちゃ当たるってやつだ。くらいやがれ!!」
刀身から飛び出してる白い光は、魔剣の力なのかな。大勇者がオラオラ言いながら、アイリスを追いかけ回してる。脳筋というか大人げないというか……
破天荒な人だというのは、話を聞いて予想できた。でも無邪気な子供というのが第一印象だ。本人はすごく楽しそうにしてるんだけど、僕たちをほったらかしで遊ばないで欲しい。
「やかましい! 庭先で騒いでるんじゃないよっ!!」
〈襲雷〉
「ぴぎゃぁぁぁぁーーー」
玄関から出てきた人がいきなり魔法を放ち、大勇者は煙を上げながら倒れてしまう。ところどころ焦げてるけど、大丈夫かな。
そしてそこに立っていたのは、白い髪で小麦色の肌をした、シアと同じダークエルフの女性だった――
ダークエルフの秘密とは?
明日更新予定の次回をお楽しみに!




