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第6話 血を吸われてしまった?

 慌てて駆け寄ってくるシアの声を聞きながら、また失敗したと後悔する。子供だと思って完全に油断してたから、()われるままにしゃがんでしまった。離れなきゃって思って伸ばしかけた手は、力なく下へと落ちる。小さな女の子を拒絶するのは、なんか嫌だったから……


 首にチクリとした痛みが走ったけど、吸血鬼に噛まれたら仲間になるのかな。



「ダイチから離れるんだ!」


 〈炎の(フレイム・)――〉


「シア様、落ち着いてください。マスターなら大丈夫ですから」


「しっ、しかしスズラン、紫色の髪は吸血族の証。奴らは血を吸うことで眷属を増やすんだぞ!」



 あっ、こっちの世界でもやっぱりそうなんだ。太陽の下を歩けなくなったりするのは困る、買い物とかできなくなりそうだし。そういえば今は昼間なのに、この子は外に出ても大丈夫なんだ。確か高位のバンパイアに、そんな設定があったかも?



「……なっ、何よこの力は!? かっ、体が……熱い。それに、……お腹が」


「ねぇ大丈夫? いちおう健康には気をつけてたつもりだけど、もしかして僕の血でお腹壊しちゃった?」



 首筋に歯を立てていた女の子が、お腹を押さえながら離れていく。もしかして血液型が合わないと拒絶反応が出るとか!? 経口摂取だからそれはないかな。でも異世界人の血が、悪い影響を与えたとかだったらどうしよう。リョクの治癒スキルとか効くかな、それよりシアの作る薬のほうがいいかも。



「何か、が……体から(あふ)れて。このままだと私……………いっ―――――ッ!!」



 女の子はビクンと大きく体をのけぞらせたあと、糸の切れた人形みたいに崩れ落ちる。僕は慌ててその体を抱きとめた。うわっ、すごく軽くて小さい。ドレスのせいで体型がわかりづらかったけど、なんだか小学生を抱っこしてるみたいだ。



「どうしようこの子。気を失っちゃったみたいなんだけど……」


「それよりダイチは何ともないか?」


「うん、僕はいつもどおりだよ。力が抜けた感じもないし、陽の光に当たっても平気みたい」



 シアやスズランを見ても血を吸いたいって思わないから、吸血鬼にはなってないのかも。病気の潜伏期間みたいなのがあったら困るけど、スズランが平常通りってことは大丈夫なんだろう。それよりこの子をなんとかしないと。熱に浮かされてるように顔は赤いし、汗をかいて息も荒い。



「家の中から、どなたか出てこられたようですよ」



 スズランの声で家の玄関を見ると、黒髪で背の高い女性が出てきていた。背中の真ん中まである綺麗なストレートヘアで、紺色をした長袖ロングスカートのワンピースを着て、その上から白いエプロンを付けている。どこからどう見ても使用人って感じの女性だ。


 その人が玄関の扉を大きく開け、僕たちを招き入れるように手を屋内に差し出す。



「これは僕たちが入ってもいいってことかな」


「お邪魔してもよろしいのでしょうか?」



 使用人の女性は何も言わず、深々と礼をするだけ。もしかすると、言葉が出せない人かもしれない。あるいは宿屋のおばさんみたいに、肉体言語の使い手かも。


 ともかくこの子を寝かせたいし、家の中へ入ってみることにした。



◇◆◇



 女性の案内でリビングへ通され、ソファーの上に女の子を寝かせる。すごくシックな内装で、調度品とかはあまり置いてない。壁に大きな絵がかけられてるけど、三十歳くらいのすごいイケメンだ。口元から二本の牙が見えてるし、あれがお父さんなのかな……



「この世界に吸血族がいるなんて、初めて聞いたんだけど」


「歴史書にしか出てこないような希少種族なんだ。まさかこんな場所にいるとは思ってなかった。私がもっと気をつけていればよかったな。すまない」


「いやいや。何もなかったんだし、謝らなくていいよ。それで、どんな種族なの?」


「魔眼で人を操り、血を吸って眷属を増やすと言われている。もう百年以上前、各国が討伐に力を入れたので、すでに絶滅したと発表されたはずだ」


「ずいぶん昔、闇に魅入られた吸血族の一人が暴走して、各国で暴れまわったのが討伐された原因よ。私たちは静かに暮らしていただけなのに、いい迷惑だわ」



 ソファーに寝ていた女の子が起き上がり、シアの話を補足してくれた。顔はまだ少し赤いけど、呼吸はだいぶ落ち着いている。



「もう起き上がって大丈夫?」


「高位種族の私たちをナメないでちょうだい。あっ、あれくらいどうってことないわ!」



 さっきのことを思い出したのか、再び赤くなった顔を隠すように、そっぽを向く仕草が可愛い。そんな姿を眺めていたら、使用人の女性がお茶を()れてきてくれた。香りが良くてほんのり甘い、紅茶みたいな感じだ。お茶の種類なんてさっぱりだけど、かなりの高級品じゃないかな。



「それでダイチはどうなのだ、お前の眷属になってしまってるのか?」


「下等種族の分際でお前呼ばわりとは、いい度胸ね。私のことは〝アイリス様〟と呼びなさい」


「ではアイリス、再度質問だ。ダイチに一体何をしたっ!」


「私を呼ぶ時は様をつけなさい! 魔眼で無理やり言わせるわよ」



 あんまり喧嘩してほしくないんだけど……


 アイリスはちょっと偉そうだけど、なんだか憎めない。それに子供を相手に怒鳴ってるようで、シアのほうが悪者に見えてしまう。



「もしダイチにも効かなかったのなら、私も同様だぞ?」


「なら試してあげるわ。(ひざまず)いて私の靴をお舐め」



 金色の目を細めたアイリスから、なんだかとんでもない言葉が飛び出す。どこの女王様だよ。子供体型なんだから、ムチとかボンテージとか絶対に似合わない。



「何かやったのか? そんなことは死んでもゴメンだぞ」


「……本当に効かないわね。一体どういうことなのかしら」


「恐らくですけど、魔眼は暗示や催眠の(たぐい)だからではないでしょうか」


「ほぼ正解と言ったところかしら。胸が大きい割に優秀ね、褒めてあげるわ」



 なるほど。ここへ調査に来た人たちが書類をなくしたり、誰かに会ったことを覚えてないのは、そのせいだったのか。


 だけど胸の大きさと知能は、関係ないと思う。あっ、シアがちょっと落ち込んでる。知識を追い求めてたから大きくならなかったんじゃないよ。大丈夫、大丈夫だから!



「それより自己紹介したいんだけど、いいかな」


「なぜ私が下等種族の名前を覚えないといけないの? 下男、巨乳、無乳で十分じゃない」


「くっ……自分もそれほど変わらないだろうに」


「何か言ったかしら」



 さっきから話がぜんぜん進まない。だからシアも恨めしそうな顔でスズランを見ないで、妖精プロポーションって貴重だよ?



「そんなこと言わずに覚えてよ。名前で呼びあった方が、仲良くなれると思うからさ」


「ふんっ、仕方ないわね。特別に聞いてあげるから、光栄に思いなさい」



 やっと自己紹介にこぎつけられた。


 僕はもう疲れたよ。テレビの最終回特集でよくやってる、犬と少年のアニメを思い出す。空から天使が降りてきそう……


パ○ラッシュ、僕はもう疲れたよ

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