第9話 こたつでミカン?
今日の探索は途中で切り上げ、街まで戻ってきた。モンスター・パレードで倒した分の輝力があるし、アイテムもしっかり回収させてもらってるから十分な儲けが出ている。迷宮で嫌な思いをして、収入まで無かったら目もあてられないし、ホント良かったよ。
「車内で軽くつまめるものとか、屋台で買っておこうか」
「ボク、お肉の串焼きがいい!」
「狭い車内で匂いの強いものを食べると、他の乗客に恨まれてしまうぞ」
「あうぅぅ……、じゃあ我慢する」
やっぱりこっちの世界でも同じなんだ。ハンバーガーや豚まんとかの匂いがすると、ついつい食べたくなるんだよね。日本で暮らしてたとき、朝ごはんが食べられなかった日に乗った電車が、カレーの匂いで充満してたことがあった。駅ナカのコンビニがいつもより賑わってたから、あれもある意味飯テロだよ。
「パンに肉や野菜を挟んだものをニナに作らせるから、それで妥協なさい」
「うん、ありがとうアイリス! えへへ、お弁当楽しみだなぁ~」
相変わらずアイリスって、カメリアにすごく甘い。見た目はカメリアのほうが年上だけど、アイリスから妹のように可愛がられてる。でもその気持はとってもよく分かるよ。ツノが元に戻ってからの彼女って、天真爛漫な笑顔がとにかく愛らしい。僕たちパーティーのムードメーカーで、元気を分けてくれる感じがするもん。
「なに生暖かい目でこちらを見てるのかしら、気持ち悪いわよ」
「え!? 僕、そんな目をしてた?」
「とても優しげな眼差しでしたよ、マスター」
「私には変な妄想をしてるように見えたのだけど?」
「二人は姉妹みたいに仲がいいから、ほっこりしてただけだよ!」
スズランとシアの二人で変な妄想をしちゃったことはあるけど、アイリスとカメリアはまだ無いからね。二人の場合は、百合百合しいというより微笑ましい。
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「みかんを剥いてあげたわよ、食べなさい」
「わーい、白いスジも全部取ってくれたんだね」
「見た目にもこだわるのが、上位種族のたしなみというもの。この程度、造作も無いわ」
「ボクが白いところ苦手だから、丁寧に剥いてくれるの知ってるよ。いつもありがとう!」
「あっ、あなたの為にやったんじゃないんだからね。ちょっと暇だっただけよ」
「こたつから手を出したくないし、そのまま食べさせてー」
「まったく、カメリアはいくつになっても甘えん坊ね」
「えへへ~、アイリスお姉ちゃーん」
「……しょうがないわね。ほら、口を開けなさい」
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なんで異世界人の二人が、こたつに入ってくつろいでるんだよ! しかも二人が着てる服はジャージだったじゃないか。カメリアなんか似合い過ぎてて怖いくらいだ。
どうして僕の妄想回路は、何でもかんでも日本の風景にしたがるのかな。
「あのだらしない顔を見てみなさい。きっとろくでもないことを考えてるわね」
「いかがわしいことを思い浮かべてるのではあるまいな、ダイチ」
「二人がこたつでくつろいでるシーンを想像してただけだって!」
このあと、こたつや日本の冬について説明するはめになった。みんな北にあるエヨンへ行ったことないので、寒い時期の過ごし方に興味があるみたい。こっちにない文化や用語が多くて説明するのが大変だったし、これから妄想は程々にしよう……
◇◆◇
屋台を少し回ってから、それぞれ別の店で必要なものを揃えることに。シアは本を探しに行くって言ってたし、カメリアはお菓子を見に行った。アイリスは枕になりそうなものを探すと言ってたから、移動中は寝て過ごすのかも。
「なにをお探しなのですか?」
「みんなで遊べそうなものを探してるんだけど、良さそうなのがないね」
弾力のあるボールや輪投げみたいなものは置いてるけど、カードやボードゲームみたいなおもちゃは見当たらない。ジグソーパズルっぽいのは、揺れる車内だと無理だろうな。
一応、チェスみたいな駒を動かすものは見つけた。透明なショーケースに入れられた高級品だったけど。盤面には職人技って思える細工がしてあって、駒にも宝石とか付いてる。この手のゲームって、お金持ちしかやらないのかな?
自作してもいいんだけど、電源不要なゲームの知識ってあまり持ってない。なにせ物心ついた頃から携帯ゲーム機があったから、遊びといえばそっちの経験ばかりだ。
「マスターと一緒なら、話をするだけでも楽しいですよ」
「今回はスズランが言うように、いっぱい話をしようか」
「はい、私はその方が嬉しいです」
こんな笑顔を浮かべられたら、ずっとゲームをしてるのが勿体なく感じる。この世界で初めての旅なんだし、景色を眺めながらゆっくり過ごすことにしよう。
「結構時間がたったし、そろそろ戻ったほうがいいね」
スズランと手をつなぎながらお店を出て、待ち合わせ場所へいく。そこには大きなクッションを持ったアイリスと、小袋をいくつも抱えたカメリアがいた。
「みんなお待たせ。アイリスの分は僕が持つよ」
「なかなか気が利くわね、褒めてあげるわ」
「ボク、両手が一杯で持てなかったんだ。ごめんね」
「美味しそうなお菓子は買えた?」
「うん! いっぱい買ってきたから、みんなで食べようね」
カメリアから甘い匂いが漂ってくるし、どんなものを買ってきたのか楽しみだな。ラムネに収納してもえば時間が停止するし、早く帰ってお願いしよう。
「シアはまだ本を探してるのかな?」
「そういえば遅いわね、なにか面白い本でも見つけたのかしら」
「少し離れた場所に、小さな本屋さんがあるんだ。そこに行ったのかもしれないね」
この街で二年近く暮らしてただけあって、カメリアはいろんな店をよく知ってる。路地裏にある露店なんかも網羅してるから、そこで買ったお菓子もあるだろう。なにせこの子が来てから、食材費がぐっと下がってるし。それにおまけも増えて大助かりだよ。
「シアって待ち合わせには一番先に来るタイプだけど、今日はどうしたんだろう」
「ボクもちょっと心配だし、探しに行ってみるよ」
「カメリア様の荷物は、私が預かりますね」
「ありがとうスズラン。それじゃあ、すぐ戻ってくるからね!」
抱えていた袋をスズランに渡し、元気に路地の方へ走っていく。男の魔人族が何人か、見とれて壁にぶつかったりしてるなぁ。走るとよく揺れるから仕方ないよね。
とりあえず入れ違いになったらまずいし、僕たちはおとなしく待つことにしよう。
◇◆◇
近くにある本屋さんを虱潰しに回ってみたけど、シアはどこにもいなかった。さすがにおかしいということで、近所で聞き込みをやってみる。
すると臙脂色のローブを着た人物が、男女三人組の探索者に声をかけられていたらしい。その三人は銀色のリストバンドをしてたそうなので、恐らく迷宮で会った元パーティーだろう。
この街は結構広いし繁華街も何か所かある。だから鉢合わせするリスクなんて、完全に頭から抜けていた。くそっ、どうして僕はいつも考えが足りないんだ。いいかげん自分の迂闊さに腹が立ってくる!
「官憲に連絡しないと! この近くにも支所があったよね」
「待ちなさいダイチ。証拠もないのに動いてくれないわよ」
「じゃあどうすればいいのさ! こうしてる間に、シアがどんな目に遭ってるか……」
あれだけ身勝手な考えができる三人だから、酷いことをするに決まってる。もしシアの身になにかあれば、僕は悔やんでも悔やみきれない。
「あの三人はシアのことを欲しがっていたわ、すぐにどうこうするつもりは無いはずよ。まずはいつもの場所まで戻りましょう」
「そんな悠長なことを言ってられないよ! 僕一人でも探しに行くからね」
「ボクも付き合うよ、ダイチ」
「二人ともいい加減になさい! 私に考えがあると言ってるの、下僕なら黙って従うのが筋ってものでしょ」
「マスター、落ち着いてください。この広い街を闇雲に探し回っても時間を浪費するだけです。今はアイリス様の言うとおりにしましょう」
スズランが僕に抱きついて背中をなでてくれた。花のような香りが鼻孔をくすぐり、優しい感触が少しづつ落ち着きを取り戻してくれる。
「ありがとうスズラン、もう平気だよ」
「時間が惜しいから急ぐわよ」
「うん、わかったよ。さっきは取り乱しちゃってごめんね、アイリス」
「とても大きな力を使うから、今夜にでも体で支払いなさい。さっきの醜態はそれで忘れてあげるわ」
街の中では言えないけど、シアが見つかるならどれだけ血を吸ってもいいよ。とにかく今はいつもの場所へ急ごう。
◇◆◇
自然公園まで戻ってきた僕たちは、いつも利用している木の近くに集まる。移動中に簡単な説明をしてくれたけど、アイリスの使い魔を使って探してくれるらしい。
「イチカ、ニナ、ミツバ出てきなさい」
「お呼びでしょうか、アイリスお嬢様」
「……あの、外に呼び出すなんて、どうしたんでしょう?」
「あれー? シアがいないね」
買い物の時はいつも一緒に外へ出るけど、アイリスの血を目印に設置してるこの場所なら、使い魔だけでも出入り可能だ。目印は一か所しか作れないので、ここまで戻る必要があった。
「シアが三人組の男女に連れ去られたわ。あなたたちは影になって街中くまなく探しなさい。見つけ次第ここへ戻ってくること、いいわね」
「かしこまりました、アイリスお嬢様」
「……お任せください」
「シアをさらうなんて許せない! 絶対に見つけてあげるから待ってて」
そう言って三人は、影の中へ溶けるように消えていく。使い魔の三人は影と一体化できるので、人知れず外の様子を窺うことができる。あらゆる場所に影は存在するから、何かを探すのにこれほど有利なことはない。アイリスがいてくれて本当に良かった。
――待っててねシア、すぐ助けに行くから。
アイリスが有能すぎる(笑)
次回から数話、視点が変わります。




