里帰り編:第1話 オッゴの空に
家族の入院とか、生活環境の激変で、半年ほどご無沙汰してました。
不定期で連載している番外編も、いよいよ最終話へ向けて動き出します。
すべての原稿は完成してますので、間を置かずに投稿を行えます。
まずは里帰り編をお送りいたしますので、ぜひお楽しみ下さい。
作品内の時間も(リアルの時間も)経過しているため、様々な変化(と言う名の設定齟齬)があるかもしれません。おおらかな気持ちでお読みいただければ!
ではスタートです。
ラムネに転移門を開いてもらい、オッゴへ到着した。ここは神樹がある広場の目立たない場所。以前は聖域と呼ばれ、入場が規制されてたけど、今は人々が集まる憩いの場所だ。
管理棟のある方向を見ると、三長老とエアリアルさんが、ベンチに座ってお茶を飲んでいる。なんか縁側でくつろいでいる老夫婦みたいでいいな。
「あっ、やっほーダイチ。今日は二人だけ?」
「こんにちは、エアリアルさん。残念ながら、リナリアは来ませんよ」
「ドルフィンシスターズだっけ? 最近のリナリアって、すごく忙しそうだよね」
学園を卒業してからも、歌手活動を続けているリナリア。マネージャーだったデイジーさんは、独立してリナリアの付き人になった。そんな流れで僕と正式に交際を始めたんだけど、痛めていた声帯が治っちゃったんだよね。スミレにも無理だったのになんでだろ? しかも見た目まで若くなってきたし……
それで再デビューすることになり、学園長のアプリコットさんと、元歌姫でバンダさんの妻カトレアさん。四人でユニットを組むことになった。ユニット名は僕の命名だ。なにせ活動拠点がイルカ島だから。
「ファーストコンサートはここでやりますから、楽しみにしていてください」
「我らも全面的に協力するからの」
「今から楽しみだ」
「うちわを大量に作っておかねばならんな」
三長老のみんな、気合い入りまくってるなぁ。リナリアたちが出演した卒業コンサートの時、ウーサンまで駆けつけてくれた。派手なハッピを着て、頭にはちまき、両手にうちわという姿で。なんかすっかりアイドルオタクになってしまった感じがする。
「それで、どうして今日は二人だけなの? スズランもいないじゃん」
「実はシアの両親に挨拶しようと思って」
「結婚の報告をしておかないと、次いつ会えるかわからないからな」
「ライラックとプリムローズのやつ、やっと帰ってきたのか」
「かれこれ十年ぶりくらいかの?」
「二人目も作らずフラフラと、のんきなものだ……」
そのぶん僕が頑張って、シアと子孫を増やしますから!
心の中で宣言しながら隣りを見ると、シアの頬が真っ赤に染まっていた。どうやら思考を読まれてしまったらしい。まったくもう、可愛いな、シアは。
「ほっほっほっ。相変わらず仲が良くて、善きかな善きかな」
「急ぎでなければ、賢聖たちの訓練所へ行ってやれ」
「みな会いたがっていたからの」
「わかりました、挨拶してきます。じゃあ行こうか、シア」
「うむ。では失礼しますエアリアル様、長老様」
「またねー」
シアに手を差し出すと、そっと指を絡めてくる。三長老たちの生暖かい視線を背に受けながら、僕たちは神樹広場をあとにした。
◇◆◇
石切り場のような区画へ行くと、威勢のいい声や爆発音が耳に届く。なんか岩山の上からヒーローが現れたり、背後で爆煙の上がりそうな場所だ。
「あと五周、しっかり付いてこい」
「くっ……はぁはぁ。頑張ります」
「そこ、声が小さい! もう一度初めからやり直せ」
「はっ、はい。ラディッシュ様」
「そこのあなた、腕の角度が違いますわよ。決めのポーズはこうです」
「わかりました、エシャロット様」
えっと……これは魔法の訓練?
先頭を走るのは、赤いマフラーを首に巻いたユーフォルビアさん。その後ろを若いエルフの男女が、今にも倒れそうな顔でついていく。トラックの中央付近には、腕立て伏せや腹筋をしてる人。
ラディッシュさんの近くにいるのは、発声練習をしたり声を合わせてなにか叫ぶ人たち。そしてエシャロットさんの近くでは、一列に並んだエルフたちが、変身ポーズみたいな練習してる。
ここってアクション俳優やスタントマンの養成所なのカナ、なのカナ。
「ねえシア。これがエルフ流の魔法訓練ってやつ?」
「少なくとも私が国にいた頃は、こんな訓練法じゃなかったな」
やってることが体育会系すぎるよ!
そりゃあ迷宮に入って活動するため、体力づくりをするのは正しいことだ。でもさ、エルフの特技って魔法じゃないの? それがどうしてこんな事に……
「やあ、ダイチ君じゃないか。キミも一緒に走るかい?」
「用事の途中なので遠慮しておきます」
「それは残念だね。ハハハハハ」
あのユーフォルビアさんが、爽やか系のキャラになってるー!?
若い頃にその性格を発揮できていれば、異種族ハーレムも夢じゃなかっただろう。
僕がそんなことを考えていたら、立てた二本の指をサッと振り、ユーフォルビアさんが走り出す。なんか「アデュー」って声が聞こえてきそうだ。
「ダイチじゃないか、久しぶりだな」
「ご無沙汰してます、ラディッシュさん」
「オルテンシアも来たのね。歓迎するわ」
「こんにちは、エシャロット様」
ちょうど休憩時間になったらしい。二人の賢聖がこっちへ来てくれた。なんかむちゃくちゃ注目されてるぞ。きっとシアが可愛いからだね!
「どうして人族が賢聖様と親しげに」
「隣りにいるやつ、ダークエルフじゃないのか? どうやってこの国に入ってきたんだ」
「バカ、長老様たちが言ってただろ。あれは死を乗り越えた者だけが到達できる、ハイエルフって進化系らしい。大賢者エトワール様と同じだそうだ」
「マナの量が大幅に増えるって話だけど、そんなバクチは打ちたくないよね」
「隣の子は、ただの人族だよな?」
「私、あの子が戦略級超広域極大魔法を撃った時、砦にいたよ」
「じゃあ、アレがゼーロンの荒野を火の海に変えた、伝説の破壊神!!」
やめて!? 破壊神とか呼ばないで!
あれは僕一人の力じゃないんです。ここにいるシアも手伝ってくれたんだよ。
「外野の声は放っておけ。それより最近、合体魔法のアイデアに詰まっていてな。なにかヒントを貰えないか?」
「前に教えていただいた、雨と雷の魔法がありましたでしょ。あれはビビビッっときましたわ」
「えっと……じゃあ粉塵爆発を使った、魔法の強化とかどうでしょう。狭い迷宮内で使うと、効果抜群だと思うのですが」
僕は二人に粉塵爆発の仕組みを教える。可燃物のほうが効果的だと教えたら、魔法で木くずを作り出してみるらしい。僕も賢聖の魔法は見たことないから、ちょっと楽しみだ。
〈木屑の濃霧〉
〈引火〉
広い場所へ移動した二人が、岩山へ向かって魔言を唱える。二次元バーコードのような魔紋が構築されていき、一周したところで魔法が発動。やはり賢聖だけあって、魔紋の完成も速い。
そして魔法が炸裂した瞬間、二人は腕をクロスさせた。
「「合体魔法、ダスト・エクスプロージョン!!」」
ちょっと待って。そのポースいるの?
お互いの魔法を時間差で発動させ、十分に粉塵が集まってから着火させた手腕は、見事だと思うんだけどさ……
――チュドォォォォォォーーーン
「おぉぉー、さすが賢聖様」
「うひょー、かっけー」
「息ピッタリなお二人の姿、シビレルわぁ」
あっ、必要だったんですね、あれ。見学していた若いエルフたちは大盛りあがりだ。そうか、みんなが訓練していたのは、これをやりたかったからか。それなら僕からなにも言うことはない。そっとしておこう。
「ほう。たったこれだけのマナで、この威力か」
「なかなか素晴らしいですわ! 感謝しますよ、ダイチ」
「喜んでもらえたのなら何よりです」
「これは、なにか礼をせねばならんな」
「それならいい案がありますわ。エトワールからダイチの特技を聞きましたの。こう見えて私、化粧とか得意ですから、喜んでもらえると思うわ」
ちょっと待った。嫌な予感しかしないんですが!
両手をワキワキさせながら近づかないでください、エシャロットさん。
っていうか、助けてよ、シア。
えっ? 賢聖には逆らえない!? そうなんだ、それなら仕方ない……なんてわけあるかー!!
いやいや、そんな事されても僕は喜ばないってば。お願いですから、それだけは勘弁してください。
ちょっ、ユーフォルビアさんまで参戦するの?
鍛えまくってるせいか、むちゃくちゃ力が強くなってるぞ、この人。
ダメです、いけません、そんなところ触らないで……
――アッー!
次回、オルテンシアの両親が待つ実家へ。
「里帰り編:第2話 オルテンシア家の3乗」をお楽しみに。




