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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 僕だって怒ることはある

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閑話08 プロローグ「その後の三人」

第4章の開始です。

よろしくお願いします!

 盾を持ったオレカスがグリーン・リザードの攻撃をいなし、剣で斬りつけながら一旦距離を取る。こちらへ迫ってくる集団へクズミナがナイフを投擲し、それを抜けてきた一体にディゲスが攻撃を仕掛けにいく。


 うっかりグリーン・リザードの群れに突っ込んでしまったオレカスたちは、集団を誘導しながら距離をとって迎え撃つことにした。少し離れた場所に先回りさせた魔法使いが、息を整えながら魔言(まごん)を唱えようとしている。



「おい、魔法はまだか!」


「はぁっ、はぁっ……無茶言わないでくださいよオレカスさん、そうポンポン撃てるわけ無いでしょ」


「【魔術】のスキル持ってるって嘘だったの?」



 後衛で魔法の準備をしているエルフの若い男に向かって、クズミナが胡乱(うろん)な視線を向け始めてしまう。自分の持っているスキルは他人に見えないため、どうしても自己申告になる。パーティーに臨時加入した男のことを疑っているのだ。



「お言葉ですが僕は同期生の中でも上位の使い手だったんです、集中できなくなりますから話しかけないで下さい」



 エルフ族の使う魔法は、精霊より強力だが弱点もある。それはマナの消費が多いこと、そして魔言(まごん)を唱える前に集中しないといけないこと。先程から何度も魔法を使ってるので、男の集中力は続かなくなっていた。


 三人が黙ってモンスターの相手をしていると、やっと男の範囲魔法が発動する。



「この辺りのモンスターだと少し手に余るな、一度戻るか」


「でもよディゲス、もっと奥まで行かないと実績にならないぜ」



 オルテンシアを斬り捨てた後、オレカスたちはゼーロンへ活動拠点を移す。イノーニではエルフを連れたパーティーは珍しく、一人減ったことが噂になるのを恐れたからだ。


 ゼーロンにある中央大迷宮は、今まで探索していた迷宮よりレベルが高い。いくら全員が三片(トリプル)だとしても、前衛三人だけのパーティーでは無理がある。これまでの戦い方が身についてしまっている三人は、臨時で赤い精霊を連れたメンバーやエルフ族を入れてみた。


 しかし今までのようにはいかず、誘ったメンバーと口論になったり、キレた相手に逃げられることを何度も繰り返す。おかげでゼーロンの探索ギルドでも、三人の評判はあまり良くない。このまま実績を挙げられないと、降格すらあり得ると焦りが出始めている。



「失礼ですけど、皆さん本当に中級探索者なんですか?」


「腕輪の色がごまかせるわけ無いだろ、なにを言ってるんだ!」



 オレカスが差し出した腕についているのは、ギルドが支給した銀色のリストバンド。しかしエルフの若い男には、三人にそんな実力があるとは到底思えなかった。



「そっちこそ、本当にあと少しで中級に上がれるのか? 魔法の精度も悪くて、俺に何度も当たりかけたぞ」


「そんなのディゲスさんが射線を遮るように、動き回るからじゃないですか」


「前にいた子は一度も失敗しなかったし、もっと大きな魔法を次々使ってたわ。威力だって中級のモンスター程度なら、一撃だったしね」


「もしかして大賢者様でも加入してたんですか? オッゴにいる[賢聖(けんせい)]でも、そこまで出来るかわかりませんよ」



 エルフ族の中でも、特に魔法の優れたものは賢聖と呼ばれる。現在のオッゴには三人の賢聖がおり、後進の育成などで活躍していた。若いエルフの男も、その教えを受けた一人だ。



「ともかく、あなた達のパーティーとはもうこれっきりです。エルフ族を誘うなら、もう少し実力をつけてからにして下さい」



 オッゴの自然迷宮で経験を積んだあと、探索者ランクを一気にあげるためにゼーロンへ拠点を移したばかりの彼は、まだオレカスたちの悪評を知らなかった。全員が三片(トリプル)の中級探索者から誘われ、臨時加入を了承したものの、ランクを偽ってるんじゃないかと疑ったぐらいである。


 猪突猛進に突っ込んでいくオレカス。見た目の可愛いモンスターには喜々として立ち向かうが、それ以外だと適当な投擲で倒そうとするクズミナ。後衛のことはお構い無しに、あちこち動き回るディゲス。連携や統率の取れていない三人を見て、以前所属していたという魔法使いはどんな人だったのだろう、そんなことを考えていた。


 そして迷宮を出たあとに三人と別れ、臨時パーティーから脱退する。



◇◆◇



 オレカス、クズミナ、ディゲスの三人は、迷宮を出たあと酒場でくだを巻いていた。



「くそっ! エルフの男はプライドばかり高くて扱いづらいぜ」


「なんか〝僕たちエリートでーす〟みたいな態度だったよね」


「自分の技術を棚に上げて、俺が邪魔をしてるだとか気に入らん」



 話題にしているのは、臨時パーティーを組んだ探索者のことだ。三人の罵詈雑言はとどまる所を知らず、そんな姿を他の客たちは白い目で見ている。もちろんそんな視線を三人は気にしていない。自分たちは文句を言う権利があると、思っているからだ。


 こうした態度が目立ち始めたのは、中級探索者に昇格してからだった。酒に弱いオルテンシアは飲みに付き合わなかったので、彼らがこんなふうに愚痴っている姿を知らない。もし気づいていたら、もっと早くパーティーを脱退していただろう。



「エルフは男の数が少ないからよぉ、ちやほやされて当然とか思ってやがるんだ」


「なまじ顔がいいもんだから、女を(はべ)らせたハーレムパーティーとか多いよねー」


「確かオルテンシアも、それが嫌で国を出たとか言っていたな」


「あいつは扱いやすかったけどなぁ……」


「あの子の話はやめなよ、お酒がまずくなる」


「ったく、ドジ踏みやがってよぉ。さっさと俺の女にしときゃよかったぜ」



 金に目がくらんで後ろから斬りつけたオレカスだが、オルテンシアの容姿には強く惹かれていた。ゼーロンにはエルフ族も多く、臨時パーティーの勧誘を何度もしたことがある。しかし彼女を超える容姿のエルフ族には、いまだに巡り合っていない。



「しかしどうするオレカス、このままだと下級に逆戻りだぞ」


「エルフを誘おうってゼーロンに来たのは、失敗だったかもね」


「となると一番やりやすそうなのは、アーワイチなんだよなぁ」


「確かにあそこなら、物理攻撃の効かない相手にさえ気をつければ、俺たちでも探索しやすい」


「レベルの低い探索者が多いけど、仕方ないわね。ケットシーやホーン・ラビットを狩りまくってやるわ」



 中級探索者でも上位にいた自分たちが、レベルの低い迷宮に行くのはプライドが許さない。しかし、そんなことを言っている場合ではないと、拠点の移動を決める三人だった。


この章では彼らとの因縁に決着が付きます。

三人の行く末はもちろん……

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