レジーナ編:第1話 畑作り
お久しぶりです。
去年の10月頃から色々ありました……(遠い目
とりあえずストック無しで不定期更新していきます。
まずは大精霊レジーナ編から!
う~ん、今日もイルカ島はいい天気。空を見上げた僕の顔に、南国特有の日差しが降り注ぐ。ちゃんと帽子をかぶらないと、熱中症になっちゃうな。
「おとーたーん、きがえてきたー」
「早かったね、ユグ」
「いちおねーたんに、てつだってもあったの」
とてもいい笑顔でユグの着替えを手伝うイチカの顔が、僕の脳裏をよぎる。この先も子供が増える予定だから、彼女にとってはパラダイスに違いない。僕は毎晩大変だけどね! 亜鉛やマカなんとかが欲しい……
「ダイチ……着替えてきた」
「やっぱりノワールは、どんな服でも似合うなあ。パンツスタイルも着こなせるなんて、思ってなかったよ」
普段はゴスロリ系の黒ドレスを着ていることが多いので、サロペット姿のノワールはとても新鮮だ。バンダさんが作ってくれた黒いクローシュをかぶり、日差し対策も万全。なにげに断熱と遮光が、付与されていたりする。
なにせあの人が衣類を作ると、最低でも二つ以上の効果が付いてしまう。うっかり力を込め過ぎると、効果が五つ以上ついた幻想級だ。ベビー服に防護・緩衝・退魔・悪滅・温調・柔和・速乾が付いてて、思わず二度見したよ!
あの人は一体なにと戦ってるんだろう……
「おとーたん、ゆぐあ? ゆぐあ?」
「ユグもすごく可愛い。頑張るぞーって気合が、服装から伝わってくる。今日はお母さんのお手伝い、いっぱいしようね」
「あいっ!」
ユグは水色のスモックと、黄色いクルーハット。日本でよく見る幼稚園児と、同じ格好をしている。アホ毛の位置に穴が開いてるらしく、帽子から飛び出してるエメラルドグリーンの髪がアクセントに。
体格が三歳児くらいだから、無茶苦茶似合ってるんだよね。イチカが興奮するのも無理はない。もちろんこれも、バンダさんの作品だ。帽子はノワールと同じ効果で、服は怪我をしないよう、防傷と保護の付与つき。防護より一段落ちるとはいえ、中級モンスターの攻撃くらいなら、この服でも防げる。平和なイルカ島で暮らしているのに、なにかがおかしい……
「……お待たせ、ダイチさん」
「よし、みんなそろったし行こうか」
僕の右にノワール、そしてユグとニナ。横並びで手をつなぎ、森の中にある遊歩道を歩く。しばらくすると、大きく開けた場所に出た。ナルキッソスさんは来てるかな……っと、あそこか。
「おはようございます、ナルキッソスさん」
「えっと、おはようダイチくん。それとノワールちゃん、ユグちゃん、ニナちゃん」
やっとウイッグなしでも話せるようになったナルキッソスさんが、挨拶を返してくれる。だけどまだ微妙に距離を開けられるんだよね。それでも大きな前進といっていい。
「今日は早いですね」
「やっと朝日で起きられるようになったから」
ガーデニングの趣味に目覚めたらしく、昼夜逆転生活だったナルキッソスさんも、普通の生活が出来るようになった。生活時間が合いだした頃から、時々お酒を飲みに家へ来る。それもあって男の僕にも慣れてきたんだろう。まあ一番最初に来た時、アイリスに凝影で拘束され、荒療治を受けたんだけど……
両手をワキワキさせながら近づくとか、どう考えてもやりすぎでした。酔った勢いって怖いね!
最後はうつろな目をしてたのに、よくトラウマにならなかったものだ。
「ゆぐとおんなじ!」
「……ユグちゃんは日の出と同時に目が覚めるから、偉いね」
ニナに褒められたユグが胸をそらす。やっぱり僕の娘は、世界一かわいい!
「私お姉ちゃん……なのに、時々ユグに……起こしてもらう」
「僕もよく起こしてもらうから同じだよ、ノワール」
「みんなおこすの、ゆぐのやくめ」
ユグの元気な声で起こされると、眠気なんて吹き飛んでしまう。だからみんな、起こしに来るのを待ってたりする。なにせイチカが手を焼いていたアイリスですら、ユグにかかれば朝寝坊知らず。ちなみにバンダさんの場合、いつまでも寝てると搾り取られるらしい。吸血族は朝が弱いんだから程々にね、カトレアさん。
そのことを思えば、一人で起きられるナルキッソスさんは凄いのかも。
おっと、そんなことを考えてるうちに、新しい畑を作る区画に到着。今日も頑張りますか!
「……ここでお芋さんを育てたいの。今日は土を耕して肥料をまくね」
「耕すの……私がやる」
「ゆぐは、おいもさんのごはん、よういすうー」
ノワールはミカンを近くに呼び、ユグはラムネの方へ近づく。
〈カルティベイト……フィールド〉
「あむたん、ごはんだして」
魔紋がノワールの周りに構築され、地面についた手を起点にして土が撹拌される。そんな光景を見ているうちに、ユグの近くに肥料の麻袋がいくつも並ぶ。
精霊であるノワールが魔法を使う姿、やっぱりなんど見ても不思議だ。しかも僕より細かい制御がうまい。彼女が持ってる親近ってエクストラスキルは、ちょっと反則すぎだよ。弱体化パッチで下方修正されそう……
「それじゃあ肥料をまいて、畝を作っていこうか」
くだらない思考は破棄し、ラムネに出してもらった鍬で、ニナと一緒に土を盛っていく。初めのうちは曲がってしまったり、途中で崩れちゃったりしたけど、最近になってやっと板についてきた。継続は力なりってやつだね。
「おっきくなーえ、げんきになーえ」
「栄養いっぱい……愛情いっぱい」
「二人ともノリノリだなぁ」
「……最近のノワールちゃん、すごく元気になったね」
「二人とも、まぶしすぎる。直視してたら、灰になりそう」
ちょっ!?
この世界で暮らす吸血族は、そんな古典的体質じゃないでしょ。温泉に溶け込むようになった精気のおかげで、力がみなぎってるとか言ってませんでした?
今のナルキッソスさんなら、アスフィーの聖属性攻撃でも、受け止められますって。
「……二人とも、そんなに走り回ったら、どろんこになっちゃうよ」
「おとーたんとおんせんいくー」
「ダイチに……洗ってもらう」
ほとんど汗をかかないニナやナルキッソスさんと違い、僕たち三人はすでに汗だくだ。汚れてなくても温泉コースは確定ってことで、着替えもちゃんと用意してる。ラムネに温度調節をお願いしてもいいんだけど、やっぱり子どもたちには自然の中で活動してほしい。
もちろん僕だって同じ。エアコンに頼りっきりだと、体がなまっちゃう。それに汗水垂らして作業するほうが、達成感を得られるし!
電動ファンの付いた服が欲しいとか、ちょっと思ちゃうけど……
とにかく仕事の後に愛娘たちと温泉三昧。幸せと贅沢を同時に満喫できる、最高のひとときだからね。そんなご褒美が待ってるから、僕は頑張れる。
「いっぱいお手伝いして、ゆっくり温泉に入ろうね」
「うん!」
「あい!」
「……なんか畑作りより、温泉がメインみたい」
「ダイチくんって、本当に温泉が好きだなぁ」
なにせ元日本人ですから!
そんなやり取りをしつつ、畑作りに精を出す。フカフカの土と肥料を混ぜながら、畝を何本も作っていく。それが終わったら近くで育てていた花や木を、ナルキッソスさんが作っている庭園へ植え替え。そっちの手入れは本人に任せ、家へ戻るニナと別れて僕たちは温泉に。
◇◆◇
脱衣場の扉を開けると、透き通ったロイヤルブルーの髪が目に入る。相変わらず、力の無駄遣いをしてるなぁ……
「お待ちしておりました、ダイチさん」
「やっぱりいましたね、ナーイアスさん」
「なーおねーたん、いあっしゃい」
「一緒に入ろ……ナーイアス」
「こんにちは、ユグちゃん、ノワールちゃん。今日も一緒に温泉を楽しみましょう」
この流れは止められないし、毎回のことなのでもう慣れた。僕はバンザイさせたユグの服を脱がせ、裸になったノワールの頭から湯浴み着をかぶせる。自分も腰に布を巻いてからパンツを脱ぎ、温泉側の扉を開く。
「なんだかダイチさんの反応が淡白すぎます。これが倦怠期とかマンネリ化というものなのでしょうか。このままでは夫婦の危機が……」
「そんな事はありませんから、心配しないで下さい。ただ僕にとって、ナーイアスさんと一緒にいることが、日常になっただけですよ」
「それは私の存在が、ダイチさんに同化したということですね。では、このまま体も繋がりましょう!」
子どもたちがいるんですから、変なこと言うのはやめて下さい。教育に悪いじゃないですか。
「隣りに座ってもいいですから、早く入りましょう」
「うふふふふふ、ではごちそうになりますね」
ごちそうさまでなく、ありがとうでしょ。精気はいくら摂取してもいいですけど、僕は食べ物じゃありませんよ?
満面の笑みを浮かべるナーイアスさんに突っ込むのも野暮なので、そのままユグとノワールの体を洗ってしまう。僕もお湯で汗を流してから湯船へ。隣りに座って腕を絡めたナーイアスさんの髪から、余剰精気がサラサラとこぼれだす。
「やっぱり綺麗ですね、その髪」
「なーおねーたん、きょうもひかってう」
「キラキラして……ちょっとうらやましい」
「ノワールちゃんの濡れた髪も、陽の光を反射して、とても美しいですよ」
迷宮解放同盟にいた頃、ノワールの髪は夜の闇を思わせる黒だった。日本人形みたいで、とても可愛かったけどね。生まれ変わった今の姿は、シャンプーのコマーシャルに出てくるような、艶のある黒髪だ。今はしっとり濡れてるので、その美しさが余計に際立つ。
「前に住んでた世界では、黒い色の人が多かったから、ノワールの髪を見るとすごく落ち着く。僕はとても好きだよ」
「ダイチに気に入ってもらえるの……うれしい」
並んで座っていたノワールが、僕に抱きついてきた。膝の上にいるユグと一緒に、頭をゆっくり撫でる。
「なーおねーたんのかみも、さわっていい?」
「ええ、遠慮なくどうぞ。よろしければダイチさんも撫でて下さい」
そんなに物欲しそうな目で見られたら、撫でるしかないじゃないですか。反対側の腕を伸ばし、ナーイアスさんの頭へ手を置く。
「なんか今日は、一段と余剰精気が出てませんか?」
「ユグちゃんの本体が成長して、この温泉にも精気がたっぷり含まれるようになりました。それに加えてダイチさんが、直接触れてくださってるのですよ。これくらいの余剰精気が出るのは、ある意味当然です」
オッゴにいる神樹から宝玉をもらって以降、ユグの成長が速くなってるんだよね。意識体の姿に変化がないのは、きっと精神的な発達がゆっくりだからだろう。でも本体の樹は、この島で一番大きくなった。テラさんによると、温泉に精気が溶け込むようになったのは、ユグの根っこがそこまで伸びたかららしい。
「ユグはえらい……とってもすごい」
「のあおねーたんのまほうも、すごかったよ! つちが、ぶわーってなうの」
畑作りのことをナーイアスさんに報告しつつ、僕はノワールの魔法を思い出す。スズランの場合、自分の子供でもあるサクラたち精霊に、お願いを聞いてもらうことは出来る。しかしそれはあくまでも、僕の代弁者として。だから属性魔法を使おうとすれば、僕の周りに魔紋ができてしまう。
ノワールが自分の力で魔法を発動できるのは、やっぱり精霊と人の間に生まれた子供だから?
もし普通の精霊とは違う存在なら、人と同じように成長できるかもしれない。
「そうだナーイアスさん。レジーナさんに連絡することって、出来ないんですか?」
「私たち四人が力を合わせても、次元を超えて話をするのは無理です。恐らくクノッソス様でも、出来ないでしょう」
「そいえば大氾濫の時も、神様の力を集めてるって言ってましたね」
「ダイチ……レジーナに会いたい?」
「スズランやノワールのことをちゃんと紹介したいし、聞いてみたいことがいっぱいあるんだ」
「おとーたん、よんでみたあ?」
「うーん……レジーナさんに声を届けられるかな」
「ダイチさんが名前を授けた相手です。強く願えば、繋がるかもしれませんよ」
「そうですね、やってみます」
もしかするとユグの本体を経由して、僕の声を届けてくれるかも。入浴中の今なら、肌と肌が直接触れ合ってるし。
ユグを抱きしめながら両手を組み、祈るように声を出す。
「僕の声が聞こえますか、レジーナさん。また会ってお話がしたいです」
「はー、やっと呼んでくれた。ずっと待ってたんだからね。遅いよ大地くん!」
「……えっ!?」
突然後ろから声をかけられ、慌てて目を開ける。湯船のフチに立ってたのは、両腕を腰に手を当てて僕を睨む、大精霊のレジーナさんだった。
どれくらいの話数になるか、まだ不明です。
色々な答え合わせが行われていきますが、設定の矛盾や行き当たりばったりな展開が出ても、生暖かく見守って下さい(笑)




