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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第2章 スキルがいい仕事をしてくれました

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第9話 吸血族の力を見るがいいわ

 僕の血を吸ったことで深い繋がりができてしまったこと、気づかれてなければいいなとアイリスを見たら、自分の左手を見てニコニコとしていた。やっぱりスキルが増えるって、種族を問わずすごく喜ぶみたい。シアが四片(クアッド)になったときも、僕に何度も撫でさせてくれるくらい喜んでたな。



「始祖様以外持つことができないと言われた【飛翔】のスキルを手に入れた私は、純血の頂点に立ったと言ってもいいわ。素晴らしい、これは素晴らしいことよ!」


「それって空を飛べるんだよね?」


「そうよ、見てなさい」



 そう言ったアイリスは、座った姿勢のまま椅子から離れていく。あんまり高度を上げると中が見えるからやめて。ドロワーズみたいなものを履いてたらいいんだけど、細い足がバッチリ見えてるし!



「お仲間ですね、アイリス様」


「あら、あなたも飛べるなんて、さすが精霊ね。地べたを這いずり回る種族とは大違いだわ」


「アイリスもさっきまで飛べなかっただろう……」



 チラッと意味ありげに見られたシアが、小声で悪態をついてる。そっと頭に手を置いてみたけど、嫌がらずに受け入れてくれた。今日は普段見られないシアの姿を、色々知ることができて嬉しい。


 ともかく今のアイリスは新しいスキルを得たことで上機嫌になり、僕と繋がりを持ったことなんて気にしてないみたいだ。今のうちに書類を記入してもらい、さっさと退散しよう。



「気に入ったわダイチ、あなた私の下僕(げぼく)になりなさい。そして私に血を提供するのよ」


「眷属は作らないんじゃなかったのか!」


「眷属にしてしまったら、血を吸えなくなるじゃない。私はこれでも慈悲深いのよ、そんな勿体ないことはしないわ。だから下僕よ、素晴らしいでしょ?」


「それって慈悲深いって言うのかなぁ……」



 結局、僕のことは食べ物扱いじゃないか。栄養ドリンクみたいにチューチュー吸われるのは嫌すぎる。あれ、飲み過ぎは体に毒なんだからね。



「あなたにもメリットがあるわ。この家で暮らしていけば、家事を使い魔に任せてしまえるから楽よ」


「シアやスズランたちも一緒でいいの?」


「あなたが手に入るのなら、付き人の一人や二人、問題ないわ」


「私はダイチの付き人ではない、対等のパートナーだ!」


「私とサクラちゃんはマスターに仕える精霊ですから、どんな扱いでも構いませんよ」



 確かに持ち家に住めるのはすごく助かるな。宿代って結構ばかにならない出費だし、毎日の洗濯とかも時間がかかる。それにスズランやサクラだって、ここなら出入りのときに隠れなくてすむ。



「私のようなダークエルフを住まわせてもいいのか?」


「胸が(わび)しいと心まで小さくなるのかしら。そんな些末なことが問題になるなら、最初から言ったりしないわ。例え[転化(てんか)]が望まぬものだったとしても、たかだか肌や髪の色が違う程度で、卑屈になるのはおやめなさい」


「むっ、胸のことはともかく、そう言ってもらえると気が楽になる」


「ここに住んでらっしゃるのは、アイリス様と使い魔のお二人だけとおっしゃってましたが、ベッドや家具などに予備はあるのでしょうか?」


「それくらいすぐ揃えられるから、心配しなくてもいいわよ。衣食住の保証は主人の(つと)めだもの。そうそう、お風呂もあるから自由に使っていいわ。私に血を吸われるのだから、いつも清潔でいなさい」


「お風呂あるの!?」



 お風呂と聞いたら日本人の血が騒いでしまう。この世界はかなり暮らしやすいけど、日本食とお風呂がないのは不満だった。その一つが解消されるなら、血を吸われるくらい構わないかも!



「マスターが以前話してくれた、混浴というのをしましょうね」


「えっ!? 大きくなる前の姿だったらまだしも、今のスズランと混浴は無理だよ!? お願いだから勘弁して……」


「二人で入れるほど広いお風呂じゃないわよ」



 よ、良かったー。でも「お背中お流しします」とか言いながら、風呂場に乱入されたらどうしよう。あの笑顔は絶対に何かやらかす気に見える。



破廉恥(はれんち)な行為は絶対に禁止だからな! 私が全力で止める」


「シア様も遠慮なさらず、マスターと混浴してもいいんですよ」


「ぜっ、絶対そんなふしだらな事はしない!」


「お風呂は狭いと言ってるのに、人の話を聞かない付き人たちね」



 ちょっとアイリスが呆れちゃってるよ。

 シアってそのあたりすごく厳しいから、エッチな話には過剰反応してしまう。そういえば、ちょっと委員長タイプのキャラに似てるかも。メガネはかけてないし、おでこも広くないけど。



「僕たちはこの国に定住する気はないんだけど、その時はどうするの?」


「二人とも探索者の腕輪(ブレスレット)をつけているし、それくらいわかっているわ。どこかに行くなら、もちろんついていくわよ」


「この屋敷はどうする。各国に家を持っているわけではないだろ?」


「今の私に、そんな心配は無用よ。見せてあげるからついてらっしゃい」



 五人で外に出て敷地の端まで行くと、アイリスが太陽を背にして家の方を向く。



 〈収影(しゅうえい)



 そう言葉を発した直後、アイリスの影が伸びていった。やがてそれが家全体に広がり、黒い影が消え去ったあとには更地が残ってるだけだ。もしかして、家ごと影に取り込んじゃったの!?



「中に使用人の女性が残ってたけど大丈夫?」


「あれは私の使い魔だもの、問題ないわ。どうなったか教えてあげるから、そこにある木の影に集まりなさい」



 〈転影(てんえい)



 一瞬だけ目の前が黒くなると、次の瞬間にはそれまでの場所と全く違う風景が、目の前に広がっていた。さっきまでより庭は半分くらいになったけど、木に囲まれた敷地の中に同じ家が建っている。



「吸血族のスキルはあまり資料に残っていなかったが、これは一体……」


「どう、驚いたかしら。ここは私が作り出した影の中。そこに屋敷のあった空間を重ね合わせているの。外の世界と全く同じだから、安心して生活できるわよ」



 周りの風景は擬似的なものだけど、家のある空間は外とつながってるらしい。試しに林の近くまで行ってみたけど、見えない壁があって先へは進めなかった。この壁は、いわゆる書き割りって感じなのかも。木の葉が風で揺らいでたりして、すごくリアルだけど。


 そして特筆すべきことに、ここへは影さえあれば来ることが可能。出る時は元の場所になるから、例え迷宮の中にいても、壁や障害物の影から転移すれば、安全に寝泊まりできるってこと。


 この力を利用して討伐を逃れた吸血族もいて、アイリスもその一人なんだとか。ただこの空間を維持するには大きな力が必要なので、それが尽きた瞬間に見つかってしまう同族も大勢いた。しかし僕の血を定期的に摂取できるなら、このまま維持し続けることも可能なんだそう。



「こんな所に住めるなんて嬉しいし、そういうことなら僕も協力するよ。シアやスズランも構わない?」


「確かにこの場所があれば、迷宮探索でも力になってくれる。それにどんな国や場所でも、宿泊施設の心配をしなくてすむのは助かる。正直、私を受け入れてくれる宿がどれほどあるか、未知数だしな」


「私やサクラちゃんも気兼ねなく過ごせますから、とてもありがたいです」


「なら決まりね。引っ越しは十日ほど待ちなさい、それまでにあなた達が住めるよう整えてあげるから」



 家具や日用品の運搬を申し出てみたけど、影を使って運べるので無用と言われた。そして元の場所は完全に更地になったから、家や住人は存在しなかったということにした。国の職員が再調査に来たら、その報告が正しいと証明してもらえるはず。これまでも書類をなくしたり、誰かに会ったことを覚えてない、不思議なことがあった場所だしね。


 こうして、今回の調査依頼は終わりとなった。




―――――・―――――・―――――




 そしてアイリスと出会ってから一夜明けた朝、水色の精霊が僕とスズランの間で眠っていた――


 「どこでもハウスー」(CV.青い猫型ロボット)


 次回は閑話が一つ入ります。

 ここで話の流れをぶった切るのはアレかもしれませんが、アイリス側の思惑や内情の話ですので、このタイミングで挟もうかと。

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