第2話 精霊を進化させてみた
本日2回めの投稿になります。
「精霊を進化させるには、この進化石を使う」
オルテンシアさんが棚から出してくれたのは、三角おにぎりみたいな白い石。コンビニで売ってるものより、二回りくらい小さいサイズだ。この世界にもお米ってあるのかな、後で聞いてみよう。
この石を使うと、微精霊が下級か中級に進化する。丸い形だったら下級、脚のない人型になったら中級らしい。どちらになるかは完全にランダムらしく、こっちの世界の人は中級が出るまで、何度も契約し直すんだとか。微精霊を星1、下級を星2、中級を星3、そして上級を星4と呼んだりもするようだから、ソーシャルゲームのレア度みたい。進化も無凸や完凸とか言ったりして。
「もう一度聞くが、本当に白の精霊を進化させるんだな?」
「うん、スズランは僕にとって必要な子だと思うんだ。だからこの子を育ててみるよ」
どうして契約できたのかわからないけど、名前をつけてあげた子を手放すなんて考えられない。いくらこの世界で役立たずなんて呼ばれていても、存在意義のない精霊が生まれるなんて、システム的にありえないはず。
……って、ちょっと思考がゲーム寄りになってるな。
とにかくキャラクターの価値なんて、カンストまで育ててみないとわからない。あっ、やっぱりゲーム的に考えてしまってる。僕がまだ幼い頃、テレビなんかで話題になったとネットで見たことがある、ゲーム脳というやつだろうか。現実世界ではコンティニューやリセットができないし、気をつけよう。
「契約石と進化石はまだ数個あるから、気が変わったら言ってくれ」
そう言ってオルテンシアさんは、三角の白い石を渡してくれた。契約石と進化石は、子供のお小遣いでも買えるらしい。でも僕はこの世界のお金を持ってないし、人からもらったものを粗末に扱うなんて嫌だ。どちらに進化したとしても、スズランのことは大切にしよう。
そんな事を考えながら進化石を差し出すと、スズランはその中に溶けるように消えていく。そして石が光りながら形を変え、クリオネに似た精霊が誕生した。
「一発で中級精霊を引き当てるとは、なかなか運がいいな」
「ここから上級精霊に進化できるんですよね?」
「中級精霊は三つのスキルを使える、それぞれ星の数が三個あるはずだ。そこが全部埋まれば、上級精霊に進化できる」
スズランが空中に出してくれたスキルには
応援:★☆☆
安定:★★★
献身:☆☆☆
と書かれていた。
今さらだけど、こっちの文字がちゃんと読めてる。話してる言葉もわかるから、異世界転移のお約束がちゃんと発動してるようだ。英語と第二外国語の成績は悪くなかったけど、余計な苦労が減ったのは嬉しい。聖ナントカ語を理解できない主人公が序盤に苦労した、異世界召喚シミュレーションゲームとかあったし。
微精霊のときに持ってた【安定】が三つ埋まってるので、更に効果が高くなったんだろう。【応援】は元気が出るスキルで、【献身】は精霊が懐きやすくなるみたい。今も僕の頬に体を擦り付けてくれてるけど、なんだか嬉しい気持ちがこちらにも伝わってくる。
星が全部埋まるように、これからもスズランと仲良くしよう。そうすれば上級精霊に進化させてあげられる。その時には特別な進化石が必要で、オルテンシアさんも一個しか持ってない。それを使わせてくれると言ってくれたし、なにか恩返ししないといけないな。彼女のために僕がしてあげられる事って、何かあるだろうか……
◇◆◇
オルテンシアさんは難病にかかっていて、その治療法を探すため森の中にある家に住んでいる。その病気の影響で、満月の晩にしか動けないそうだ。机の上にあった道具は、薬の調合に必要だったのか。
今日がその満月の夜で、素材を採集するために森へ来て、僕のことを見つけてくれた。
家と森の一部には、人が近づけない結界を張っていたから、そんな場所に僕がいて驚いたらしい。だけど着ている服や、スズランが心配そうに寄り添っている姿を見て、声をかけてくれた。ダークエルフはこの世界ではよく思われていないみたいなので、僕にそんな偏見はないと知ってホッとしてたな。
オルテンシアさんも元は普通のエルフで、病気の影響で肌と髪の色が変化している。本人は今の姿をよく思ってないみたいだけど、僕には妖精のようでとても素敵にみえた。本人にそれを言ったら、なぜか怒られてしまったけど……
とにかく夜明けとともに森を出て、この国の首都であるアーワイチの街へ向かっている。オルテンシアさんから預かった輝石という、双四角錐柱をした水晶みたいな透明な石に、輝力というエネルギーをチャージしないといけない。
結界を維持するために必要らしく、色々お世話になったお礼がしたいと粘った僕に、ちょっと困り顔をしながらお使いを頼んでくれた。ただ、次に会えるのは二十四日後になる。この世界では月の満ち欠けを基準にカレンダーができていて、月初めの日が満月だ。
ひと月が二十四日で十五ヶ月あるから、一年は三百六十日。地球より若干少ないけど、毎月同じなのですごくわかりやすい。小学生の時に〝西向く侍〟なんて覚えたのは、懐かしい思い出だ。ちなみに週の概念もあって、ひと月は六日×四週になる。日曜みたいな、休息日はないそうだけど。
「突然別の世界に来て、もっと慌てたり落ち込んだりするかと思ったけど、なんとかなりそうって思えるのはスズランの【応援】と【安定】スキルのおかげだろうね」
――リィィィィィーン
オルテンシアさんみたいに、親切な人と出会えたのも大きいだろうけど、不安に押しつぶされずに済んでるのは、スズランがいてくれたからだろう。元の世界にいた頃から、どんな事でもなんとかなるなんて、ちょっとお気楽に考える性格だった。そうした部分が、より強化されてるのかもしれない。そう考えると、僕とスズランの相性は抜群ってことだ!
「迷宮には願いを叶える宝も出るみたいだし、チャンスがあったら探してみたいなぁ」
――リィーン
ここに迷い込んでしまった越境人が、元の世界に帰ったという記録はないはず、オルテンシアさんはそう言っていた。しかし唯一希望がるとすれば、願いを叶えてくれるという宝物だ。出現する条件は全くわからないけど、これまで何人も手に入れた人がいる。巨万の富を得たり、王様になった人もいるんだとか。
もしそんな物を手に入れられたなら、僕が望むのは記憶を取り戻して元の世界へ帰ること。
「だけど今は、少しでも早くこの世界に慣れないとダメかな」
――リィィィィィーン、リィィィィィーン!
肩の上にちょこんと立っているスズランに話しかけながら、僕は街道を歩いていった。
「ゲー○脳の恐怖」は2002年に出版されました。
「永遠のアセ○ア」はPSP版が2012年発売ですから、ぎりぎり知ってる範囲(笑)
(この作品の世界線では、サイバーフ○ントの倒産なんて無かったんだよ!
Ω ΩΩ<な、なんだってー!)