第6話 モンスター・パレード
ちょっとだけシアにすがるような視線を向けられたけど、現時点では彼女とだけ精霊が生まれてない。もっと仲良くすれば絆が深まって、スズランの【新生】スキルが反応するのかな。それともアイリスが言ったとおり、僕の血に特別な力があるのなら、飲んでもらったり輸血したら変化があるとか?
まあ輸血はダメだよね。血液型の違いとかで拒絶反応が出たら大変だ。シアとはどんな事でも言える関係になりたいし、焦らず絆を深めていこう。
「この辺りのモンスターだったらまだ対処できるね。もっと奥の方に行ってみる?」
「迷宮では何が起こるかわからない、油断は禁物だぞカメリア」
「確かにそうだよね。ボクもあんな浅い場所で強いモンスターに襲われたんだし、気をつけるよ」
彷徨う者の出現に規則性はないみたいだから、シアの言うとおり慎重すぎるくらいがいい。注意一秒ケガ一生。転ばぬ先の杖。石橋は叩いて壊す!
「対処が難しいようなら影で離脱するから、単独行動は避けるようになさい」
「ボクを助けてくれたときもそうだけど、アイリスって頼りになるね!」
「下等種族とは出来が違うのだから当然だわ。褒めたって何も出ないわよ」
「力が使い放題なのは、ダイチのおかげだろうに……」
「何か言ったかしら?」
ああ見えてもアイリスは、他の種族を軽蔑してるわけではないんだよね。僕に絡んできた酔っ払いや、カメリアを捨てた二人組なんかは見下してるけど、普通に接してくる人には相応の対応をしてる。
少し上から目線なのも、アイリスの容姿だと微笑ましい印象を受けるから、実は年配者を中心に人気が高い。本人は不満そうにしてるけど、その理由は孫扱いされてるからだろう。
「それより、ちょっと気になることがあるんだけどいいかな?」
「どうしたんだ? ダイチ」
「あの奥にある通路なんだけど、モンスターが一列になって歩いてるように見えない?」
「ほんとだね、こっちを見向きもしないけど、誰か追いかけてるのかな」
「その割に興奮したり走ったりはしていないようね」
モンスターって動きはかなりランダムだし、群れで活動するときも必ず別行動する個体がある。でも向こうに見えているのは、全員が何かを目指しているような進み方だ。
「あれはモンスターの特殊な行動で、終焉への行進と呼ばれている。なにかの拍子に迷宮が過剰にモンスターを生み出すことがあってな、その数が一定を超えると集団で移動を始め、一か所に固まって消えていくんだ。こちらから手を出さない限り襲ってこないから、このまま通り過ぎるのを待とう」
「近くに行っても大丈夫なら、どこに向かってるかボクちょっと見てみたい」
「モンスターが勝手に消えるというのは面白そうね。近くにいたら輝力が溜まらないかしら」
残念ながら勝手に消えた分の輝力は獲得できないみたいだけど、僕もちょっと興味があるから迂回路を経由しながら行き先を確かめてみることにした。道が交差している通路でも必ず同じ方向に全員で曲がるし、普段の行動と違ってとても不思議な光景だ。
増えすぎて集団移動するのって、元の世界にいたレミングって動物みたい。集団自殺するっていう都市伝説じみた噂があったな、確か。
「この先を曲がった場所は袋小路ですね。シア様の言われた終点でしょうか」
「あのさ、ボクの見間違いだったらいいんだけど、さっき向こうの方に走っていく人がいた気がする」
「初心者がうっかり手を出してしまったのかもしれないな。敵性認定されると、エーテルの境目まで追いかけられるんだ。反対側に行けば逃れられただろうが、地図を確認する余裕もなかったか……」
「それって大変じゃないか、僕が確かめに行くよ」
モンスターは自分が生まれた場所と同じエーテル領域から、離れようとしない特徴がある。それはモンスタ・パレードのときも同じらしい。エーテル分布の大まかな情報は地図にも書き込まれてるけど、逃げながら確認する余裕はないかも。
「私は少し戻って、通路をふさいでみよう。障害物で強引に進路を変えるのは、上級探索者もよくやる手らしい」
「ボクはダイチと一緒に行くよ」
「私はここでシアの面倒を見てあげるわ」
「では私もここにいて、緊急時にマスターへ連絡するようにします」
スズランとは離れていても、一度消えると僕の近くに再出現できる。二手に分かれるのはちょっと不安だけど、精霊のスキルで上がった耐性もあるし大丈夫だろう。
◇◆◇
別の通路から回り込んで、袋小路に向かう分岐点まで来た。元いた方を覗き込んでみると、シアの壁魔法でせき止められているらしく、モンスターの列が途切れている。だけどここまで近づいても僕たちに反応しないって、モンスタ・パレードは面白い現象だな。
おっと、そんなことよりこの先を確かめに行かないと。とにかく数と種類が多いし、変異種でも混ざっていたら大変だ。
声を出すとなんとなく襲われそうな気がするので、カメリアとうなずきあってから先を急ぐ。すると奥にある広場から、戦闘音と怒声が聞こえてくる。
「ちくしょう、次から次へと鬱陶しい。なんなんだ、これは」
「虫ばっかりでうんざりするわ」
「このままだと、さすがにもう保たんぞ」
「なんでこんな低レベルのモンスターしかいない場所で、死にそうな目に遭うんだよ!」
「あんたが集団を蹴散らして実績を作るなんて言い出すから……」
「お前らだって賛成したんだ、俺一人に責任を押し付けるな」
「無駄口をたたいてる暇があったら、生き延びる方法を考えろ」
中にいるのは男女の三人組かな。今までどれだけのモンスターを相手にしてきたかわからないけど、かなり追い詰められてるみたいだ。ここからでも少しだけ姿が見えるので、声をかけてみよう。勝手にモンスターを倒して怒られると嫌だしね。
「大丈夫ですかー」
「見てわからないのか! お前もさっさと手伝え」
「あの子って下級探索者だよ、私たちもうお終いだよ」
「下級だろうがいないよりマシだ、低ランクなら上位探索者の役に立ってみろ」
うわー、なんかやる気が萎えていくなぁ。僕がこんな探索者にはなりたくないって思ってる、筆頭のような人たちだ。とにかく声をかけてしまったし、討伐を手伝おう。
「僕たちがここでモンスターを食い止めますので、もう少しだけ頑張って下さい」
「手を抜くんじゃないぞ! 死んでも食い止めろ」
「はぁ……やろうか、カメリア」
「……うん、そうだね」
僕より少し年上っぽい獣人族の男性にどやされ、再びやる気がしぼんでいく。腕につけてるのは銀色のブレスレットだし、この程度の相手なら集団で襲われても、切り抜けられると思うんだけどな。声をかけたのは失敗だったかもしれない。
◇◆◇
カメリアが長物の両手剣を力任せに振り回し、生き残ったモンスターを僕が一体ずつ倒していく。攻撃してもターゲットが変わらないらしく、立ち上がったモンスターは奥へ行こうとした。そんな習性のせいで、僕とカメリアは特に苦労することなく、向かってくるモンスターを全て殲滅。腕輪についている輝石のバーも、実感できるくらい伸びている。
「はぁー、やっと終わったぜ」
「下級のくせによくやったな、褒めてやろう。特別に倒した分のアイテムは、持っていっていいぞ」
この三人って本当に中級なのかな。連携もバラバラだし、殲滅速度は僕たちより遅い。精霊たちの加護や、魔人族であるカメリアの存在を差し引いても、同じランクの探索者より弱すぎる。
「よく見るとあんた可愛い顔してるじゃん。そっちにいる魔人族の子も、なかなかイカスわ」
「とりあえず無事で良かったです。僕たちの仲間が向こうの方でモンスターをせき止めてくれてますから、合流してこの場を離れましょう」
あまり友だちになりたくないタイプだし、早くシアたちに報告して別れよう。適当に話を合わせながらアイテムを回収して、合流地点へ歩いていく。自己紹介は全員の前でってことになったけど、やっぱり僕の年齢で驚かれたよ。カメリアより年下だって思われてたみたい。
出会った頃のカメリアは中学生くらいだったけど、一晩で年相応に成長しちゃったからなぁ。
く、悔しくなんて無いんだからね!
……って、男がやっても可愛くない。もうやめておこう。
少し先の十字路が、土の壁で斜めに塞がれている。さすがシアだ、初めて実戦使用する魔法でも、完璧に発動してくれた。
「ただいま、シア、アイリス、スズラン。こっちは終わったよ」
「アイリスに確認してもらったが、こちらもモンスターの終端が通り過ぎたところだ」
「道をふさがれて不思議そうにしている姿は、なかなか滑稽だったわ」
壁の上に隙間があるし、そこから覗いてたのかな。飛べるモンスターはいなかったので、壁の高さを調整してくれたんだろう。こうやって魔法を自在に操れるシアは、本当に凄い。
「それよりマスター、奥にいた方はご無事でしたか?」
「うん、このとおり三人とも無事だったよ」
後ろを歩いてきた三人が角を曲がってきたので、紹介しようと通路の端によける。だけど三人はこちらの方を見て、言葉を失ってるみたいだ。小柄なアイリスや美人すぎるスズランがいるから、驚いてるとか?
「お、お前たちは……」
「……生きてたのか、シア」
「オレカス、ディゲス、クズミナ。まさかこんな場所で会うとはな」
――三人はシアを背中から斬った、元パーティーメンバーだった。
とうとう出会ってしまいました。
次回、アイリスの堪忍袋の緒が限界に「もう我慢ならないわ」をお楽しみに!




