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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第3章 迷宮に出会いを求めてもいいよね

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閑話07 秘密酒場

 地下にある薄暗い酒場で、一人の男が酒をあおっていた。テーブルにグラスを叩きつけた男の顔には、大きな傷跡がある。男の他には客もおらず、カウンターにはグラスを磨くバーテンダーのみ。そんな店内に黒ローブを着た客が現れ、店内をグルっと見回しバーテンダーとなにか話す。二つのグラスを受け取ったあと、奥のテーブルへ歩いていった。



「あらあら、荒れてるわね」


「カレンデュラか、なんの用だ」


「久しぶりにここに戻ってきたと聞いて、挨拶に来ただけよ」



 カレンデュラは男の対面に座ると、赤いワインの入ったグラスを軽く掲げる。



「ラーチとの再会に乾杯ね」


「やめろ、今はそんな気分じゃない」


「つれないわね、ホントに何があったのよ」



 ラーチは残っていた酒を一気に飲み干すと、カレンデュラから差し出されたグラスを奪い取り、今度はチビチビと飲みはじめた。



「今回の実験も失敗だった、ただそれだけだ」


「そんな荒れ方じゃないと思うんだけど?」


「チッ……しつこいやつは嫌われるぞ」


「相手は選んでるから大丈夫よ」



 カレンデュラの言葉を聞いて、ラーチは大きくため息をつく。ラーチの実験は失敗も多く、いまだに(かんば)しい成果を挙げられていない。実験の継続に疑問を抱く幹部も多い中、擁護派の一人がカレンデュラである。



「それで? また〝(おり)〟の実験をするため迷宮にいたんでしょ?」


「この迷宮にいるモンスターは、俺の作る檻と相性がいいからな」


「一度だけ迷宮の外に持ち出すのに成功したのも、ここに生息しているレッド・オーガだったわね」


「運んでいる途中で檻が耐えきず、抜け出した先にあった小さな村で暴れだしたが、あの時以上の成果はまだ出せん」



 カメリアの村を襲ったのは、ラーチの実験中に逃げ出したモンスターだった。迷宮の裂け目が見つからなかった理由は、人為的に外へ持ち出されたからだ。


 レッド・オーガというモンスターは、上級探索者でもソロ討伐が難しい。相打ちという形ではあったが、カメリアの父は相当な実力を持っていたと言えよう。



「小さな村が全滅したことなんて、どうでもいいわ。今度はどんなことをやってたの?」


「今回は一つの檻に、同一種のモンスターを複数閉じ込める実験をしていた」


「それは面白そうね。なにを閉じ込めてみたのよ」


「ロック・バードだ」


「へー、見つけるのって大変だったでしょ」


「アイツラは群れないからな。一体ずつ閉じ込めるのにちょうど良かったんだ。手間など惜しんでられん」



 一旦話を切ったラーチは、グラスに注がれた琥珀色の蒸留酒を口にし、憎々しげに天井を見上げた。



「そしてまた運び出す途中で、檻が耐えられず崩壊したと」


「檻の強度を調べる実験だから、そこまでは想定内だ」


「飛び出したモンスターにでも襲われたの? ロック・バードって物理攻撃が、ほとんど効かないわよね」


「俺がそんなドジを踏むわけ無いだろ」



 自分の顔にできた大きな傷跡を触りながら、ラーチはカレンデュラを睨む。檻の実験を始めた頃、飛び出したモンスターに襲われてできた傷は、ラーチにとって最大の汚点だ。そんなことを繰り返さないよう、対策は十分に練っている。



「一つ聞きたいんだが、アーワイチに大賢者でも来ているのか?」


「さぁ、そんな話は聞いたことないわよ」


「恐らく檻から抜け出したロック・バードを弱らせるためだろう、迷宮内で大規模魔法を発動したバカがいたんだ」


「あなたはそれに巻き込まれたってわけね」


「少し離れた場所で次の実験準備をしてたんだが、通路にあふれかえった大量の水で、かなり押し流されてしまったよ。おかげで貴重な試料や実験道具が、すべて台無しだ。まったく忌々しい!」



 手にしていたグラスをテーブルに叩きつけ、握りつぶさんばかりにギリギリと締め付けた。閉じ込めるモンスターによって、檻の配合を変えないといけないため、ラーチは様々な試料を持ち歩いている。それは自分の足で各国を回って集めた貴重なものだ。それを残らず喪失するショックは、本人にしかわからない。



「それは災難だったわね。それにしても迷宮内に大量の水か……」


「明らかに普通の魔法とは違ったからな。ただ水をばらまくだけなんて奇っ怪な魔法を使えるのは、大賢者くらいしかいないだろ」


「誰がやったにせよ、そんな人材は是非欲しいわ」


「もし見つかったら教えてくれ、死ぬほど後悔させてやる」


「貴重な人材かもしれないんだから、程々にしなさいよ」


「使えるやつなら命までは取らんさ」



 二人にとって、他人は役に立つか立たないか、その二種類だけだ。使える者は利用し尽くし、使えない者は切り捨てる。そう、迷宮内でローズレッド・オークに襲われた兄弟と、吸血族に手を出そうとして不興を買った二人組のように。



「それで、ラーチはしばらくここにいるの?」


「いや、また試料集めの旅に出る」


「なら次に会うときまでに見つかったら、教えてあげるわ」



 二人はその後もしばらく酒を酌み交わし、互いに情報交換をすませてから店を出た。


 大地(だいち)の思いついた新しい魔法は、この世界では異端である。それがカメリアの仇に一矢報いていたなど、本人たちは知る由もない……


 これにて第3章は終了です。

 いつもどおり幕間の資料集を更新した後、第4章の開始となります。


 序盤最大の山場を迎える新章にご期待ください!

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