第2話 お礼参りってそれはないでしょ
誤字報告ありがとうございました!
突いたらアカン……w
探索者ギルドにドロップした指輪やアイテムを持ち込むと、査定に時間がかかるからと待たされることになった。それで、なぜか受付嬢の話し相手になってる。順番待ちこそ発生してないけど、他の窓口もちらほら人で埋まってるし、こんなことしててもいいのかな?
「みなさん、探索者になられたばかりなのに凄いですね。腕輪に記録された情報だと、中級ランクのモンスターも混ざってますよ」
「五片の私がいるのだもの、当然ね」
今日の担当者は見たことない受付嬢だ。ファミレスやスーパーのレジで見かける、研修中のバッジを付けてたらわかりやすいんだけど、この世界にそんなものはないみたい。見た感じまだ十代くらいの若い子で、深い赤をした髪のあいだから、牛みたいなツノが伸びている。明るくて愛嬌もあるし、人気が出そう。
「私も五片の人は、数人しか見たことありませんよ」
「強さと気品そして優雅さを備えた私は、その頂点に立っていると言っていいわ」
「髪の色も珍しいですし、何もかもがレアですね!」
「髪の色は病気の後遺症なの。その時に成長も止まってるから、あなたよりずっと年上よ。だから敬意を持って接するようにしなさい」
「なるほど、ご病気の影響でしたか。では隣りにいるエルフのかたも?」
「あ、あぁそうだ。私も病気の後遺症で、髪と肌の色がこうなってしまっている」
そういえば、そんな設定を作ったな。ほとんど使う機会がなかったけど、意外な所で役に立った。年をとってから増える白髪もそうだけど、病気や体質の変化で髪の色って変わるみたいだしね。マリー・アントワネットも一晩で髪が白くなったとか逸話が残ってるけど、この世界にも同じような言い伝えがあったりして。
「エルフで思い出しました。ゼーロンから来られた三人組の中級探索者が、エルフのメンバーを募集しているそうです。一応規則なので、お伝えしておきますね」
「残念だが、私は彼やこのメンバー以外と組むつもりはない」
「そうですよね、なんか皆さんすごく仲良しですし」
「ボクもダイチと深く繋がり合ってるんだから、離れる気はないよ!」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、際どい発言をしてるからシアが睨んでるって。それから腕に当たってる、まろやかなものが当たってるから!
「私もマスターに全てを捧げていますから、同じく一心同体です」
あっ、ちょっとスズランまで。もしかしてカメリアに対抗してるの? 両方からサンドされたら流石にやばい。シアも噴火寸前だから離れてー
「あらら、可愛い顔をしてらっしゃるのに、なかなかやりますね。もしかして凄いものをお持ちなんでしょうか?」
「私の下僕だもの、人にはないものを持っているわ」
「こんな小さくて可愛らしいかた相手に、主従プレイまでされてるなんて。マニアック過ぎます!」
みんな頼むから、もうちょっと言い方を考えてよ。
それに僕は多分あなたより年上ですからね。そもそも凄いものとかありませんので、視線を下げないでください。だからほら、ニヤニヤしながらなにを妄想してるんですか! ちょっと吸われたりするだけですよ、血を。家賃みたいなものなんです。パピヨンマスクをつけたアイリスが、ムチを振ってたりはしませんからね。
「オイコラ、テメェ。相変わらず女を侍らせやがって!」
突然後ろから声をかけられて振り返ると、二十代の男が仁王立ちしていた。どっかで見た記憶があると思ったらあれだ、以前僕に絡んで自滅した人だ。
「怪我は治ったんですか?」
「おかげさまでこのとおり。もう剣だって握れるぜ……って、なに呑気に挨拶してやがる。俺はお前のせいで、いい笑いものになったんだぞ、コノヤロウ!」
えー、あれは完全に自業自得だと思うんだけどな。僕の方からは一切手を出してないし、酔って絡んできたのはそっちじゃないか。
「ねぇ、この人だれ?」
「以前ダイチに絡んできて、返り討ちにあった酔っぱらいだ」
「あんな醜態を晒したのにまた来るなんて、とんだ恥知らずがいたものね」
そういえばあの時は、まだカメリアは一緒じゃなかったな。あれからだいぶ日にちが経ってるし、怪我が完治するまでおとなしくしてたんだろう。
「うっせぇ! あの時は酔って手元が狂っただけだ。今日は前みたいにはいかねぇぜ」
「さすがにまた暴れたら、ギルドも黙ってないと思うよ?」
どんなペナルティーを受けたのかは知らないけど、すでに素行が悪くて目をつけられてるんだから、目立つ行動は避けたほうがいいと思う。建物内にいる他の探索者も、こっちを注目して騒いでるよ。端っこのテーブルに積み上げてるのはコインかな、もしかして賭けの対象にでもされてる?
「俺の心配する前に、まずは自分の身を案じやがれ」
「あのー、ギルド内での揉め事はやめていただけませんか?」
「こいつにちょっと礼をするだけだ、すぐ終わらせるから口を出すんじゃねぇ!」
新人の受付嬢っぽいし、怖がらせたりしないで欲しい。それに礼ってあれだよね、お礼参りとか言われる方だよね。なんかこの人の思考は、昔の不良が出てくるマンガみたいだ。
「ボクが追い出そうか?」
「絡まれてるのは僕だし、女の子の手は借りられないよ。なんとかしてみるから見てて」
「女の前だからってカッコつけやがって、泣きながら床に這いつくばらせてやるッ!!」
前もいきなり殴りかかってきたけど、またこの展開だよ。同じように受け止めてもいいけど、ラムネのスキルで反応速度も上がってるし、今回は避けてみよう。
「てめぇ、よけてんじゃねぇ!」
「いや、殴られたらよけるでしょ。痛いのは嫌だし」
どんなに強い攻撃でも、当たらなければどうという事はないってやつだ。まあ、この人のパンチくらいなら、当たっても痛くないけど。身体強化を持たない人族の打撃は、モンスターには遠く及ばない。あっちは当たりどころが悪いと、虹色の謎液体が口から出そうになるし!
「ちっ、ちくしょう! なんで当たらねぇんだ」
「職員の人もこっちを見てるし、そろそろやめにしない?」
「ここまで来てやめられるか! ぜってぇ泣かせてやる」
仕方がないなぁ。このままだと埒が明かないし、また同じ柱を使わせてもらうか……
少しずつ下がりながら誘導して、ちょうどよい位置に来たら間合いを大きく開ける。案の定こっちに突っ込んできたので、横に避けて足を引っ掛けた。
「――ぶべっ」
男の人は突っ込んできた勢いのまま、バランスを崩して前方にあった石の柱に顔面から激突。ズルズルと崩れていったあとには、赤い線が一本引かれていた。そして駆けつけた職員に、うつ伏せの状態で引きずられていく。前より扱いがぞんざいになってるなぁ、床に伸びる赤いラインが哀愁を誘うね……
「やるな、坊主! なかなか楽しませてもらったぞ」
「無片のくせに強いじゃないか!」
「ナンパなやつだと思ってたが、見直したぜ」
「ただのハーレム野郎ってわけじゃなかったんだな」
「ほれ、お前の分の配当金だ。受け取りな」
やっぱり賭けをしてたのか。ちょっと割り切れないものがあるけど、貰えるものは貰っておこう。見世物にされたんだから、これくらい役得があってもいいかな。
「パーティメンバーを待たせてるので、そろそろ戻りますね」
「おう、引き止めて悪かったな」
「探索がんばれよ!」
「女を泣かすんじゃねーぞ」
頭や背中をバンバン叩かれたけど、サクラのスキルがなかったら無茶苦茶痛いってこれ。みんな手加減なさすぎだよ。だけど他の探索者にも認められた感じがするし、結果オーライってことで喜ぼう。臨時収入もできたことだし!
「カッコよかったよ、ダイチッ!」
「今回も見事にあしらったな」
「私の下僕だもの、これくらいできて当然よね」
「さすが私のマスターです」
やっぱり男たちに囲まれるより、こうして笑顔で出迎えてくれる女の子のほうが遥かにいい。だけど人前でギュッと抱きついてくるのは、ちょっと恥ずかしいよカメリア。もう装備品は外してるから、すごくまろやかなものが僕の胸に当たって、大きく形を変えてるし! ほら、受付嬢にもマジマジと見られてるからさ。
「なんだか余裕で受け流してましたけど、もしかしてダイチさんって凄い実力者なのですか?」
「いや、そんなことないですよ。自然に囲まれた田舎で育ったので、ちょっとした野生児みたいな感じです」
嘘です。元住んでたところは、中規模の都市でした。駅前には大型の商業施設とかあったし、電車やバスの本数もそれなりにある。東京なんかと比べれば田舎かもしれないけど、便利で住みやすい地方都市だったのは間違いない。
こんな事ができるようになったのは、シアのローブに隠れてる精霊たちがいてくれるから。今夜もいっぱいお礼して、頭をなでてあげよう。
◇◆◇
さっきまでと違う目で僕を見はじめた受付嬢とその後も少し話をし、買取金額の一部を輝力で受け取って、残りはパーティー口座に入金してもらう。
モンスターからドロップした指輪には、毒耐性(小)の効果がついていた。完全には防げないものの、前に見たことのある紫色のスライムが出す毒だと、少し気分が悪くなる程度に抑えられるらしい。割と人気のある装備なので、買取額も結構いい値をつけてもらえている。
だいぶ資金も溜まってきたから、旅行とかもしてみたいな。
哀れ、資料集にも載らない噛ませ犬キャラ(笑)




