第7話 賢聖の力
過去話にも誤字報告、ありがとうございました!
初っ端から残りまくってたw
賢聖の二人は最も外側に位置する、第一防壁へと移動していた。大地が放った魔法の影響で砂塵が降り積もり、一部の警備兵たちは掃除と点検に追われている。
「防壁に被害が出ていないようで、何よりですわ」
「威力は凄まじいが、優雅さに欠ける。しかも汎用性がゼロではないか」
「少なくとも迷宮内では使えませんし、制御が甘すぎてダメダメですわね」
冷静さを取り戻した賢聖たちは、大地が発動した魔法の欠点を次々発見していく。そして自分たちがもし同じ規模の魔法を発動できるなら、どう改良するのかをシミュレーションし始めた。こうした洞察力と、魔法に対する飽くなき探究心が、賢聖へと上り詰めた原動力だ。
「魔法というのは、規模や威力が全てではない。それを思い知らせてやらねばならん」
〈炎の矢〉
「一度の攻撃で息が上がるようでは、意味がありませんもの」
〈風の刃〉
一見すると世間話に興じている二人だが、合間合間で魔法を発動し、近づくモンスターを次々屠っていた。その姿を砦の警備員や探索者たちが、唖然とした表情で眺める。
「賢聖が魔法を使う姿、初めて見た」
「まるで息をするように魔法が発動してるぞ」
「一発も外さないなんて、恐ろしい精度だ」
種族スキルである【魔術】を使って構築する魔紋は、細かい制御がやりやすく発動も速い。その反面、精霊を介する場合と違い、集中力が必要だ。それは一般的なエルフ族の場合だと、立ち止まって相手をしっかり見つめなければいけないほど。
しかしラディッシュとエシャロットは、防壁の上を歩きながらモンスターを一瞥し、次の瞬間には魔法が発動していた。この技量には、さすがの同胞も驚きを隠せない。
「しかしダイチとオルテンシアの使った魔法、あれには学ぶべき点もある」
「ここで試してみましょうか」
二人は防壁の端に並んで立ち、前方でうごめくモンスターの集団を見据える。そして同時に魔言の詠唱を開始。周囲に帯状の模様が構築されていき、マナの流れが着ている服をバタバタと揺らす。
〈火の球体〉
〈風の爆弾〉
ラディッシは火魔法に適正があり、エシャロットは風魔法が得意だ。その二人がマナをつぎ込んだ魔法は、弧を描きながらモンスターたちの中央へ落下していく。
「「合体魔法、フレイム・バースト!!」」
二人は魔法が完全シンクロしたことを確認し、着弾点へ向かってお互いの腕をクロスさせた。打ち合わせもなくこんな芸当ができるのは、土地神であるエアリアルへ挨拶するため、何度も繰り返した練習の成果である。
――チュドォォォォォォーーーン
膨大な熱量を持った火球に風の爆弾が当たり、その威力を何倍にも増加。放射状に広がった炎が次々モンスターを飲み込み、跡形もなく消してしまう。
それはエルフ族に、新しい魔法の概念が生まれた瞬間である。
◇◆◇
遠くの方で上がった火柱はノヴァとエトワール、そしてカメリアからも見えていた。三人が立っている場所の奥には、視界を埋め尽くす黒い帯。そこはモンスターの密度が一番高い場所だ。魔皇バードックと獣王ガムボウ、そして大地とオルテンシアは別の密集地へ向かっている。
「へー、賢聖もやるもんだね。あれはダイチとオルテンシアの魔法を、擬似的に再現したんだろうさ。こりゃハイエルフとして負けてられないよ」
「張り切るのはいいが、他の連中を魔法に巻き込むなよ」
「モンスターは本能のまま突っ込んでくるけど、人は魔法を見たら逃げるもんさ。だから大丈夫だって、あはははは」
テンションが上りまくっているエトワールを見て、ノヴァは肩をすくめた。彼自身もひしめき合うモンスターを目の前にして、同じ状態になっていたからだ。
なにせ二人が最強を目指したのは、前回の大氾濫で力不足を痛感したから。そこからノヴァは全ての種族スキルを進化させ、エトワールはハイエルフへ転化した。その力を同じシチュエーションで試してみたい、そう思ってしまうのは無理からぬことであろう。
「それにしても、このあたりは障害物が多いね。魔法が打ち込みにくいったらありゃしない」
「俺がモンスターに突っ込みながら、クラウドで壊してやろうか?」
『あそこにある岩山は、さすがに拙者とノヴァ殿でも難しいでござるよ』
「それならボクがやってみるよ」
ツヴァイヘンダー型の魔剣を顕現させ、カメリアがなんでもないふうに言い放つ。遠巻きに眺めていた探索者たちは、その言葉を聞いてざわつく。
「あの魔人族、いったい何者なんだ?」
「特級探索者の腕輪をしているが、初めて見る顔だ」
「あの若さで特級とか、なにかの間違いなんじゃ……」
「ノヴァさんの弟子とかいう噂だぞ」
「マジか!?」
「それなら納得できるな」
「そりゃ面白い。この辺を焦土にしなけりゃ、なにやってもいいって言われてるからな。多少無茶やっても、プリムラのやつが責任取ってくれる。お前の新しい力ってのを見せてくれ」
「うん、わかった!」
その時、トロッコ列車に乗って地下を移動していたプリムラが、くしゃみをしたのは余談である。
カメリアはノヴァたちから離れていき、首にぶら下げていたペンダントをそっと取り出す。これは大地からのプレゼントで、中央にはブリリアント・カットされた赤い宝石。光を反射してきらめくそれは、情熱石と呼ばれる迷宮産の貴石だ。
カメリアがペンダントトップを握りしめると、宝石が赤く光りだす。そしてその光が、カメリアの全身を包み込む。
「それじゃあテラさん、お願いね」
「カメリアちゃんのおっぱいを堪能したからぁー、フルパワーで頑張っちゃうぞぉー」
胸元から顔を出したテラを見て、探索者たちが一斉に羨ましそうな顔をする。そんな視線は気にもとめず、テラは初期装備の宝珠を手に、カメリアの前へ浮かび上がった。
〈地脈接続〉
カメリアを包み込んでいる光は、精霊の加護を一時的に高める。つまりそれはメロンの持つ身体強化を、大きく引き上げることに等しい。これも大地の想いが影響を及ぼした効果だ。そんな彼女の剣にテラがさらなる力を与え、同時にリナリアの奏でる歌も届く。
星の力を得たカメリアが、魔剣を振り下ろす。
「いっくよー、地裂斬ッ!!」
――ドゴォォォォォォーーーン
莫大なエネルギーを纏った刀身に、[重撃]と[粉砕]の力が加えられ、地面に一本の亀裂を生む。暴れだそうとする力を強引にねじ伏せ、カメリアは全てを前方へ解き放つ。
すると地面が大きく鳴動し、亀裂がどんどん伸びていった。地盤が端から崩れだし、底の見えない裂け目にガラガラと飲み込まれる。そうして広がっていく地割れは、地上にあるものを容赦なく叩き落とす。
モンスターたちは突然足場を失い、なすすべなく深い闇の中へ落下してしまう……
「凄いなこりゃ! 俺もやってみたいぞ」
『拙者ではこの衝撃に、耐えられそうもないでござる』
「あんたは真似するんじゃないよ。あんなトンデモ技は、魔人族の肉体強度に精霊の加護がないと、耐えられないだろうしね。いくら鍛えたって、カメリアを超えるのは無理さ。神の力なんて使ったら、あんたの体はバラバラになっちまう」
「お前を残して先に逝ったりしないから、心配すんな。それにクラウドを壊す気もない」
そんな大技を決めたカメリアは、フィギュアに宿ったテラとハイタッチを交わしていた。嬉しそうに微笑むその姿は、どこにでもいそうな元気少女だ。
しばらくすると地響きとともに亀裂が狭くなっていき、目の前にはきれいにならされた一本道が出来上がる。後方で成り行きを見守っていた探索者たちは、その光景を唖然と眺めているだけであった。
地脈接続なのに、ルビはおっぱい力w
次回は主人公グループの視点が移ります。
そしてクロウから……
「第8話 右翼戦線」をお楽しみに。




