第1話 ごめん、待った? いま来たところよ
アイリスと一旦別れてからは、仲介ギルドの依頼をこなしつつ、迷宮にも足を運んでみた。あの時のことがトラウマになって、入ろうとしたら動悸や目眩がして足がすくむ……なんてこともなく、スライムやゴブリンに遭遇しても平静を保てている。
これはスズランが支えてくれてるのと、シアが近くにいてくれてるおかげだと思う。もちろんサクラとラムネ、そしてリョクの存在も大きい。僕はいろいろな人に支えられてるから、知らない世界で暮らしていけてるんだ。最近は特にそれを実感していた。
「待ち合わせ場所はこの辺りのはずなんだけど、どこにいるのかな」
アイリスとは街の中心から少し離れた場所にある、自然公園みたいな場所で待ち合わせしている。遊歩道になる細い道のついた、小さな林みたいな区画だけど、人が少なくて木陰も多い。影を操るアイリスには、ピッタリの場所かもしれない。
「マスター、あの木の向こうにいるのが、アイリス様ではないでしょうか」
「あっ、ほんとだ。黒いスカートがちょっと見えてるよ」
少し離れた木の隙間から、見覚えのあるゴスロリドレスが覗いていた。向こうからは死角になってるから、まだ僕たちには気づいてないみたいだ。急に声をかけて驚かせたら悪いし、近くまで行って話しかけよう。
「ここから出入りできるなら人目にもつきにくいし、繁華街にも比較的近くていいな」
「アイリスは僕たちより、この街に詳しいかもしれないね」
ここは普通に暮らしてたら、ついつい見落としそうな場所だ。いわゆる〝穴場スポット〟ってやつだろうか。依頼で近くに何度か来たことのある僕も、案内板を見るまで知らなかったし。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いま来たところだから問題ないわ。それより力を使いすぎてしまったから、少し吸わせなさい」
待ち合わせの定番セリフが聞けて密かに喜んだ直後、無慈悲な言葉がかけられた。家についてからじゃダメか粘ってみたけど、力が足りなくて影転移できないとか言われたら、こちらが折れるしか無い。アイリスの顔は疲れてるどころか、すごい笑顔だったけど!
色々頑張ってくれたんだろうし、おとなしく献血しとこう……
◇◆◇
腰が抜けてしまった前回の失敗を活かしたらしく、今日は程々に吸ってくれた。それでもちょっと目が潤んで、恍惚とした表情だったけどね。あんまりそんな顔してるとシアの機嫌が下り坂になるから、程々でお願いします。
「まずは新しい使い魔を紹介するわ。みんな出てきなさい」
アイリスの呼びかけで玄関の扉を開けて最初に出てきたのは、以前もこの屋敷で見たことのある背の高い女性。きれいなストレートの黒髪をしていて、長さは背中の真ん中くらいまである。見た目も二十代前半くらいだし、なんか仕事のできる社長秘書ってイメージかな。
二人目は少し背が低くく、こちらも黒髪の女性。全体にゆるいウェーブのかかったセミロングで、顔の半分が髪で隠れている。歳はスズランと同じくらいに見えるけど、ちょっと影がある感じの大人しそうな容姿だ。
最後の一人はやや幼い感じがする、お下げ髪の女の子。よくお風呂に乱入されるアニメキャラと、髪型が似てるかも。髪の色は同じく真っ黒で、元気な高校生って感じ。
全員が紺色をした長袖ロングスカートのワンピースを着て、その上から白いエプロンを装着してる。横一列に並んでお辞儀をしてくれたけど、やっぱり使い魔なので喋れないみたい。
「洗濯は背の高い者に任せればいいわ、真ん中の使い魔は料理が得意よ、背の低い子は掃除が上手ね」
「僕の名前は大地、三人とも仲良くしようね」
「私はオルテンシアという。今はこのような姿になっているが、距離を置かずに接してもらえると嬉しい。これからよろしく頼む」
「私はダイチ様の愛護精霊、スズランと申します。こちらの子がサクラちゃんで、こっちがラムネちゃん、緑の精霊はシア様と契約しているリョクちゃんです。ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
なんかスズランのセリフって、嫁入りしてきた人みたい。純白のウエディングドレスとか絶対に似合う。すごく清楚な花嫁って感じがして素敵だろうな。
「三人ともあなた達の命令を聞くようにしてるけど、あまり変なことをやらせてはダメよ?」
「わっ、わいせつ行為は絶対に禁止だぞ!」
「そんなことしないよ!?」
いくらなんでも人の使い魔に手を出したりしないからね。シアは僕のことを、一体どんな目で見てるんだよ。そりゃあ寝ている間に、精霊の子供が増えたりするけどさ。
「無茶な命令をしないようにという意味だったのだけど、何をそんなに赤くなってるのかしら」
「……うぐっ」
あっ、シアが盛大に自爆した。
三人とも無表情だけど全員きれいな女の子だし、男が僕一人だけだから心配なのはちょっとわかる。だけど、僕にだって自制心くらいはある。
この家でも一緒のベッドで寝るわけにはいかないだろうし、まずはシアの信頼を得ることからはじめないとダメかも……
「何かの見間違いかと思って黙ってたのだけど、前にはいなかった精霊が増えているわね」
「えっと、アイリスの力がスズランにも影響してるみたいで、新しい精霊が生まれたんだよ」
「あら、さすが純血で最高の力を持ってる私ね。そんなことが出来るなんて、素晴らしいわ」
ラムネが生まれたのは、僕とアイリスに繋がりができたから。それは僕とスズランが、アイリスから繋がりの力をもらったってこと。つまりラムネは、アイリスの力で生まれたと考えていい。うん、我ながら完璧な三段論法だ。
一緒に暮らし始めるんだから、いずれ本当のことは話そうと思ってる。だけど、もっとアイリスと仲良くなれるまで、彼女が僕の眷属みたいな形になっちゃったことは黙ってよう。
「そろそろ中に入らせてもらってもいいかな」
「そうね、使い魔に案内させるから、まずは自分の部屋を選んできなさい」
「そういえばこの三人って、名前はないの?」
さっき紹介してくれたときも背の高さで呼んでたし、何かお願いする時にすごく不便だと思う。喋れないから返事はしてくれないだろうけど、ちゃんと名前で呼んであげたい。
「使い魔に名前なんて必要ないじゃない。適当に一号・二号・三号でもいいわよ」
「そんなの可哀想だから、名前くらいつけてあげようよ」
特撮映画に出てくるバイクに乗った人や、客車の番号じゃなんだからさ。使い魔といえども女の子だし、せめて可愛くアレンジしてあげた方がいいと思う。
「まったく、異世界人の価値観は面倒ね。それなら下僕のダイチが考えなさい」
「マスターにお任せすれば、きっと素敵な名前をつけていただけるはずです」
「精霊たちのように、異世界風の名前が良いかもしれないな」
うわっ、なんか僕の方に飛び火してしまった。自分で言いだしたことだけど、流れ弾に当たった気分だよ。急に言われても思いつかないし、とりあえず数字のアレンジで考えてみよう……
「えっと、背の高い子が一花、真ん中の子が二菜、背の低い子が三葉でどうかな」
数字を植物に絡めてみたけど、安直すぎやしないかちょっと不安だ。そう思いながら三人の方を見ると、風もないのに服や髪の毛がはためき出した。
「えっ、どうしたのよこれ。一体なにをしたの?」
「アイリスの使い魔なんでしょ、そんなの僕にはわからないよ」
三人の周りにだけ、下から巻き上がるような風が吹いている。どんどん風速が上がってるけど、このままだとスカートが持ち上がって危ない。
目の前の光景を唖然と見つめながら、現実逃避するような心配をしていると、三人の体が光りに包まれた――
早速やらかす主人公(笑)
◇◆◇
新しいパソコンを導入して、執筆環境をそちらへ移行中です。作業中もストック分で投稿をしていたのですが、さすがに在庫が尽きてきました。この先は原稿の完成状況次第で投稿することになります。
しばらく不定期更新になりますが、ご了承くださいませ。
◇◆◇
(2021/04/08)
・47行目と49行目にある、外見年齢に関する記述を変更しました。
【変更前】
見た目も二十代くらいだし、なんか仕事のできる社長秘書ってイメージかな。
二人目は少し背の低い女性で、同じく黒髪だ。全体にゆるいウェーブのかかったセミロングで、顔の半分が髪で隠れている。ちょっと影があるような感じの大人しそうな見た目で、歳は十八歳前後ってところだろうか。
↓↓↓
【変更後】
見た目も二十代前半くらいだし、なんか仕事のできる社長秘書ってイメージかな。
二人目は少し背が低くく、こちらも黒髪の女性。全体にゆるいウェーブのかかったセミロングで、顔の半分が髪で隠れている。歳はスズランと同じくらいに見えるけど、ちょっと影がある感じの大人しそうな容姿だ。




