第9話 見られても平気だよ?
体が成長したことで髪もかなり伸びてしまったので、今はポニーテールにしている。少し癖のある髪が歩くたびにフワフワ揺れて、かなり可愛い。一度でいいから、シアも同じ髪型にしてくれないかな。
「ボクのお父さんとお母さんは、中級探索者だったの。だから子供の頃から、ずっと探索者に憧れてたんだ」
「魔人族で剣士と魔法使いというのは珍しいと思うが、ロック・バードを倒せるくらいだから相当な腕前だったのだろう」
「今でも自慢の両親なんだよ」
住んでいた村がモンスターに襲われ、唯一生き残ったのがカメリアだった。気を失う直前の光景や、血の契約をしていた二人組の魔人族から聞いた話だと、母親がカメリアを庇い父親はモンスターと戦って命を落としている。そんな過去を背負った子に優しくできなかったなんて、あの二人組って最低だ。
「それでカメリアは現場にいた、顔の左側に大きな傷のある男を探したいってわけね」
「迷宮の裂け目も見つかってないって聞いたから、きっとあの人がなにかやったんだと思う。必ず見つけ出して罪を償わせる。お父さんやお母さん、それに村にいたみんなの仇を取りたいんだ」
その思いだけでつらい境遇に耐えてきたんだから、石にかじりついてでもやり遂げたいんだろう。話を聞く限り、村全体が一つの家族みたいに仲良しで、のどかな場所だったみたいだ。そこを突然襲った悲劇に関わっているのなら、許せないのは当然だよね。
もしスズランやシアたちが誰かに害されたりしたら、僕だって絶対に冷静ではいられない。君が泣くまで殴るのをやめないってくらい、怒る自信がある。
「カメリアのやりたいことなら、僕たちもできるだけ協力するよ」
「すごく個人的なことだけどいいの?」
「僕たちにはそれぞれ別の望みがあって、力を合わせて叶えていこうって目的で、一緒に活動してる感じだしね」
僕の望みは記憶をすべて取り戻し、元の世界へ帰ること。シアは呪いを完全に解いて、元のエルフに戻る。アイリスは生き残った吸血族を集め、安心して暮らせる場所を作りたい。それにカメリアの望みが加わるだけだ。
「スキルが三つも発現したんだし、ボクもいっぱい頑張るから!」
「サクラちゃんとカメリア様のスキルが合わされば、大きな力になると思いますよ」
「立派に前衛を務めてみせるから、任せてよ!」
「いくら怪我しにくくなったからって、無茶はダメだよ?」
「は~い」
今までも荷物持ちと前衛をやらされてたみたいだけど、女の子に任せっきりじゃ男がすたる。僕ももっと戦えるようにならないと。経験や技術もそうだし、スズランと仲良くするのも忘れちゃダメだ。ここのところ一気に精霊が増えちゃったから、育成が全然追いついてない。カメリアの戦闘スタイルに合わせて、スキルの振り方も考えないとな。
それに服や防具をしっかり揃えて、安全確保にも努めよう。色々入り用だけど、昨日倒したロック・バードのコモンドロップ〝透き通った羽根〟は、ギルドで買い取ってもらえるらしい。高級なガラス素材になるので、結構いい値段で売れるみたいだ。
カメリアが今まで身につけてたのは、防具と呼べるようなものじゃなかった。収支は十分黒字になるはずだから、ちゃんとしたものを揃えないと。安全快適に迷宮探索、これが僕たちパーティーのスローガン。大事なことなので何度でも言いたい。
◇◆◇
まずは服を買いに行き、女性たちだけで下着を見に行った。サイズはギリギリだったものの、量産品で揃えられたみたい。シアの目がちょっと虚ろになってるけど、大丈夫かな。
服はショートパンツと半袖シャツを中心に揃えている。途中で僕に披露してくれたけど、生足がまぶしかったです、はい。
さすがにその格好だと見てるほうが寒いので、上はジャケットを羽織って、足にはオーバーニーソックスを履いてもらう。絶対領域っていいよね!
「もう少し暖かい格好をしたほうが、いいんじゃないかしら?」
「今まで年中薄いシャツとズボンだったから、これでも暑いくらいなんだけど……」
「近くにダイチがいるのだ、はしたない格好をするのは良くない」
「ダイチとは深く繋がってるんだし、見られても平気だよ?」
「ふ、ふか……そんなことを往来で口にしたらダメだ! 女性としての慎みが足りないぞ」
ずっと中性的な格好をしてたせいで、意識が追いついてないんだろうな。今もジャケットの上ボタンを留めてないから、大きく盛り上がってる部分が嫌でも目立つ。スズランと並んで歩いてたら、すれ違う人がよそ見して看板に突っ込んでたよ。
「自分が他の人にどう見られてるのか、少しずつ慣れていったらいいと思うよ。なにせ急に大きくなっちゃったから、わからないことだらけだろうしね」
「新しい体にも慣れていかないとダメだし、ボク頑張るよ!」
「私は飛べますからバランスを取りやすいですけど、カメリア様はどうですか?」
「う~ん、体を大きく動かしたときはまだ違和感があるけど、下着をつけてから随分マシになったかな」
「……クッ」
あー、地雷って色々な所に埋まってますね。街で見かけた他のエルフもスレンダーだったし、そういう種族だと思うんだけどな。拗ねてる顔もかわいいし、フード越しになるけど頭をなでてみよう。
「ダイチとシアって、すごく仲いいよね」
「そういえば私にダイチを捕られると思って、いきなり魔法を仕掛けてきたわね」
「あっ、あれは仕方ないだろ! そもそもダイチは浅はかすぎるんだ、もっとよく考えて行動すればあんなことには……」
「シアには心配ばかりかけて、ごめんね」
「いや、わかればいいんだ、わかれば。正直、ダイチはよくやってると思う。私たちはみんな、ダイチに救われたようなものだしな」
シアは恥ずかしそうに顔を伏せてるし、改めてそんなこと言われると僕も照れちゃうよ。だからアイリスもカメリアも、そんな生暖かい目で見ないで! なんかスズランもすごくいい笑顔だね!
「荷物持ちもいなくなったし、新しい精霊と契約すっかな」
「あいつ自体が荷物だったからな」
「まったくだ。そこの女ぐらい成長してりゃ、他にも使い道はあったのによ」
「あんなひ弱そうなやつより、俺たちのほうがイイ思いさせてやれるぜ」
「ちげぇねぇ」
路地から出てきた二人組の魔人族が、すれ違いざまカメリアへいやらしい視線を向ける。成長した姿なので全く気づいてないけど、迷宮でカメリアを捨てた例の二人だ。
「まったく、品性のかけらもない連中だな」
「大丈夫?」
「うん、みんながいてくれるから平気」
カメリアは僕の腕にしがみついてきたけど、ちょっと震えてる。すこしでも落ち着けるように、頭をなでてあげよう。
「あんな連中のことは早く忘れなさい。それより防具を買いに行くのでしょ? 私は少し向こうの店を見てるから、あとで迎えに来ること。いいわね」
「そうだね、確かにアイリスの言うとおりだよ。生まれ変わったくらいの気持ちで、嫌な思い出は切り捨てちゃっていいと思う」
「マスターとの絆で生まれた子や、私たちもついてます。何も怖がることはありません」
「すでに奇跡のようなことが起こってるのだ、これからは明るい未来が待ってるさ」
「ありがとうみんな。ボク幸せだよ」
「それじゃあ、あとで迎えに行くね、アイリス」
僕たちは二手に分かれ、買い物を続けることにした。昨日へこんでしまったバックラーも修理しないといけないし、僕も新しい防具とか探してみようかな。
次回で第3章が終了です。
明日投稿予定の「伝説の装備」をお楽しみに!
そのあと閑話を2話挟んで、幕間の資料集を投稿後、第4章へ進みます。




