第1話 みんな成長してるよ
カメリアが加入してくれてから、迷宮探索の安定度が一気に増した。実はつい先日、四つ目のスキル【硬化】が発現している。これでカメリアもシアと同じ四片って訳だ。僕は相変わらず無片なのが悲しい。
精霊たちのおかげでそれなりに戦えるんだけど、やっぱり周りの目が痛いんだよ。なんで僕みたいな才能なしと四片や五片が一緒にいるんだ、そんな感じに見られてる。以前ギルド内でトラブルがあった時、殴られても平然としてたのが異様だったらしく、直接言ってくる人はいまの所いないけど……
とにかくカメリアは【堅牢】で怪我をしにくくなり、【不動】で体勢が崩れにくくなる。無茶な探索はしてないので効果を実感しにくいけど、【背水】のスキルはピンチに強くなるはず。そして新たに発現した【硬化】は、俊敏を犠牲にして更に肉体強度を上げるスキルだ。鉄壁の前衛として、とても頼もしくなってくれた。
いまのフォーメーションは前衛がカメリア、そして僕は遊撃を担当。後衛のシアはアイリスに守ってもらう形だ。経験の少ない僕が遊撃をやっていけるのは、死角をスズランがフォローしてくれるから。他の精霊たちにも的確に指示を出してくれるし、スズランが司令官って感じかも。
いまのところ防御面に不安がないので、ラムネの時間停止付き収納【保存】を一つだけ上げて、あとはメロンのスキルを育成している。
剛力:★★☆☆☆
強壮:☆☆☆☆☆
神速:★☆☆☆☆
専念:★☆☆☆☆
筋力を上げる【剛力】の星を二つ埋めたけど、かなり体感できるほどの効果を得られた。カメリアが両手剣を軽々振り回す姿なんて、なかなか凄いビジュアルじゃないかな。ちなみに、元からある力に比例して効果が出るみたいなので、シアやアイリスの上昇率は低い。
俊敏が上がる【神速】で体のキレは良くなってるし、集中力を高める【専念】はモンスターの攻撃を見切りやすくなる。それぞれ星一つでも実感できるくらいだから、慣らしながら徐々に上げていかないと、能力に振り回されてしまう。チートでいきなり人外の力を手に入れる系の主人公って、元からすごい戦闘センスを持ってるんじゃないかな。僕にはちょっと無理だ。
「ボクはあっちの集団をひとまとめにしてくる!」
広い部屋には体長五十センチ位のグリーン・アントが、集団で湧いていた。カチカチと大アゴを鳴らす大きなアリは、なんど見ても気持ち悪い。迷宮の奥には体長二メートル以上あるレッド・アントなんかも出るそうだ。
今の僕たちならグリーン・アントに噛まれたくらいでは致命傷にならないけど、変異種には装備を溶かす個体もいるから気をつけないとダメらしい。確かアリが出す液体って、ギ酸とかいったな。
「僕は単体で行動しているのを倒してくるよ」
剣と盾を構え、部屋の隅でうろついているグリーン・アントへ走っていく。部屋の反対側を横目に見ると、カメリアが器用にアリたちを一か所におびき寄せている。彼女ってヘイト管理が、すごく上手なんだよな。少し離れた場所にいるモンスターでも、カメリアの声や動きに反応して近づいていく。もしかしたら挑発系の伏在スキルを持ってるのかも。
「ごめーん、一体取り逃がしちゃった」
「問題ないわ、任せなさい」
〈影縫〉
アイリスも影の使い方が上達し、いくつか新しい技を編み出している。いま発動したのも、相手の影を利用した行動阻害技だ。影を縫い付けるって、なんか忍者っぽくっていいよね! 使ってるのはゴスロリツインテールの少女だけどさ。
「私の出番だな」
〈石の針〉
魔紋の完成とともに、鋭利な石の針がモンスターの体を貫き光に変える。相変わらずシアの魔法は発動が早くて、狙いも正確だなぁ。赤の精霊を連れた探索者を何度か見たことがあるけど、魔紋の構築も遅いし当てられないこともあった。その点シアは百発百中なのがすごい。
おっと、よそ見ばっかりしてないで、自分の仕事をしないと。
こちらに気づいたグリーン・アントが大アゴを開いて迫ってくる。これくらいなら僕の身体能力でもかわせるので、横へ回り込んで首と胴体の付け根に一閃。頭がズルリと滑り落ち、モンスターは光になって四人のブレスレットへ吸い込まれていく。
「マスター。右の通路から新手です」
「ありがとうスズラン!」
僕たちが入ってきたのとは別の入口から、二体のグリーン・アントが現れた。片方の関節へ剣を突き立て光に変えたあと、もう片方の攻撃にバックラーを当てていなす。相手がいったん間合いをとったので、そのまま回り込むように近づき剣を振り下ろした。少し狙いがずれてしまったので硬質な音が室内に響いたけど、胴体とお腹の部分を分離することに成功。そちらも光になって、ブレスレットへ吸い込まれていく。
「ふぅ……まだまだ剣筋が安定しないな」
これでもだいぶ様になってきたんだけど、自分の実力不足を痛感してしまう。まあ素人が見様見真似でやってる剣術だから、仕方ないんだけど。それでも日本で暮らしてるときより体力もついたし、体も少しずつ思う通りの動きができるようになってきてる。
大学に入ってからあまり運動しなかったし、家でもゲームしてることが多かった。高校までの授業であった体育は面倒な時間だったけど、ああして強制的に運動させられるのって実は大事だったんだ。最近になって、そんなことを実感しちゃったよ。
「いつでもいいよー、シア!」
ちょうどモンスターを集め終えたらしく、カメリアが大きく手を振っている。このメンバーの中では一番運動量が多いのに、相変わらず元気だなぁ。明るく天真爛漫で僕によく懐いてくれてるので、本当の妹ができたみたいで嬉しい。スキンシップが少し激しいのは困りものだけど……
〈氷点下の領域〉
シアの魔法が完成し、集団の中心から温度差でできた水蒸気が広がりだす。そうするとガチガチとうるさく鳴っていた大アゴの音が、徐々に弱々しくなっていった。やっぱり昆虫系のモンスターは、冷やすと動きが鈍くなる。だから群れてると逆に助かるんだよね。
「せーの、よいしょー!!」
両手剣を振り回しながら、カメリアが動けなくなったグリーン・アントを次々光へ変えてゆく。なんか無双系ゲームのプレイヤーキャラみたいで、見てるだけで爽快だ。
いけないいけない。じっと眺めてないで、僕も手伝いに行こう。
◇◆◇
グリーン・アントのドロップアイテムは〝硬い皮〟で、防具の材料になる。それを拾い集めていたら、カメリアが嬉しそうな顔をして走り寄ってきた。うんうん、犬チックで可愛い。獣人族みたいにしっぽが生えてたら、毎日お風呂上がりにブラッシングしてあげるのに。
その代わりにツノを撫でてあげると、すごく喜んでくれる。あんまりやりすぎたら力が抜けて立てなくなるので、気をつけてあげないとダメだけど……
「やったよダイチ、指輪が落ちてた!」
「すごいよカメリア、鑑定してもらうのが楽しみだね」
「変異種でもいたのかしら?」
「一匹だけ大きな体をしてて、お腹の色が違ってたかな」
「ふむ、それは〝女王〟と呼ばれる特殊個体だ」
いくら昆虫型モンスターといっても、卵を生んで育てるわけじゃない。それなのに女王アリがいるなんて、つくづくモンスターって不思議な生態をしてる。ある時期になったら羽の生えた個体が発生して、飛びながら襲ってきたらやだな。大きなアゴを広げながら眼前に迫られると、怪我なんかしなくてもトラウマになるよ。
「指輪だから耐性系の効果がついてるのかしら」
「サクラのおかげで私たちには必要ないだろうし、ギルドで鑑定して活動資金にしてしまおうか」
「うん! 前の時みたいに高く売れるといいね」
「それじゃあ、今日はそろそろ街へ戻る?」
アイリスの影転移を使って迷宮内で一泊してるから、出口まではそれなりの距離がある。今から移動すれば、のんびり歩いても明るいうちに着くだろう。
探索者として活動し始めてから二度目の装備品を手に入れ、僕たちは意気揚々と街へ戻ることにした。
いくら力があっても認識や技量が追いつかないと、無双キャラにはなれないというこだわり( ー`дー´)キリッ




