第5話 そんなに接近する必要あるの?
一日ゆっくり休養をとった後、再び迷宮へ向かっている。旅行のこともみんなに話してみたけど、カメリアの強い希望でウーサンになりそう。海の幸の魅力に逆らえなかったからだ。もしかしたらみんなの水着姿を見られるかもしれないし、僕もちょっと楽しみなんだけどね。
この世界には、どんな水着があるんだろう。ビキニアーマーがあるくらいだし、あんな形の水着も売ってるんだろうな。だけどカメリアやスズランが着ると、絶対に目立ちすぎる。男の視線を釘付けどころか、絶対に離れないくらい溶接しちゃうよ。
無人島とかプライベートビーチみたいなのが、あればいいんだけど……
「今日はどこに行くのかしら?」
「先日の様子だと、群れのいる場所でも余裕があった。私も試したい魔法があるし、今日はそういう個体が発生しやすい場所にしようか」
「頑張ってモンスターをいっぱい集めるから任せて!」
「ひとまとめにして狩ると効率もいいし、僕もそれでいいと思うよ」
一体一体倒すよりマナの負担が減るみたいだから、シアにとっても探索しやすいはず。それに教えたばかりの壁系魔言を試したいみたいだ。
敵を分断したり侵入を防いだり、使い所は多いと思う。だけどこの世界の魔法は、何かを飛ばしたり落としたりするという固定観念が強すぎて、壁を作るなんて発想がなかった。まあ、精霊が収納した大盾でも代用ができるから、わざわざ魔法を使うまでもなかったって事かもしれない。
「そういえばカメリアは精霊と契約しないのか? 上級進化石はもう無いが、契約石と通常の進化石なら、私がいくつか持っているぞ」
「うーん、体は元に戻ったけど、ダイチとの繋がりがあるから無理じゃないのかな」
カメリアと一緒になってから結構経つのに、すっかり忘れてたよ! さっき固定観念がどうとか考えてたけど、僕の方こそ血の繋がりがもたらすデメリットに囚われすぎてた。もしかすると同じ精霊のスズランなら、わかるかもしれない。いい機会だし聞いてみよう。
「スズランにはカメリアが精霊と契約できるかってわからない?」
「少々お時間をいただけるなら、カメリア様の声に精霊が応えてくれるかお調べしますよ」
「契約するかどうかは少し考えてみるけど、せっかくだから調べてもらってもいい?」
「わかりました、では向こうの方に行きましょう。ここだと人目につきますから」
あ、なんか嫌な予感がする。このとてつもなくいい笑顔は、絶対になにか企んでいる表情だ。シアも一度やられてるから、すごく微妙な顔してるぞ。こんな街なかでなく、家でお願いすればよかったよ。もう後の祭りだけどさ。こぼれてしまったミルクを嘆いても仕方がないってやつだね。
◇◆◇
にこにこ顔のスズラン、なんだかよくわかってない表情のカメリア、なにが始まるのか興味津々なアイリスたちを連れ、路地の突き当りに出来た小さな広場へやってきた。建物に囲まれた場所だけど、うまく日が差し込んでて結構明るい。秘密基地みたいでいい場所だなぁ。
目隠しになる塀や木もあるし、ここなら何がおきても大丈夫そう。シアのローブに隠れていたサクラとラムネ、それにメロンも少しだけ顔を出してる。
「わかっているなスズラン。いくら人目につきにくい場所でも、ふしだらな行為は絶対禁止だぞ」
「心得ていますよ、シア様」
「えっと、ボク変なことされるの?」
「何も恐れることはありません。すぐ終わりますので、ご安心下さい」
「妙に胡散臭いわね、契約主に似たのかしら」
「えー、その言い方は酷いよ!」
僕はこれでも、みんなと真摯に向き合ってるつもりなんだけど……
そもそもスズランは僕と親しい相手に、妙な茶目っ気を出す悪い癖がある。でも本気で嫌がったり困ったりすることは絶対にやらないし、こうしたやり取りを凄く楽しんでるみたいだから、怒るに怒れないんだよね。
「それではカメリア様。私の目をじっと見つめて、決して逸らさないで下さい」
「う、うん、わかったよ」
カメリアのほうが数センチ背が高いから、スズランが少し見上げる姿勢で近づいていく。さっきまでのニコニコ顔とは違い、かなり真剣な表情だ。なんというか、美人はどんな事やっても絵になるから、ちょっと羨ましい。
どんどん距離を詰めていくスズランは、カメリアの中に隠れているものを見ようとしてるみたい。お互いのものが触れ合って変形してるけど、そんなにくっつく必要あるの!?
「少し近づき過ぎではないか?」
「この距離ではまだわかりませんよ、シア様。もう少し近づく必要があります」
「あのぉ。これ以上近寄られたら、ボクたちキスしちゃいそうなんだけど……」
「カメリア様さえよろしければ、このまましてみますか?」
「えっ!? ダ、ダメだよ! ボクの初めては好きな人にもらって欲しいからっ」
顔を赤くしながらワタワタしてるのに、決して目をそらさないカメリアは健気だなぁ。スズランがこうして迫りたくなるのもわかる気がする。ちょっと女の子が好きすぎる気もするけど、正直いってすごく眼福です。まさか僕のこういった願望を叶えてくれてるなんてことは……ないよね?
「カメリアをからかってないで結論を言いなさい。このままでは日が暮れてしまうわよ」
「かしこまりました、アイリス様。では、お伝えしてもよろしいですか?」
「う、うん。どんな結果でも受け入れるから、ズバッと言って」
「大変素晴らしいお覚悟です」
えらくもったいぶるな、スズランは。仲間が増えるに従って、どんどん人間味が増してる気がする。最初から人と変わらないやり取りが出来てたけど、今にして思うと少し人形っぽい部分があったかも。これってきっと良い変化だと思う。
欲を言えば、もう少し自重してくれると助かります!
「カメリア様の声は精霊に届きますので、今でしたら契約することが可能ですよ」
「ホント!? やったー!」
「ではどうする、ここで試してみるか?」
「あ、ごめんねシア。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、サクラやラムネたちがいるから、今はやめておくよ。それにメロンはボクとダイチの子供みたいなものだから、今はそっちを大事にしてあげたいんだ」
シアのローブから飛び出したメロンを、カメリアが愛おしそうに撫でている。それにしてもスズランやカメリアに抱きつく時は、どうして胸のあたりに行くんだろう。僕やシアだと頬にすり寄ってくるんだよね。一番柔らかい部分に行ってるのかな?
シアがそんな二人の姿をじっと見つめてるから、そろそろ終わりにしてあげて。なんか背中から黒いオーラが出てる気がするんだよ……
「良かったね、カメリア」
「うん! ダイチのおかげだよ、ありがとう」
「まったく。私の時といい、スズランには慎みが足りん」
「スズランって美人だし凄くいい匂いするから、ちょっとドキドキしたよ」
いつも花のような爽やかな香りがするからね、スズランは。僕にとってはドキドキより、落ち着く効果のほうが高い。毎日ぐっすり眠れて、爽やかな目覚めを迎えられるのは、きっとスズランのおかげだろう。
そう言えばシアも宿屋ぐらしの時に、同じようなことを言ってたっけ。アイリスの家に来てから別の部屋になってるし、ちゃんと眠れてるか機会があったら聞いておこう。
とにかく今は迷宮へ出発だ。
次回はいよいよイベント発生。
「第6話 モンスター・パレード」をお楽しみに!




