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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第3章 迷宮に出会いを求めてもいいよね

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閑話06 ユーガイとサンパイン

 薄暗い路地を歩いていた二人組の前に、小さな人影が現れた。黒いドレスを着て金色の目を怪しくきらめかせるのは、大地(だいち)たちと別行動をとっていたアイリスだ。



「なんだ? このガキ」


「いいとこの嬢ちゃんみたいだけど、迷子か?」


「なんなら俺たちが家まで連れてってやるぜ」


「お礼はしっかり貰うけどな」



 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる魔人族の男たちに、目を細めたアイリスが近づいていく。



「たとえ道に迷ったとしても、下等種族の手など借りなくて大丈夫よ」


「「なっ……」」



 アイリスの言葉に激昂しかけた二人だったが、その顔から表情が消え項垂(うなだ)れながら地面に膝をついてしまう。そんな二人に近づいたアイリスは、耳元にそっと唇を寄せる。



「あの子はもう私の血族よ。大切な同胞を苦しめてきた罪、償ってもらうわ」



 二人の耳朶(じだ)に軽く歯を立て、アイリスはその場を去っていった。



「性根が腐ってると少し触れただけでも怖気(おぞけ)がするわね。帰ったらダイチで口直しをしましょう」



 そんな言葉を残したアイリスが路地から消えると、二人の男に表情が戻る。



「あれ? 俺たちこんな所で何やってたんだ?」


「精霊石屋に行く途中だったんじゃないか?」


「あぁ、そうだそうだ。荷物持ちのガキを捨てたから、緑の精霊と契約しないとな」


「そういやさっき見た女、かなりの上玉だったな」


「あんなのと血の繋がりができたら、毎晩かわいがってやるのによぉ」


「どっかにツノの折れたいい女でも落ちてないもんかね」



 ついさっき路地であった事などすっかり忘れ、二人は店を目指して歩き出す。これから始まる悪夢に、まったく気づかないまま……




―――――・―――――・―――――




 ユーガイとサンパインは迷宮の通路を歩いていた。探索者として最低限の生活ができる、迷宮の比較的浅い部分だ。血の繋がりを与えられたカメリアもよく来ていたが、そんな彼女でも致命傷を受けないレベルの場所である。



「アイテムをいちいち拾い集めるのはめんどくせぇな」


「効率は上がったが面倒が増えたな」


「今度は足手まといにならねぇ奴隷がほしいぜ」


「武器や防具の手入れもやらせないと、だいぶ傷んできてやがる」



 カメリアを捨てたことで、それまで押し付けていた雑用を全て自分でするはめになり、二人は愚痴をこぼしながら探索を続けていた。その時、迷宮の壁を突き破り、赤い姿のモンスターが現れる。手には太い金属棒を持ち、盛り上がった筋肉の鎧を身にまとった巨体は、中級探索者パーティーでも歯が立たないレッド・オーガだ。



「やばいぞ、彷徨(さまよ)う者だ」


「最近ついてねえ。あれは迷宮の深部にいるモンスターだ、逃げようぜサンパイン!」



 一目散に逃げ出した二人だが、通路の先にある壁がまた破壊された。そこにも赤い鬼のモンスターが立ち、二人の行く手を阻む。



「はさまれたぞ、どうするユーガイ」


「どうするつったって、使い捨ての盾はもういねぇぞ」


「……突っ込むしか無いな」



 二人は武器と防具を構え、前方に現れたレッド・オーガへ向かって走る。金属の棒が上から振り下ろされ、二人はそれを避けるように左右へ飛ぶ。しかしタイミングが遅れたサンパインの真横を黒い塊が通り過ぎ、迷宮の通路に硬質な音が響き渡った。



「うぎゃぁぁぁぁー、ツノが、オレのツノがァァァ」


「サンパイン!!」



 レッド・オーガの太い金属棒がサンパインのツノに当たり、根本からポッキリと折ってしまう。地面をのたうち回るサンパインにユーガイは近づくが、後ろから追いかけていたレッド・オーガの攻撃を食らった。



「ガハッ!!」



 地面に叩きつけられたユーガイの横には、半分の長さになった黒いツノが落ちている。



「……ぅ………ぁ、ユーガイ……お前もツノ、が」


「うぎやぁぁァァァーーーッ!! 死ぬ、死んじまう、ツノ、誰か、繋がり、助け……」



◇◆◇



 ――ガバッ!!




「「はぁっ、はぁっ……」」



 夜中に飛び起きた二人は、荒い息を吐きながらベッドの上で上半身を起こす。全身汗まみれになり、シーツもぐっしょり濡れている。



「……夢、だったのか?」


「ツノが折られちまったと思ったぜ」


「ユーガイもツノを折られる夢を見たのか」


「サンパインもか?」



 二人は薄暗い部屋で顔を見合わせ、お互いの夢について語り合う。そんな時、部屋の隅に淡く光る人影が現れた。身長が百五十セル(150cm)ほどの小さな子供で、赤いボサボサの髪をして片方の角が折れている。



「おっ、お前!? 死んだんじゃなかったのか?」


「どうやってここに入ってきやがった」



 小さな人影は何も言わずに二人に近づくと、両腕を前に突き出す。

 その両手には、それぞれ黒いツノが握られていた。



「まっ、まさかそのツノ……」


「……おっ、おいサンパイン。お前のツノ、折れてやがるぞ」


「なっ……ユーガイ、お前もツノが」


「かっ、返せ。それをオレに返しやがれ!」


「なんのつもりだ、このクソガキがっ!!」



 二人はベッドから飛び出すと、小さな人影に向かって走り出す。しかし、いくら走っても追いつけない。あとちょっと、目の前に自分たちのツノがあるのに、いくら手を伸ばしても届かないのだ。二人の動きはどんどん鈍くなり、やがて立つことすらできなくなる。



「はぁはぁっ、どうなってやがる」


「このままじゃ、オレたち死んじまう」


「こんな所で、死にたくねぇ」


「ツノが白くなって、ちから、が……」


「サンパ、イン……」


「ユーガ……イ」



◇◆◇



「オラァ、いつまで寝てやがる、さっさと起きて働かないか」



 ――ドカァッ!!



「いってぇな、何しやがる」


「オレを誰だと思ってるんだ」



 ユーガイとサンパインが目を覚ますと、硬い石床の狭い部屋だった。薄い毛布一枚で冷たい床に寝ていたため、凝り固まった全身が悲鳴を上げる。



「ごちゃごちゃ文句ぬかしてる暇があったら、とっとと餌を食って仕事場にいけ!」



 太った魔人族の男が二人に投げつけたのは、固くなってカビの生えたパンと、()えた臭いのする水袋だ。



「はぁ? こんなもん食えるわけねぇだろ。家畜じゃねぇんだぞ」


「だいたいお前は誰だ? オレたちをこんな所に連れてきやがって」


「あぁーん? なんだ、覚えてないのか?」



 めんどくさそうな顔をした男が(ふところ)から鏡を取り出すと、ユーガイとサンパインの前に掲げた。そこには、あるはずのものが映っていない。



「うっ、うそだろ……オレのツノが」


「オレたちはアーワイチの宿屋で眠ってたはず。それなのになんでツノが折れてるんだよ」


「おい、一体どういうことだ、説明しやがれ」


「何の権利があってこんなことしやがった」


「偉そうな口をきくな、どうしてそんなことを説明しなきゃならん。お前らは俺様のおかげで生きていられる、それが現実だ。俺様と繋がってるんだから、好きに使う権利があるのは当然だろ。俺様の所有物なんだからな」


「勝手に血の繋がりを作りやがって、オレはそんなこと頼んでねぇ」


「寝てるスキに繋がるとかありえないだろ!」


「お前たちにそれを言う権利はないな。死ぬまでこき使ってやるから、諦めて俺様の奴隷として精一杯尽くせ」



 太った魔人族の男は、そう言い残して部屋を出ていってしまう。繋がりの強制力が働き、男の言葉に逆らえないユーガイとサンパインは、力なく床に座り込む。



「ち、ちくしょう! なんでこんな事になったんだ」


「これは夢だ、夢に違いない……」




―――――・―――――・―――――




 二人の心が絶望に囚われた時、また宿屋のベッドで目を覚ました。






 ――しかし、彼らの悪夢は永遠に終わらない。


 次回の閑話はカメリアを襲ったロック・バードが、どうしてあんな場所に群れをなしていたのか。その舞台裏です。

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