第4話 そんなの初耳だよ
石の柱を力いっぱい殴り、手を骨折してしまった人は、建物の奥へ連れて行かれた。なにかストレスの溜まるようなことがあって、朝からお酒を飲んでたのかもしれないけど、誰かに絡むのはやめて欲しいよ、まったく。
「きみ、怪我はないか?」
「はい、少しヒリヒリしますけど、どこか痛めてたりはしませんよ」
探索ギルドの職員だと名乗った魔人族の男性は、僕の方へ心配そうな視線を向けてくる。力の強い種族ならまだしも、相手は普通の人族だったし、あれくらいならサクラのスキルでほぼ無効化出来るから大丈夫です。頭をマジマジと見たって、ツノなんか生えてませんからね。
「何度か殴られていたようだけど、きみは人族だろ? 本当に大丈夫なのか」
「田舎で鍛えてたので、これくらいへっちゃらです。それより、相手に怪我をさせてしまいましたけど、過剰防衛で罰則があったりします?」
「あ、あぁ、武器を抜いたり魔法を使ったなら問題になるが、見たところきみはただ避けてただけだからね。それで何か言われることはないよ」
よかったー。こっちは被害者だけど、喧嘩両成敗みたいにペナルティーがあったら、どうしようかと思ったよ。今にして思い返せば、ちょっと相手を煽っちゃった部分もある。あんまり僕のことをバカにするから、抑えが効かなかったんだ。いわゆる〝ついカッとなってやった〟ってやつ。
逆にさっきの人は今までも色々トラブルを起こしてたらしく、今回ばかりは懲罰が与えられるだろうとのこと。この機会に、お酒を控えてくれればいいんだけど……
「とんだ災難だったな、ダイチ」
「シアやみんなに被害が出なくてよかったよ」
「まったく。私の下僕に手を上げるなんて、無礼極まりないわね。永久に外を歩けなくしてあげようかしら」
「いやいや、あれくらいどうってことないから、そこまでするのはやめてあげて」
探索者は気性の荒い人も多いし、あの手のトラブルって割とあるんだと思う。だって野次馬で集まってた人も途中まで止めようとしなかったし、職員の人もテキパキ対処してたから。
「それより、ありがとうスズラン。サクラを呼び出して、スキルを発動してくれたんだよね」
「はい、シア様が飛び出そうとされていましたので、それをお止めしてサクラちゃんに手伝ってもらいました」
よく見るとシアが着てるローブの隙間から、サクラがこっちに小さく手を振ってる。おかげで怪我をしないですんだし、あとでいっぱい褒めてあげよう。
「心配かけてごめんね、シア」
「ダイチはああいう荒事に、慣れてないと思ったからな。だが、なかなかいい対応だったと思う」
「確かに床をのたうち回る姿は滑稽だったわね」
手加減なしに石の柱を殴ったんだから、相当痛かったと思うけど、あれはちょっと情けなかったよな。モンスターの攻撃を受けたとき、あんなスキを晒してたらいい的なのに、よく今まで探索者を続けられたと思う。
「冷静に対処できたのはスズランのおかげだし、僕の安全第一で動いてくれて助かった。本当にありがとう」
「私の存在意義はマスターに尽くすことですので」
相手に威圧されなかったり、殴られそうになっても逃げ出そうと思わなかったのは、スズランの持ってるスキルがあったからだろう。それに僕の考えを汲んでサクラを呼び出してくれるはず、そう確信してた。
きっとこれが僕とスズランの絆なんだ、嬉しそうに微笑む彼女の頭をなでながら、こちらに突き刺さってくる視線に耐え続ける。なんか周りのみんなにガン見されてるよ! 三人ともモデルやアイドルみたいな容姿だから、注目されるのは仕方ないんだけど……
さっき平然とパンチを受け止めた身体能力を警戒してるのか、誰も近づいてこようとしないのが助かった。さっさとアイリスの探索者登録をして、この場を離れよう。
◇◆◇
探索者登録に年齢制限とかあるのかと思ったけど、アイリスの登録はあっさり受理された。やっぱり五片のスキル持ちは、それだけ期待されてるってことなのかも。なにせ暮らしを支えるエネルギー生産者になろうとしているんだし、断る理由はないもんな。
僕は無片だったから止められそうになったけど……
「職員たちがダイチを見る目も、だいぶ変わっていたな」
「どんな鍛錬をしたとか聞かれても答えようがないから、ちょっと困るよ」
「今のサクラちゃんが埋めている星の数でも、青い上級精霊のスキルを越えてますから、マスターが特別な力をお持ちだと思っているのですね」
いまサクラの【強堅】は、星三つ埋まった状態だ。青の精霊が持つ物理耐性より上位のスキルだから、星四つ埋めた上級精霊をすでに越えてしまってる。だから探索ギルドで、【堅牢】や【硬化】の種族スキルがある魔人族じゃないかと疑われても仕方がない。
見た目や髪の色で僕が人族なのは一目瞭然なはずだけど、声をかけてくれたギルド職員も最後まで不思議そうな顔をしてた。
「何かの伏在スキルを持ってると、思われてるかもしれないわよ?」
「えっ!? そんなスキルもあるの?」
「左手に浮かび上がる印は種族固有のスキルなのだが、それ以外にも特殊スキルが存在すると言われている。それがアイリスの言った伏在スキルだ」
「それって、どうすればわかるの?」
「迷宮で見つかったアイテムに、伏在スキルを調べられるものがあったという記録がある。残念ながら実物が残っていないので、今はスキルの存在自体に懐疑的な目を向ける者も多いな」
どうやら、ただの特技や才能で片付けられることが普通みたい。僕がこうして異世界で読み書きに不自由してないんだから、そんなスキルがありそうな気もする。なんたって【翻訳】や【言語理解】みたいなスキルは、ある意味定番なんだし。
「それでしたらラムネちゃんの【解析】を上げれば、わかるようになるかもしれませんよ」
「ホントなの、スズラン」
「ラムネちゃんのスキルは、モンスターの持つ特殊な能力も見抜けるようになるはずです。それを人に対して行使すれば、読み取れる可能性があります」
「黙って知らない人に使うのはダメだけど、自分たちのスキルを調べるのなら問題ないよね」
なんか隠れた才能とか、秘められた力ってロマンがある。ピンチになったら覚醒するなんて、そんなご都合主義的な力じゃなくてもいいから、何か持ってたら嬉しいな。
サクラやラムネの持つスキルは全部特殊すぎて、どれから上げていこうか迷う。平均的に上げていくより、状況に応じて必要なものに特化させるほうが、いいかもしれない。時間をかければ全部上げられるけど、今は取捨選択をしっかり考えながらやろう。
「精霊たちのスキルは、気長に上げていくしかあるまい。とりあえずは、これからどうするかだな」
「それなら迷宮に行ってみたいわ。私はまだ一度も行ったことがないのよ」
「三人の連携も練習しないとダメだし、行ってみようか」
アイリスの持っている【支配】がモンスターにも有効なのかとか、【操影】のスキルでどんな事ができるのか、知りたいことはたくさんある。人数が増えれば戦略の幅が広がるし、安全性だって高くなるはず。それになんといっても疲れたりお腹が空たときは、その場で家へ帰ることが出来るんだ。
これはどんな探索者も持ってない、僕たちだけのアドバンテージ。そうした攻略法も視野に入れながら、活動の幅を広げていかないと。今日のトラブルで実感できたサクラのスキルも検証しつつ、迷宮探索を頑張ろう。願いが叶う宝物も、ちゃんと探したいしね。
伏在スキルという新たな設定登場!
かなり先の話になりますが、いずれ判明しますのでお楽しみに。
次回は迷宮の勉強と、イベントの発生。




