第7話 報告という名の根回し
次の日の朝、迷宮を出てから一度郊外まで行って、アイリスの屋敷を取り出しておいた。同時に既存の目印を消して、大きな川にかかってる橋の下を、新たなポイントに設定。農作物の直売所が近くにあったから、買い物にも便利そうないい場所だ。
一連の作業を済ませたあと、探索者ギルドへ向かうことにした。討伐こそしてないけど、ちゃんと報告しておかないとダメだしね。
僕たちが探索者ギルドに入ると、周りの視線が一斉に集まる。もちろん注目されてるのは、カメリアとスズランの二人だ。女性は男性の視線に敏感で、どこを見てるのかすぐわかるって聞くけど、これは僕にも一目瞭然だよ。
ちょっと聞き耳を立ててみたけど、悔しがってる人が多い。モンスターの前に自分が触りたかったとか、なにを口走ってるんですか。しっかり聞こえてますよ。そもそも、そんなことはさせませんからね! スズランとカメリアのおっぱいは僕のものなんです。
……って、クロウみたいなことを考えちゃったな。
気をつけよう。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
依頼を斡旋してくれた受付嬢が、こちらに気づいて声をかけてくれた。迷宮内で一泊してるから、心配かけてしまったのかも。
「はい、全員無事に戻ってきました」
「お戻りが遅いので気になってたんですよ。見たところ皆さんお元気そうですし、ホッとしました」
探索者って基本的に自己責任だから、こうやって心配されることは少ない。タレ目で優しそうな顔つきは、性格を反映してるのかも。それによく見ると、結構まろやかなものをお持ちだ。
痛い、痛いって。つねらないでよシア。本当に女の人って、視線に敏感だなぁ……
「実は想定外のことがおきて、時間がかかったんです。今日はその事も含めて報告しますので」
「それは討伐失敗ということですか?」
「いえ、今後同じ被害はなくなります。ただ討伐じゃなくて、捕獲してしまったんです」
「……えっ!? 捕獲?」
ここで後ろにいたカメリアに来てもらう。胸に抱いてるのは小鳥サイズになったクロウだ。なんかとても幸せそうな顔をしてる気がする。目尻が下がってるように見えるのは、絶対に錯覚なんかじゃない。
「おう! 色々迷惑かけたようで、すまなかったな。ちっとワケアリだったんだが、許してもらえると嬉しいぜ」
「とっ、鳥が喋ったーーーーー」
その声で他の受付嬢も集まってきた。それに野次馬たちも押し寄せて来てるので、建物内が大混乱だ。
「おいおい、捕獲したってよ」
「やっぱりあのおっぱいが勝利の鍵か」
「アレにはさすがのモンスターも勝てなかったみたいだな」
「だが喋ってるぞ、あの鳥」
「こうして迷宮から出られたってことは、モンスターじゃないのか?」
あー、こらこら。お触りは禁止だよ。ドサクサに紛れてなにしようとしてるの。このままだと話が進まないので、近くにいた女性探索者に頭を下げる。すると一斉にうなずいて、バリケードになってくれた。ありがとうございます、助かります。報告が終わったら、ニナの作ってくれたお菓子をあげますので。
「どうやらこの鳥はモンスターじゃなく神獣らしいんです」
「あっ、祖父から聞いたことあります。山や森の守り神とか言われてる動物ですよね」
「自然と共にあるエルフ族には、特に神聖視されている。私も目にしたのは初めてだがな」
「とにかくそういった高位の存在で間違いないです」
「なるほど、神獣なら喋ることができても不思議ではありません」
なんか理解が早くて助かる。神獣ってあまりメジャーな存在じゃないみたいだし、彼女のおじいさんには感謝しないと。
「どうやらこの鳥は長い眠りについていたらしいんですが、何者かに拉致され迷宮内へ連れてこられたようです。そこに漂うエーテルが悪い影響を及ぼし、自我を失っていたのではないか。僕たちはそう予想しています」
「その犯人はわからないんでしょうか?」
「残念ながら、本人も覚えていませんので」
実際のところ、クロウが暴走した原因はわからないから、それっぽい理由をみんなで考えました。だけど誰かに迷宮へ運ばれ、封印を解かれたのは確かだ。
「その影響はもう受けてないんですよね?」
「魂に刻まれた熱い情熱に負けて暴走しちまったが、コイツラのおかげで俺様は生まれ変わった。これからはおっぱいの守り神として生きていくぜ!」
「あのー、本当に大丈夫なんでしょうか……」
「心配には及ばないわ。そこで見てなさい」
アイリスが前に出てきて、クロウへいい笑顔を向ける。今かなり余計なことを言ったから、ちょっと怒ってるみたい。せっかく綺麗に話をまとめようとしてるんだから、誤解を生むようなことは言ってほしくないよ。
「あっ、こら。あんまり変な命令をするんじゃないぞ」
「ふふふ……クロウ、お座り!」
「ちくしょう! 体が勝手に動きやがる」
カメリアから飛び立ったクロウは、アイリスが指差す受付カウンターへ降りる。
「その場で三回廻りなさい」
「うおー、止まってくれ、俺様の体!」
「次はお手よ」
「く……屈辱だぜ」
「とまあ、こんな感じで調教ずみよ」
「はあー、なんか凄いですね。動物と一緒にやる大道芸とかありますけど、それを見てるみたいです」
この世界にもそんなのがあるのか。反省する猿とか、火のついた輪をくぐるトラとかいるかな。
「あんまり変なこと言っちゃダメだよ、クロウ」
「おぉー、さすがご主人さま、優しいぜ。癒やされるぅ~」
「ご主人さまとか言ってますが、一体なにが……」
「えっとボク、この子と主従契約したんだ。だから人を襲わせるようなことは、もうさせないよ」
アイリスから開放されたクロウが、カメリアに抱かれながら締まりのない声を上げてる。イケボなだけあって、だらしのなさが際立つ。でもやっぱりいいな、イケメンボイス。羨ましい。
「こうやって契約で縛ってるので、とりあえず安心してください。その辺りのことを、今から大賢者に相談しようと思ってるんです」
「あっ、それでしたら安心ですね。ただ、大賢者様のいる場所って、簡単に行けないと思いますよ」
「どこに住んでるか、わかりますか?」
「ギルドにある古い資料には、街の西側にある一番高い山という記録が残ってます。ですが誰も確認した人はいませんので、実際に住んでるかは保証できません。緊急時の連絡手段を大賢者様から教えていただいてますが、もう何十年も使ってませんので」
具体的な場所がわかればと思ってたけど、こればっかりは仕方ないか。周りにいる探索者からも、大賢者ってこの国にいたのか、なんて声が聞こえてくる。ここで活動してたシアも知らなかったし、世捨て人みたいな生活をしてるのかな。
とにかくギルドで情報を聞いてみるという目的も果たせたし、あとは実際に行ってみるしか無い。なにせ山登りに関しては、問題がなくなったしね。
そのまま報告書を作って提出し、女性探索者たちにお菓子を配ってからギルドを後にした。クロウが迷宮へ連れてこられた件に関しては、ギルドでも調査してくれるらしい。なにか手がかりが見つかるといいんだけど……
・補足
大賢者の情報は秘匿こそされてないものの、相応の理由がない限り公開されません。受付の女性はフロアチーフなので、独自に公開判断が可能だったのです。
なぜ連絡手段が存在するかや、情報を積極的に公開していない理由については、追々語られる予定。




