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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 僕だって怒ることはある

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第12話 切り札

 大地(だいち)から手加減なしのパンチを受け、壁まで吹っ飛んだオレカスだったが、青の精霊が持つ物理防御のスキルがぎりぎり間に合っていた。形勢逆転したことで溜飲を下げたスズランが、精霊たちに向けていた威圧を解いたのだ。それでも受けたダメージは重く、まだ立ち上がることができない。


 そんな彼の目に、スズランに抱きしめられながらはにかんだり、大地に頭を撫でられながら安心しきった笑顔を浮かべるオルテンシアの姿が映る。自分たちと一緒に活動していたときには見たことのない表情だ。



「なんでだ、なんでなんだよ! どうして俺たちよりレベルの低いそいつらを選ぶんだっ」


「さっきまで気を失ってた人が何を言ってるのかな。そっちの人だってボクに攻撃を当てられなかったし、レベルが低いのは自分たちの方じゃないの?」


「生意気言うな小娘! 大方(おおかた)そっちにいる身なりのいいガキが、何かの魔道具で俺たちの動きを阻害してるんだろ。そうでなければ、獣人族が遅れをとる道理なんてない」


「ただの負け惜しみにしか聞こえないわよ、恥ずかしくないのかしら」



 普段は他人を悪し様に言わないカメリアも、今回ばかりは盛大に(あお)っていた。そしてアイリスはいつもの調子で、容赦なく辛辣な言葉を投げかける。


 何も言わず三人を見つめる大地だったが、彼の心を支配しているのは怒りの炎だ。温厚な性格をしている大地は、これまで誰かに怒りをぶつけたことはない。そもそも争ったり競い合うことが苦手で、対戦型のゲームすら敬遠していた。


 そんな彼が、初めて他人に対して怒りを露わにしている。


 契約精霊であるスズランにとって、大地の心理状態を把握することは容易い。本来なら、こうして激情に囚われた契約主を落ち着かせるのも、彼女の役目。しかし今回ばかりは静かに見守っている。


 もちろん心根の優しい契約主に、殺人の十字架を背負わせるわけにはいかない。だが、それ以外の行為を止めるつもりはなかった。一旦溜飲を下げたとはいえ、まだスズランも怒っているのだ。



「僕の大切な人を傷つけた罪、償ってもらうよ」


「けっ、無片(ノーン)一端(いっぱし)の騎士気取りかよ! 反吐が出るぜ」


「あーあ、オルテンシアちゃんの最高にイケてる表情が見られたのに、今はあんなだらしない顔になっちゃってさぁ、興ざめだよ」



 普段は少し頼りない印象のある大地だが、三人を睨みながら対峙している姿は非常に頼もしい。そんな彼にオルテンシアは熱い視線を向けている。今の彼女は完全に恋する乙女の顔で、クズミナにとって一番面白くない表情だ。



「俺のシアとイチャイチャしやがって、許せねぇ……」


「シアは僕の大切な宝物だ、お前なんかに絶対渡さない」


「良かったですね、シア様」


「うっ、嬉しいのだが、かなり恥ずかしい」


「シアに目をつけたのは俺が先だ! 後から出てきて横取りすんな!!」



 金に目がくらんで背中から斬りつけたオレカスだったが、初めて出会ったときからオルテンシアに執着していた。三片(トリプル)のスキル持ちで容姿もそこそこの彼は、異性にチヤホヤされながら育っている。その経験は、自分になびかない女はいないと勘違いさせるほど、彼の性格を歪めてしまう。


 そんな彼の前に現れたオルテンシアをしつこく勧誘し、自ら立ち上げたパーティーへ誘うことに成功する。自分に対して塩対応を繰り返す彼女は新鮮で、その結果ますます想いをこじらせていく。そして今日、オルテンシアがいなくなったあと(くすぶ)っていた気持ちが、再会したことで炎上してしまったのだ。



「それを決めるのはお前じゃない、シア自身の気持ちだ」


「うるせぇ、知ったふうな口をきくな! シアが幸せになるには、俺と一緒になるのが一番なんだよ!!」


「その身勝手すぎる気持ちを、シアにぶつけないでほしいね」


「どっちが正しいか実力でわからせてやる。お前らアレを使うぞ!」


「迷宮で使う切り札だったけど仕方ないね。あたしもこのままだと腹の虫がおさまらないしさ」


「本当の力ってやつを見せてやる、さっきの様にはいかんから覚悟しておけ」



 三人は懐からパチンコ玉くらいの黒い丸薬を取り出し、ニヤリと笑いながらそれを飲み込む。そしてその効果は即座に現れた。



「「「うっ、うががががががぁぁー」」」


「マスター、あれはとても良くないものです。精霊たちが逃げてしまいました」


「……クッ、クハハハハハッ! これを見ろ、もうお前らには負けないぜ」


「あー、気持ちいいねぇ。あたし逝っちゃいそうだよ」


「この力、そして全能感。今なら空すら飛べそうだ」



 三人が叫びだした途端、契約していた青い精霊が消えてしまう。そしてオレカスが差し出した左手には、黒いシミのようになった五枚の模様が浮かんでいた。発現したスキルを示す花びら模様は、薄っすらと赤い色をしている。先程まで三片(トリプル)だったスキルを強制的に増やし、それを黒く染めてしまったのは薬の影響だ。



「……お前たち、なんて愚かなことを」


「シアはあれの正体を知ってるの?」


「あれは闇売買されている麻薬だ。使うと一時的に能力を上げられるが、とんでもない副作用がある。効果はそんなに長くないから、すぐに自滅するだろう」


「副作用がどうした、要は勝てばいいんだよ、勝てば。お前を騙しているその男を叩きのめして、救い出してやるからな。その後はたっぷり愛し合って幸せになろうぜ」



 オレカスは恋敵である大地に狙いを定め、ディゲスは先ほど軽くあしらわれたカメリアへ拳を突き出す。そして嗜虐的な笑みを浮かべながらナイフをぺろりと舐めたクズミナが、アイリスとの距離を一気に詰める。



「あーはははは、ボーッとしてるんじゃないわよ。そのきれいな顔を苦痛に歪めな!」



 クズミナのナイフは、アイリスの肩に深々と突き刺さっていた。しかし刺された本人は涼しい顔を崩さない。



「何をやったのかしら? 痛くも痒くもないわよ」


「体にナイフが刺さってるのが見えないの? お・嬢・ち・ゃ・ん」


「ナイフを刺したくらいでいい気になるなんて、おめでたいにもほどがあるわね」


「やせ我慢してるんじゃないよ。ほら、とっとと泣き叫びながら許しを請いなさい」


「残念だけど市販のナイフじゃ、ダメージなんて受けないの」



 アイリスの体が霧のように薄くなり、全く違う場所に現れる。先程ナイフが刺さっていた場所には傷一つなく、服すらも破れていなかった。



◇◆◇



 身体能力を大きく上昇させたディゲスが、カメリアへ向かって力任せに拳を叩きつける。お腹に一撃をもらったカメリアは、勢いを殺しきれず後退してしまう。



「どうだ俺の力は! じっくりいたぶってやるから覚悟しておけ」


「うーん、さっきよりちょっと痛いけど、全然平気だよ」


「ちっ、無駄に頑丈な魔人族が。なら倒れるまで殴るだけだっ!」



 今まで発現していなかった【闘気】のスキルで力を底上げし、【格闘】を生かしたラッシュパンチをカメリアに叩き込む。しかし精霊の加護に加え、【不動】のスキルを持ち【堅牢】と【硬化】が発現しているカメリアは、その場から一歩も動かず受け止める。



「あのさー、確かに強くなってるけど、動きが単調すぎるね。急に上がった身体能力を、持て余してるんじゃないかな?」


「反撃するっ、余裕もないくせにっ、口だけはっ、達者だなっ」


「ボクも急に力が上がってるから、まだ加減がわからないんだよ。すごく痛いと思うから、覚悟してね」


「何をゴチャゴチャと――ブボァァァァァーーッ」



 カウンターパンチをきれいに決められたディゲスは、きりもみしながら部屋の奥へ吹っ飛んでいく。そして部屋に残っていた家具やゴミを、いくつか巻き込んだあと停止する。四肢をひくつかせるディゲスは、完全に白目をむいていた。


ドーピングしたくらいでは、ピンチにすら陥りません(笑)

次回で決着!

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