第18話 仕切り直し
仕切り直しということで、少し休憩を挟むことになった。ユグは三長老の膝へ座り、むちゃくちゃ可愛がられている。炎の鉄槌の六人はイグニスさんと話ができて、とても嬉しそうだ。
「なあプリムラ。そろそろしっぽを離せ」
「やだ!」
「お前の嫌いな奴は、いなくなったんだろ? もういいじゃないか」
「だって、こんなに人がいっぱいいたら、緊張するもん。ガムボウ君のしっぽを離したら、三つ数えるうちに泣く自信がある」
それは自信って言えるのかなぁ……
「だー、くすぐったいんだよ! それに恥ずかしんだ。いい加減にしろ!!」
「あっ!?」
強引にしっぽを奪い取られたとたん、プリムラさんの目にみるみる涙が溜まりだす。あれは精神安定剤だったのか。うちのパーティーメンバーには獣人族がいないから、そんな効果があるなんて知らなかったよ!
「マスター。それはあの二人にしかない効果だと思います」
わかってるって。
スズランのツッコミに心の中で返事をしていると、しゃくりあげるような声が聞こえてきた。
「えっぐ……ガムボウ君……。……酷いよ……ひっく。なんでそんな意地悪……するの?」
「あー、わかった、わかった。もう好きにしろ」
「ほんと!? やったー!」
無事に安定剤を取り戻したプリムラさんは、幸せそうな顔で頬ずりを始める。
「なんか大変ですね、ガムボウさん」
「まあいつものことだ。それより、とんだ茶番に付き合わせちまったな」
「あっ、やっぱりあの人を追い出す目的だったんですね」
「あいつはいつも会議を引っ掻き回して、邪魔でしょうがないんだよ。お前らの住んでるイルカ島だったか、あそこが神の集会場になるって決まったときも、ゴネまくって大変だったんだぞ」
色々反発はあったと聞いていたけど、きっとあの人が難癖つけて煽ったんだろうな。今日もやたらと他国の同意を得ようとしていたし。
「正直、我が国も手を焼いていたんだ。しかし人脈のある彼を、なかなか追い落とせなくてな」
「こんなことが続くようなら、有事の際に問題が出ちゃうし、うちの上層部がブチ切れちゃって。それで諜報部のある国家保安局に、お鉢が回ってきたってわけ。そんなタイミングでこの事態でしょ。もうここで膿を出し切っちゃうしかないなって、ウーサンに協力してもらっちゃった」
「あやつが国を離れたタイミングで動かんと、色々妨害されるのは目に見えておるからな。アーワイチへ帰り着く頃には、支持者もろとも不祥事の海に沈んどるはずじゃ」
大人の世界って怖いなー。いや、僕も大人なんだけどさ。陰謀と策略の世界みたいなハードなのは、ちょっとお断りしたい。スローライフとまではいかないけど、僕はみんなで楽しく暮らしていきたいだけだしね。
「だけどなし崩し的に特級探索者を認定して、本当に良かったんでしょうか。皆さんと比べて、実績が全然足りてないと思うんですが」
「先程の資料を読ませてもらったが、神樹様の健康を取り戻してくれた件も含め、君たちの実績は必要十分といえなくもない」
「ですが、特級探索者の品位を汚すような真似、決して許しませんよ」
「はい、それは肝に銘じておきます」
賢聖の二人にも、認めてもらえたってことでいいのかな。相変わらず言い方には、ちょっと棘があるけど。
「俺とエトワールもそうだが、さっきみたいな輩にお前らの力を悪用されないためでもある」
「こうしてお膳立てしてくれたんだから、素直にもらっときな」
「イノーニ上級議員の俺から言わせてもらうと、お前たちの力はウーサン以外では扱いきれん。種を存続させるため他族の協力が必須な人魚族は、限りなく中立に近い。そんな場所でもないと、誰かの野望に火をつけてしまうからな」
なるほど、これは僕たちをウーサンの管理下に置くという措置でもあるんだ。国の理念にも完全中立ってのがあって、それを体現させたのがマーレ学園だもんな。そこに預けておくのが、一番安全ってことか。
「獣人族の俺から言いたいのは、強けりゃなんでもいい、ただそれだけだ。見たところ面白そうな力が目白押しじゃないか。問題が片付いたら、迷宮探索にでも行こうぜ!」
「ゼーロンの迷宮は入ったことがないので、その時はよろしくお願いします」
「儂も参加させてもらうのだ」
「そりゃ面白そうだな。俺たちも行くか、エトワール」
「国家の枠を超えた合同パーティーなんて、ワクワクしちまうね」
なんかとんでもないドリームチームに、なりそうなんですが。迷宮の最深部でも無双できそうですよ?
「魔剣と良好な関係を築ける人物に、悪いやつなどおらん」
「アスフィーちゃんの可愛らしさに、異論を挟むやつもおるまい」
「それにフィギュアという新しい表現法を、もたらしてくれているしな」
「お陰で、今まで冷遇されていた彫刻師が、脚光を浴びとるぞい」
「新しい技術は、国の宝じゃ」
「やはり動いて話ができるイグニス様は素晴らしい!」
色々な話を統合すると、僕たちは特級探索者になっておくのが、いいってことだよね。ここにいるみんなは、誰も反対してないんだし。
とにかく名に恥じない行動をしないと、ウーサンの品位を落としてしまう。アイドルや観光地はイメージが大切だし、これからは一層気をつけていかないと。
僕がそんなことを考えていたら、会議室へ新しいブレスレットが届けられた。みんなに配ってからはめてみたけど、やっぱり今までより重く感じる。これがプレッシャーか。
「一度は死すら考えた私が特級探索者になれるとは、これもダイチと出会えたおかげだな」
「ふふふふふ、吸血族の歴史に名を刻む存在になれたわね。なんだかとてもいい気分よ」
「今度お父さんとお母さんが眠る慰霊碑に行って報告しなくちゃ」
「ちゃっちゃとロータスの野郎を探し出して、カローラを取り戻そうぜ」
「ちゃんとできるか、リナリアちょっと心配なの」
「大丈夫ですよリナリア、あなたは一人じゃないのですから」
スズランの言うとおりだよな。これはみんながいたから、たどり着けた場所なんだ。だからなにがあっても、全員で乗り越えていこう。
――だってもう、僕はこの世界で生きて行くと、決めたのだから。
今まで揺れていた主人公でしたが、とうとう決意しました。
これで第13章が終了です。
次回はおなじみの資料集でお休みをいただき、迷宮解放同盟との決着がつく第14章へ進みます。




